第三話 リフォームは物理、お掃除は爆破(に近い)ですわ!
すやすやと寝息を立てるルシアンの寝顔。それこそが私のガソリン(燃料)だ。
「さて、まずはこの傾いた柱を……よいしょっと」
何食わぬ顔で私が担ぎ上げたのは、ゆうに50kgは超えるであろう立派な大黒柱。ミシリ、と屋敷全体が悲鳴を上げるが、気にしない。
「怪力なんて淑女には不要なスキルだと思っていましたけれど、こういう時は役に立ちますわね」
屋根に登り、手際よく瓦を並べ替え、穴の空いた部分には漆喰と煉瓦を叩き込む。前世の知識とこの肉体のチート性能が合わさり、私のリフォーム技術はもはやプロの領域に達していた。
「ふぅ……仕上げに、雑巾がけでもしましょうか」
床に四つん這いになり、猛スピードで雑巾を走らせる。ゴシゴシゴシゴシ――その速度は、もはや雑巾ではなく凶器だった。
が、気合が入りすぎた。
ドォォォォォン!!!
「……あ」
勢い余って、そのまま外壁を突き破ってしまった。もうもうと立ち込める土煙の向こうに、朝の光が差し込む。
派手な破壊音に飛び起きたルシアンが、埃の中に立ち尽くす私を見て、虹色の瞳を丸くして唖然としている。
「レ、レオノーラ様……あの、その、壁が……」
「ごめんなさい! 雑巾がけをしていたら、勢い余って壁ごとぶち抜いてしまいましたわ!」
私はエヘヘと笑いながら、手近な木の板を凄まじい力で壁に叩きつけ、応急処置を施す。バキン、と釘が根元まで一撃で沈んだ。
しかし、ルシアンは責めるどころか、数時間前まで廃墟だった場所が「人が住める家」に生まれ変わっている光景を見て、パァッと表情を輝かせた。
「これ、全部レオノーラ様が……!?」
「ええ! これから二人で暮らしていくんですもの。住み心地は大切ですわ!」
私が胸を張って笑いかけると、ルシアンも少し照れたように、でも嬉しそうに微笑んだ。
その後、二人でシーツを広げてベッドメイキングをしたり、洗濯物を干したり……。日が傾くころには、廃墟だった離宮はすっかり生活の匂いのする「家」になっていた。
(あぁ、これが幸せという物なのかしら……)
そんな幸せな「新婚ごっこ(仮)」を、物陰から苦々しく睨みつける影があった。
「……おい、何なんだよ、あの光景は」
第二王子、ジョン・アノ・ルルビス。兄であるカロハスから「あのゴミ溜めでルシアンが泣き叫んでいるか見てこい」と命じられてやってきた彼は、今、自分の目を疑っていた。
(……は? レオノーラが、柱を担いで歩いてる……?)
(あの憎たらしい異母弟は、怪我の手当てをされて、笑いながら洗濯をしてるだと……!?)
ジョンにとって、レオノーラは自分と同じ「弱者を踏みにじる側」の人間だったはずだ。幼い頃から、ルシアンが泣くたびに嘲笑い、時には自らも手を上げてきた。その罪悪感を誤魔化すように「あいつはどうせ悪女に飼われて終わる駒だ」と、心のどこかで見下すことで納得してきた。
それなのに、目の前に広がるのは、聖母(物理攻撃力極振り)のような笑みを浮かべるレオノーラと、少し照れくさそうに笑うルシアンの姿。自分が知っている世界の輪郭が、音を立てて崩れていく。
「何がどうなってやがる……。あの女、頭でも打ったのか!?」
我慢ならなくなったジョンは、腰の鞭を鳴らしながら、ドカドカと二人の間に割り込んでいった。




