↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 6「力と責任と権力と」
PR
22/25

21話 「Trick of Rebellion」

 ――『ベオウルフ』、会議室。

 円卓を囲むのは、ウルフパックの面々。上座に座るタクマの前には、各員が持ち寄った報告が、静かに積み上げられていく。

「じゃあ……順番に、聞かせてもらえるかな」


「まず、大前提から話しておこうかの」

 まず口を開いたのはアレクシア。

「貴族への、理由なき手出しは。……この国に於いても、当然、罪じゃ。相手が伯爵ともなれば、尚のこと」

「まぁ、そりゃそうだよね」

「じゃが――問題は、その先じゃ」

 視線が、彼女に集まる

「仮に、こちらに正当な理由があったとて。憲兵――この国の、治安を預かる組織。これが、貴族の権勢を恐れて、捜査には及び腰でな。……手を出したがらぬ」

「……つまり」

「……たとえ罪を犯した貴族であっても。財力や権力で揉み消される事が多い。悲しいがの、それがこの国の、常じゃ」

 法があっても、それを執行する者が動かねば、意味はない。

 ――貴族社会の、腐敗の縮図。それを、アレクシアは、経験から知っていた。

 自国で見た物に加え、流浪の旅で、数々の苦しみを、見て来たから。


「――で、その『財力』『権力』ってやつだが」

 次に口を開いたのは、AC。椅子を後ろに傾け、気だるげに腕を組みながら。

「コール伯爵の影響力ってのは、相当なもんだぜ。表だけじゃねぇ。裏社会にまで、しっかり根を張ってやがる」

 だが、と言わんばかりに、ACは、にやりと口の端を吊り上げた。

「でもな、そういう成り上がりってのは、必ず古株の顰蹙を買う。……昔っから裏の世界で生きてきた連中からすりゃ、伯爵サマのやり口は、目に余るってわけだ」

「敵が、多いってこと?」

「そういう事だ。……で、面白ぇ噂も拾ってきたぜ」

 傾けていた椅子の前脚を、とん、と床に戻す。

「あまりの権力に酔っちまったのか――伯爵の野郎、クーデターを起こして、自分が王になろうとしてる。……そんな噂が、裏じゃ流れてやがる」

「……!?」

 その言葉に、会議室の空気が、僅かに張り詰めた。


「……その噂、あながち間違いでもないかも」

 言葉を継いだのは千瀬。

「コール伯爵の本拠地の町を、偵察してきた」

 思い出すように、口元に指を当てて、天井を見上げる。

「あの町、もう完全に要塞化されてる。城壁、見張り、巡回……堅すぎるくらいにね。正直、下手に近づけない」

 千瀬の目が、鋭さを増す。狩人の、目だ。

「探知系の魔術も、警戒しなきゃいけない。……未知の術で接近を嗅ぎつけられる可能性も、捨てきれない。だから、あたしも遠巻きにしか見られなかった」

「……」

「けど、それでも分かった事がある。……町に運び込まれる食糧と、資材の量。あれは、尋常じゃない。あの物量を養えるって事は――」

「相当の兵力を、抱え込んでるという事じゃな」

 アレクシアの言葉に、千瀬は、こくりと頷いた。

 ――要塞。私兵。そして、王位への野心。

 点と点が、繋がっていく。


「……サラは、どう?」

 最後に、タクマは、医療を預かる少女へと目を向けた。

「はい。……オーエンさんの容体は、安定しています」

 安堵の息を、一つ。だが、その表情は、まだ晴れない。

「ですが……治療には、慎重を期しています。無理にカプセルから出た反動も、ありましたから。後遺症の可能性を、少しでも減らすためには……あと一週間ほどは、掛かるかと」

「一週間、か」

「……申し訳、ありません。もっと早く、と思うのですが……」

「ううん」

 俯きかけたサラに、タクマは、静かに首を横に振った。

「オーエンを、ちゃんと治してくれる。それが、一番大事だよ。……焦らなくていい。ありがとう、サラ」

 その言葉に、サラは、ほっと肩の力を抜いた。


----


「――なぁ、いっそ簡単な話じゃねぇか?」

 報告が一巡した所で、ACが、冗談めかして口を開いた。

「要塞だろうが何だろうが、関係ねぇ。『ベオウルフ』の主砲で……一発で終わりだ」

「――却下じゃ」

 言い終わるより早く、アレクシアの、鋭い声が飛んだ。

「あの町には、何の罪もない民も暮らしておる。……その者たちを巻き込むのか?」

「……冗談だっての。俺だって、そこまで見境なしじゃねぇよ」

 肩を竦めるAC。だが、その口調が、ふと、真剣なものへと変わる。

「けどな。……その気になりゃ、俺ら『ウルフパック』には、国一つを丸ごと相手取れるだけの火力がある。いざって時ァ全アーデントを出して――」

「……それは、そうだけど」

 タクマは、静かに首を横に振った。

「アーデントで、真正面から実力行使する。……それは、最後の最後の手だと思う」

 指を組み、彼は、言葉を選ぶように続ける。

「僕たちのアーデントは、もう義勇ギルドに、しっかり顔を知られてる。派手に暴れれば、その責任は、確実に僕たちに降ってくる。……下手をすれば、犯罪者として指名手配だ」

「補給も、情報収集も、できなくなるね」

「うん。……それに」

 タクマの目に、静かな決意が宿る。

「この世界で、これからも活動していくなら。国そのものを、丸ごと敵に回すのは……できるだけ、避けたい。力で全部を薙ぎ払うのは、簡単だけど。それじゃあ、僕たちの居場所も、無くなっちゃうから」

 ――力がある事と、それを振るう事は、別だ。「居場所」を重んずるタクマらしい言葉。


「……ま、リーダーがそう言うなら、俺は従うぜ」

 ACは、それ以上、食い下がらなかった。


「とりあえず……今日は、ここまでにしよう」

 タクマは、部屋を見渡した。

「みんなそれぞれ、考えてみよう。情報が多い分、整理すべきだと思うしね」


----


 ――会議の、後。

 サラは、一人、廊下を歩いていた。向かう先は、ACの部屋。

 こつり、こつりと。控えめなノックの音が、扉を叩く。

「……あ?」

「私です。……少し、よろしいですか」

「……開いてる。入りな」


 部屋の中。頭の下で手を組んでベッドに仰向けになったACが、視線だけをサラに向ける。

「で、嬢ちゃん。何の用だ」

「……先ほどの、会議での事です」

 サラは、静かに切り出した。

「『ベオウルフ』の主砲で、伯爵を狙撃する。……あんな、過激な事を仰るなんて。あなたらしくない、と思ったのです」

「……あ?」

「付き合いは、まだ短いですけれど」

 サラは、真っ直ぐに、鋭さを増すACの視線に、自身の目線を合わせる。

「私の見てきたあなたは。……口は悪くても、根は、とても心優しい人です。仲間を守る事を、いつも一番に考えている。……そんな人が、無関係な民を巻き込む案を、たとえ冗談でも口にするなんて。何か、あるのではと」

「……はっ、そうかよ」

 ACが、吐き捨てるように。

「嬢ちゃん。……あんたはまだ、俺の本性ってやつを、知らねぇんだ」

 その目に、炎のような物が灯った気がした。

「俺はな、根っからのロクデナシだ。……優しい? とんでもねぇ。だがな――」

 その声に、一瞬。冷たい熱が、宿った。

「恩人を、傷つけられたんだ。……許せるわけが、ねぇだろうが」

「恩人……オーエンさんの事、ですか」

「……ああ」


「……その事情を、聞かせて頂けませんか」

 サラは、そっと、一歩、歩み寄った。

「あなたが、そこまで言う理由。……オーエンさんと、あなたの間に、何があったのか。……知りたいのです」

「……まぁ、隠すほどの事でもねぇ。……積極的にしゃべりてぇわけでもねぇがな」

 ACが目を閉じる。

「……昔な。ヤツに助けられた、どうしようもねぇ男がいてな」

 それは、まるで、他人の話をするような口ぶりで。

 だが、その声には、確かな重みが、こもっていた。


----


「昔の俺はな。……ヤクザの、若頭だった」

 深く息を吐きだす。

「金が要る事情があってな。……手っ取り早く稼ぐために、身代金目当ての誘拐を、企てた。狙ったのが――すげぇ金持ちのお坊ちゃんだ」

「それが……オーエンさん」

「ああ。当時のヤツは、まだ社長じゃなかったがな」

 ACの口元に、苦い笑みが浮かぶ。

「捕まえて、脅しつけりゃ、震え上がって金を吐くだろう。……そう思ってた。だが、あの野郎は、違った」

 当時を、思い返すように。

「縛られて、転がされてるってのに。あいつは、まったく取り乱さねぇ。それどころか――冷静に、俺を、説得しに来やがった」

「説得……?」

「ああ。頭ごなしに『解放しろ』じゃねぇ。……俺たちの立場に立って、考えやがったのさ。『あんたらは、いくら要る。なぜ要る』ってな。……そのうえで、双方が損をしねぇ、妥協点を探し始めた。人質の分際でだ」

 ――理路整然と。最善を導き出す。

 それは、あの頃から、少しも変わらない。オーエンという男の、本質だった。

「馬鹿げてるだろ? だが……俺は、その話に、乗っちまった。この若造の言う通りにすりゃ、誰も損をしねぇ。……そう、思っちまったのさ」


「……それで、どうなったのですか」

「組が、黙っちゃいなかった」

 ACの声が、低く沈む。

「若頭が、人質と手を組んだ。……そりゃあもう、裏切り者だ。組全体から、反目されてな。……あっさり、破門よ」

 まるで今はない傷を撫でるように、自分の腕に手を当てる

「まぁ、当然の報いだ。……問題は、その後さ」

 ふっと、彼は、遠い目をした。

「破門で済むほど、優しい連中じゃねぇ。……口封じに、俺と、オーエンの両方を消しにかかりやがった。組の、武闘派を総動員してな」

「……!」

「――だがな。生憎、こちとら元・若頭だ」

 三白眼に、獰猛な光が、一瞬、宿る。

「襲ってきた武闘派を蹴散らして、あいつを担いで脱出したのさ。……もっとも、こっちも、ひでぇ有様だったがな」

 一見不可能であるその偉業、しかし、自分を守りながらギャングたちを蹴散らしたACの姿を知っているサラにとっては、あながち不可能とも思えなかった。


「ま、その後、オーエンが自分の息のかかった病院に、俺をぶち込んでな。手厚く、治療して……様々な所に手回しして……犯罪者だった筈の俺が、銀行の営業なんてお堅い仕事に就けてんのはな。全部、あの野郎のおかげだ」

 誘拐犯を、救った男。

 救われた、元・誘拐犯。

「……だからよ」

 ACは、静かに、締め括った。

「俺とオーエンは。……お互いが、お互いの、恩人なのさ」

 その横顔を。

 サラは、ただ、静かに見つめていた。

(「……やっぱり」)

 口は悪くても。根は、どこまでも。

 ――この人は、優しい人なのだと。改めて、そう思った。


----


 一方、その頃。

 タクマは、一人。ブリッジの窓から、流れる雲を、眺めていた。

(「……オーエン」)

 脳裏に浮かぶのは、いつも、あの男の姿だ。

 どんな窮地でも揺るがず、確かな指針を示してくれた、あの背中。


 ふと。

 タクマの記憶が、いつか、風呂でオーエンが語った、一つの昔話を。

(「……なぁタクマ。歴史ってのは、面白くてね」)

 徹夜明けの、気だるげな声で。眼鏡を、くいっと押し上げながら。あの男は、こう言った。

(「とある王朝に、無敵の将軍ってやつがいた。……戦えば負け知らず。国を、何度も、救ってきた英雄だ」)

 うろ覚えの言葉を、明確にするため、頭を回す。

(「その、将軍たちの、終わりはな」)

 その時のオーエンの声が、まるで隣で語りかけてくるようで。

(「……そのほとんどが。自国の、王による物だったのさ」)

 ――功績を上げすぎた将軍。

 その武力を、恐れた王。

(「勝ちすぎる、力を持ちすぎるってのはな。罪にもなるのさ。王は、自分より強く、名声がある者が傍にいるのが、危ないと感じる人種だ」)

(「だから根も葉もない噂を、あえて信じるふりをする……英雄を、死罪にするのさ」)

(「誰にも負けなかった英雄が。最後には味方の手にかかる……皮肉なもんだろう?」)

「……」


 ――権力。武力。それらが強すぎる者を。

 権力者は、恐れる。だからこそ、罪をでっち上げてでも、排除しようとする。

(「……そうか」)

 コール伯爵の、拡大しすぎた権力。裏社会の、顰蹙。王位への、野心の噂。

 ――そして。

(「……これなら」)

 タクマの中で。

 一つの、策が。静かに、その形を、成し始めていた。


----


 ――翌日。

 再び、会議室に集った面々の前で。タクマは、静かに、口を開いた。

「思いついた。……コール伯爵を、どうやって、追い詰めるか」

 驚きを以て、視線が集まる。

「大義名分さえあれば、僕たちの手で彼を何とかする事もできるんじゃないかって」

「えっ?」


「オーエンが、昔、話してくれたんだ。……強くなりすぎた将軍は、その武力を恐れた王に、ありえない罪をでっち上げられて、消される事が多いって」

「……ふむ」

 アレクシアの目が、僅かに、光を帯びる。

「コール伯爵は、成り上がりすぎた。裏社会にまで手を伸ばし、私兵を蓄え、要塞まで築いてる。……クーデターの噂まで、流れてるくらいだ」

 まるで老練の策士のように、タクマが言葉を紡ぐ。

「なら――王に、突きつけてやればいい。伯爵が、いかに危険な存在か」

 正面から行う必要もない。ただ横から、噂を――流してやるだけでいいのだ。


「……なるほどね。でも」

 口を挟んだのは、千瀬だった。。

「もしも、逆だったら? ……追い詰められたコール伯爵が、死罪を言い渡されて。それに逆上して、本当に、反逆した場合。……どうなるの?」

 ――クーデターの噂が、真実となる

 それは、全面的な内戦を意味する。


「――それは、それで。構わぬ」

 答えたのは、アレクシアだった。その口元には、静かな、笑みすら浮かんでいる。

「よいか、千瀬。……理由なき手出しは、罪じゃ。それは、昨日、話した通り」

 彼女は、指を一本、立てる。

「じゃが――もしも伯爵が、王に弓引く『反逆者』となれば。……話は、まるで変わる。反逆者の討伐は、罪ではない。それどころか、大義名分の付いた、正当な『戦』じゃ」

「……あっ」

「犯罪者を、処罰する。それには、何の後ろ暗さもない。……我らが手を下しても、誰にも、責められはせぬ。むしろ、感謝されようさ」

 ――追い詰めれば、良し。

 逆上して反逆すれば、なお良し。

 どちらに転んでも、ウルフパックは、正当性を失わない。


「ふふ……よう考えたのう、タクマ。これぞ、政というものじゃ」

 さらに言えば、『ウルフパック』が出れば、民を巻き込まずに力で押しつぶせる。

 戦火を止め、さらに自分たちの手で「復讐」を行える。まさに一石二鳥の策。


 ――かくして。

 ウルフパックの、行動方針は、定まった。

 力で、薙ぎ払うのではなく。

 法と、権威と。そして、敵の野心そのものを、逆手に取って。

 コール伯爵という男に、復讐する。


 ――計画は、動き出していたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。