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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 6「力と責任と権力と」
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20話 「Responsibility」

 ――その機体を見間違える筈もない。ずっと自分たちを守ってくれた頼もしいその背中は、千瀬の心に深く刻まれていたのだから。

 重装機『ロウメイカー』。オーエンの愛機。

「……!!」

 オーエンは、艦の医療カプセルの中にいるはずだ。生死の境を、彷徨いながら。それなのに――


「落ち着くのだ、千瀬。交戦活動はやめたまえ」

 外部スピーカーから響くのは、聞き慣れた、自信に満ちていながらも平坦な、あの声。

 だが――


(「……声、だけ」)

 完全な『狩人』へと立ち返った千瀬の思考は、酷く冷たく、そして鋭い。

 声だけならば、幾らでも作れる。オーエンならば――録音した音声を繋ぎ合わせ、合成する事など、造作もない。

 そして、それは彼をよく知るACも同じ。

 あたしを止める為に、機体を下ろし、オーエンの合成音声を使う。ACなら、そのような手は容易に使うだろう

(「……罠」)

 銃口は、揺るがない。寧ろ、周囲への警戒は、更に研ぎ澄まされていく。


「――ったく、こうしろって事なんだろう?」

 その、僅かな逡巡。

 張り詰めた気配の、ほんの一瞬の緩み。


 空気を切り裂く鋭い音。

 ACの『グレイヴン』――その腰部から射出された金属チェーンが、『アルティア』の両腕へと絡みついた。

「――っ!?」

 咄嗟に振り払おうとするが、遅い。チェーンは瞬く間に締め上げられ、銃を構えた両腕を、胴へと縫い留める。

「ACっ……よくも、騙してくれたわね……!」

 叫ぶ千瀬の声は、まるで牙を剥いた獣のそれ。

 だが、ACは、彼女の方を向いてはいなかった。

「……こういう事なんだろ?なぁ、オーエン……!」



 ゴォン。重い音を立て、『ロウメイカー』のコックピットが開いた。

 千瀬の視界が、否応なく、そちらへと吸い寄せられる。

 ――そこから、ゆっくりと。

 首に包帯を巻き、苦い表情を浮かべ。思いしあの人が、そこにはいた。

「……まったく、一日たりとも俺が休む事もできんとはな」


「オー……エン……?」

 合成された声ではない。作り物の映像でもない。

 傷付き、苦しんではいるが、それは確かに彼女が思っていたその人。

 その姿を、目の当たりにした瞬間。

 ――張り詰めていた糸が、音を立てて、切れた。


「オーエンっ!!」

 縛られたままの『アルティア』のコックピットから飛び降り、千瀬は、駆けた。

 そして――傷付いた男の胸へと、飛び込んだ。

「オーエン……オーエンっ……!」

「すまんな。心配をかけた」

「ごめっ……ごめんなさいっ……あたしの、あたしのせいでっ……!」

 泣きじゃくり、言葉にならない言葉を投げかける。

 ――オーエンのためのプレゼント。あの中に、暗殺者は潜んでいた。

 もっと注意していれば。もっと、警戒していれば。オーエンが、こんな目に遭う事は、なかった。

 その事実が、彼女の胸を、締め付けて、離さない。


「……お前さんが謝る事では…ない」

 オーエンは、空いている方の手を、そっと千瀬の頭に乗せる。

「責任、というのならば。……俺の責任だ」

 座り込んだ千瀬に、子供に語り掛けるように、しゃがみ込む。

「艦のシステムは俺謹製だ。今回の一件は、俺の魔術と言う物への予測が甘かったに過ぎない。まさか体積を縮小できるとはな…? だから、お前さんのせいではない」

 千瀬が泣き止むまで、それを抱きしめ、子供を宥めるように、オーエンはその頭をなで続けた。


----


 ――どうにか、千瀬が落ち着きを取り戻した頃。

「……悪いのじゃが、決めるべきものは決めねばなるまい」

 口を開いたのは、アレクシア。その表情は、硬い。

「千瀬の――処遇じゃ」

「処遇……?」

 問うのは、タクマ。

「理由が、どうあれ、じゃ。此度、千瀬はギルドの決定を無視し、単身で走った。それも――仲間へ、その武器を向けた。……これを不問とすれば、示しがつかぬ」

 その言葉は、冷たく聞こえる。だが、そこにあるのは私怨ではない。組織を、秩序を、憂う者の目だ。

「……」

 千瀬は、俯く。反論の言葉は、ない。事実、その通りなのだから。


 タクマは、判断を仰ぐように、オーエンの方へと目を向けた。

 ――こういう時、いつも道筋を示してくれる、その男へと。

 だが。

「……っ」

 次の瞬間。オーエンの膝が、崩れた。

「オーエン!?」

 咄嗟に、ACがその体を抱き止める。

「ちっ……無茶しやがって。傷が開いてなきゃいいがな」

 ぐったりと力の抜けたその体を、ACが抱え上げる。

 艦へ戻ろうと、踵を返した、その直前。

「……タクマ」

 掠れた声が、彼を呼び止めた。

「オーエン、喋るな!」

「……皆が、お前を。リーダーに、選んだ」

 制止を、遮るように。

 オーエンは、途切れ途切れに、しかし確かな意志を込めて、言葉を継ぐ。

「ならば……お前が、どんな決断を、下そうと。その責任は、お前一人の、ものじゃない。……皆の、ものだ」

 薄れゆく意識の、その中で。

 それでも彼は、最も伝えたい事だけを、絞り出す。

「だから……お前は。お前が、正しいと思う決断を、すればいい。……それだけ、だ」

 言い終えると同時に、その瞼が、静かに落ちる。

「……行くぜ。サラ、カプセルの準備頼むぜ」

『は、はいっ……!』

 ACがサラに通信で連絡すると、そのままオーエンを抱え、『グレイヴン』ごと引き上げられる。

 その後、他の機体も、次々とビームで引き上げられていく。


----


 ――『ベオウルフ』、医務室。

 再び治療カプセルへと沈められたオーエンを見つめながら、サラが、ほっと息を吐いた。

「……大丈夫。命に、別状はありません。容体自体は、安定しています」

「そうか。そりゃ良かった」

「ですが……」

 サラは、僅かに眉を寄せる。

「治療が、まだ終わっていなかったんです。……それなのに、無理に、カプセルから出て……」

 ――治療カプセルは、本来、治療が完了するまで、内部から出る事は出来ない。

 だが、このシステムを設定したのは、他ならぬオーエン自身。管理者たる彼には、それを、強制的に解除する権限があった。

 大事にならないのは、あくまでも結果論。一つ間違えれば……

「千瀬さんを、止める為に。……あの人は、自分の体の事なんて、後回しにしたんですね」

 その言葉に、千瀬の肩が、小さく震えた。


 ――沈黙を破ったのは、再び、アレクシアだった。

「タクマ。……決断を」

 逃れられぬ、問い。

「千瀬の処遇。……ギルドの主たるお主が、決めねばならぬ」

 視線が、タクマへと集まる。千瀬、AC、サラ、そしてアレクシア。

 ――タクマの脳裏に、先程のオーエンの言葉が、蘇る。

(「お前が、正しいと思う決断を、すればいい」)

 深く、息を吸い込む。

 そして、顔を上げた彼の目には、もう、迷いはなかった。


「……お咎めなしだ」

「タクマ!」

 声を荒げかけたアレクシアを、タクマは、静かな声で制する。

「僕たちは――『ウルフパック』は、家族だ。オーエンが、そう在れる場所を作ろうって言ってくれた。僕も、そう思ってる」

 一人ひとりの顔を、順に見渡しながら。

「家族なんだから、喧嘩もする。意見が、食い違う事もある。……でも、次からは、ちゃんと話し合おう。一人で、抱え込まないで」

 そして、千瀬の目を、真っ直ぐに見つめた。

「それと――家族には、二度と、武器を向けない。訓練とか、そういうのは別だけどね。……それだけ、約束してくれる?」

「……っ、うん。……うんっ……!」

 千瀬が、何度も、何度も、頷いた。


「……甘いのう」

 ぽつり、と。アレクシアが漏らす。

 幼き時より、国の政を。数多の陰謀と、裏切りを。その目に焼き付けてきた彼女には、タクマの裁定は、余りにも――理想論に過ぎた。

「情に流され、規律を曲げる。……それが、いつか、組織を内から蝕む事も、あるのじゃぞ」

「――そりゃ違いねぇ」

 口を挟んだのは、AC。腕を組んだまま。

「だがな、理想を語れんのは、若ぇヤツの特権だ。……大人はよ、いつの間にか『無理だ』って諦める事を、覚えちまうからな」

 その視線は、どこか遠くを見ている。

 ――裏の世界で。理想も、情も、幾度となく踏み躙られてきた男の、言葉だ。

「もしそれが、上手くいきゃ。そりゃ、最高の結果ってやつだ。……で、それを上手くいくように支えてやんのが。大人の務めってもんじゃねぇのか?」

「……ふん」

 アレクシアは、それ以上、何も言わなかった。

 ――ただ、その口元が、ほんの少しだけ、緩んでいた事に。ACは、気付かないふりをした。


----


 ――翌日。

 ブリッジに、四人が集められた。

 艦長席に座るのは、タクマ。その面持ちは、いつになく、引き締まっている。

「方針を、伝える」

 一同を見渡し、彼は、はっきりと言い切った。

「コール伯爵には。必ず、報いを受けてもらう」

 ――仲間を、手に掛けようとした者を。

 このまま、見過ごす訳にはいかない。それは、甘さではなく、覚悟。

「綺麗事じゃない。これは、復讐だ。……でも」

 一拍。

「今度は、皆で。全員で、生きて、やり遂げる。それが、条件だ」

 その言葉に、各員が、静かに頷いた。


「千瀬。……お前は、狩人だ。伯爵の屋敷、その周辺の偵察を頼む。気付かれずに、地形と、警備の様子を探ってきてほしい」

「ん、任せて。……こういうのは、得意だからね」

 昨日までの憔悴が、まるで嘘のように。千瀬の目には、もう、いつもの光が、戻っていた。


「アレクシア。ギルドの規則の確認と……必要なら、交渉を頼めるかな。伯爵に手を出す事が、義勇ギルド的に、どこまで許されるのか。抜け道は、あるのか。……君の知識が要る」

「うむ、任された。この手の政は、心得ておる」


「ACは、裏の伝手(つて)から、情報収集を。表からじゃ、探れない事も、あるだろうからね」

「へっ、俺の得意分野だな。任せとけ」


「そして、サラ。オーエンの事は――」

「はい。私の持てる知識の、全てを尽くします。……必ず、目を覚まさせてみせますわ」

 力強く、サラが応えた。


 ――てきぱきと、しかし、決して驕らず。

 仲間一人ひとりの得手を見極め、的確に、指示を割り振っていくタクマ。

 その姿を、アレクシアは、静かに見つめていた。

 ――危機の中でこそ、人は変わる。

 昨日、あれ程までに動揺し、迷っていた青年が。今は、確かな『リーダー』の顔をしている。

(「……似ておる」)

 脳裏に浮かぶのは。病床にありながらも、決して国を、民を、見捨てなかった、あの人の姿。

 ――ルフォンス皇帝、ヴァルト・オウガ・ルフォンス。父の、面影。

 その面影を、アレクシアは、今のタクマに、確かに見た。

「……ふふ」

 何処か満足げに、彼女は微笑む。

 そして、アレクシアもまた。他の三人と共に、己の為すべき事へと、歩き出したのであった。


また年月も空きましたが、加速の為AIと対話しながらやっていきたいと思っております。

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