第七話 一番星に誓う、強さと安らぎ
「勉強、栄養、睡眠。そして次に必要なものは……護身術ですわ!」
私は離宮の庭で、軽装に着替えたルシアン様を前に宣言した。冷遇されているとはいえ、彼はこの国の第三王子。自分の命は自分で守る術を身につけなければならない。
「ルシアン様、今日から『護身術』のお時間ですわ!」
「レオノーラ様……あの、その丸太を担ぐのは、護身術なのですか……?」
「いえ、これは道に転がっていたので、邪魔だと思って焚き火の材料に運んでいるだけですわ(※50kg超)」
私は丸太をポイと放り投げると、ルシアン様に練習用の木剣を手渡した。
(うん、ルシアン様は体術よりも、この線の細さを活かした鋭い剣術の方が向いていそうですわね)
「まずは素振り、二十回ですわ! 腰を落として、真っ直ぐに!」
私は教えながら、自分も横で剣を振るう。木剣の風切り音が、二人分重なって響く。
「そうそう! お上手です! 筋がいいですわ!」
褒めることは忘れない。けれど、ルシアン様が「もう無理」と音を上げるまでは、私も手を緩めない。
(優しいだけでは彼を守れませんわ。ルシアン様が限界に挑むなら、私もどこまでも付き合いますわよ!)
汗だくになりながらも、ルシアン様は最後の一振りまで木剣を下ろさなかった。十歳と七歳の剣の音は、夕暮れ時まで離宮の森に響き渡った。
訓練を終え、私は庭の芝生の上に大きな布を広げた。
「今日の夕食はここで食べましょう! ここから見る夜空は、とても綺麗なんですのよ」
温かいスープと香ばしく焼いたパンを頬張りながら、私たちは並んで夜空を見上げた。虫の音と、風に揺れる木々の葉音だけが静かに満ちている。
「綺麗だ……」
呟くルシアン様の瞳には、数多の星が反射し、虹色の瞳が銀河のように煌めいている。
その美しさに心臓が跳ねるのを抑えながら、私は彼に語りかけた。
「知っていますか、ルシアン様。亡くなった方は星になり、大切な人を見守ってくれているそうですわ」
ルシアン様は少し考え、夜空で一番明るく輝く星を小さな指で指差した。
「……あれは、母様?」
「きっとそうですわ。お母様も、あなたの幸せを誰より願っています。……もちろん、私もですけれど!」
私が笑うと、ルシアン様も憑き物が落ちたような、今までで一番自然な笑顔を見せてくれた。
そのまま、何も言わずに二人で星空を眺める。訓練の疲れも、日中の出来事も、この静けさの中に溶けていくようだった。
心地よい疲れと静寂。やがて、ルシアン様がうとうとと船を漕ぎ始めた。
寝ぼけた彼は、無意識に私の指をぎゅっと握り、消え入りそうな声で呟いた。
「……離さないで……レオノーラ様……」
(……っ! いま、私の心臓が「生きててよかった!」って叫びましたわ!!)
私は天を仰いで感動を噛み締めると、幸せそうな寝息を立てる彼を(羽毛のように軽々と)抱き上げ、寝室へと運んだ。腕の中の重みは、初めて会った日よりも、ほんの少しだけ増えている気がした。
また、あの悲しい悪夢が彼を襲わないように。
私は彼の枕元で、夜風のような優しい声で子守唄を歌い続けるのだった。




