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第二話 廃墟の離宮は、天使との愛の聖域ですわ!

国王から「婚姻祝い」という名目で贈られたのは、王宮から遠く離れた場所にポツンと立つ、ボロボロの離宮だった。


蔦の絡まる外壁、割れたままの窓、軋む門扉。かつて罪を犯した妃が送られる、実質的な「監獄」それがこの離宮の本当の名だ。


(原作のレオノーラなら、この劣悪な環境にブチ切れて、陛下を脅して王宮内に住まわせたはずだけど……)


私は、埃の舞う室内を見渡して、不敵に笑った。


(いいじゃない、ここ! ルシアンをいじめるクソ兄貴たちもいないし、やる気のない使用人もいない。私とルシアン、二人だけの愛の聖域サンクチュアリだわ!)


「……ルシアン様、ここなら誰も貴方を傷つけませんわ。私が誓います」


「……えっ?」


決意のあまり、ルシアンと繋いでいた手にギュッと力がこもる。


「……レ、レオノーラ様、痛いです……」


「はわぁっ!! ごめんなさい! ルシアン様!」


慌てて手を離す。


(何やってんのよレオノーラ! 自分の握力がゴリラ並みなの自覚して! 加減して!)


そう、レオノーラは幼少期から「化け物」と称されるほどの剣術・武術の才能……というか、チート級の筋力を持っていた。前世では人を殴るために使ったこの力、今世ではルシアンを物理的に守るために全振りすると決めている。


私はルシアンを(折らないように最新の注意を払って)椅子に座らせ、救急箱を持ってきた。


「ごめんなさい……少ししみますわよ」


そっと袖をまくると、そこには白く細い腕に、痛々しい青あざや切り傷が残っていた。まだ新しいものも、古くかさぶたになったものも。この小さな体に、いったいどれだけの日々が刻まれてきたのだろう。


(……っ! よくも、よくもこんな幼い子に……! カロハスもジョンも、今度会ったら絶対にただじゃおかないわ。あの顔面、一発くらい凹ませてもバチは当たらないわよね!?)


怒りで視界が赤く染まりそうになるが、必死に抑える。今、私が優先すべきはこの子だ。


「……痛っ」


消毒が沁みたのか、ルシアンの虹色の瞳がうるうると潤み、大粒の涙がこぼれ落ちそうになる。


(か、かかか可愛すぎる!! なにこれ!? 涙すら真珠か何かの宝石に見えるんですけど!? 尊すぎて心臓がもたない!!)


思考がショートした私は、気づけばルシアンをこれでもかと抱きしめ、その柔らかな髪を撫でまわしていた。


「ルシアン様、今まで本当によく頑張りました。もう、一人で戦わなくていいのです。これからは婚約者として、あなたの妻として、私が全力で守りますわ!」


腕の中で、ルシアンの体がわずかに震えた。次の瞬間、彼は声を上げて泣き始めた。


「……ずっと……僕は……一人だと思っていた。母様がいなくなったあの日から……ずっと……っ」


しゃくり上げるように、途切れ途切れに紡がれる言葉。それは、七年間誰にも言えなかった本音なのだろう。


ああ、この涙は彼が今まで必死に耐えてきた証だ。


不運にも、彼の隣にいるのは「悪女」のレオノーラ。だけど、私が転生した以上、彼を世界一幸せにできるのは私しかいないのよ!


しばらくして、泣き疲れて寝息を立て始めたルシアン。私は彼を(重さを感じないほど軽々と)抱き上げると、古びたベッドにそっと寝かせ、毛布をかけた。


「さて……」


寝顔にそっとキスを……するのはまだ早いので我慢して、私は腕まくりをした。


見渡す限りの埃、クモの巣、ボロボロの家具。窓の外では、傾いた陽が長い影を伸ばしている。


「さぁ! 私たちの愛の聖域をピカピカにするわよ! ゴリラ令嬢の本気、見せてあげるわ、このお城、一晩で生まれ変わらせてみせるんだから!」


レオノーラの大掃除(という名の物理破壊と再生)が、今始まった。

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