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第一話 死に戻りしたようなので、天使を愛でまくりたいと思います。


「私、死んだ……? ここは黄泉の国?」


目が覚めると、そこは天国でも地獄でもなく、見覚えのある豪華絢爛な自室だった。


呆然と見上げた手のひらは驚くほど小さい。転がるように鏡の前に立つと、そこに映るのは鋭い金色の瞳にワインレッドの長い髪をなびかせた美女、十三歳のレオノーラ・グランティス・オーロラそのものだった。


「……死に戻り、したってこと?」


必死に記憶を掘り起こす。原作『愛と断罪のプレリュード』の「邪悪夫婦誕生秘話」……。そうだ、十三歳のレオノーラが、十歳のルシアンを初めて「おもちゃ」として受け取ったあの日だ!


「待って!? 私、これからあの美形天使を迎えに行くの!? あの、不憫で、私が人生めちゃくちゃにして殺されてしまったルシアンを!?」


蘇る処刑台の光景。血を流して倒れていた彼の姿。

ドレスの裾を掴んで、震える拳を握りしめる。


「絶対にルシアン王子を幸せにしてみせる。あんな死に方、二度とさせないんだから!!」


決意を胸に、私は鼻息荒くルルビス王城の庭へと向かった。

心地よい木漏れ日、高級なアロマの香り。そして、癪に障るほど余裕たっぷりな声が私を呼び止める。


「レオノーラ、やっと来たか。来ないかと思ったよ」


そこに立っていたのは、前世の私が執着してやまなかった初恋の君・カロハス王太子。口元には涼しげな笑み、けれどその目はいつも通り、こちらを値踏みするように冷めている。


しかし、今の私にとって「そこそこイケメン」な彼は背景の石像と同じだ。


私の視線は、彼の背後に隠れて震えている、「彼」に釘付けになった。


「ひっ……」


青いシルクのような髪。不安げに揺れる、虹色の透明な瞳。まだ頬に幼さが残る、七歳のルシアン。白い肌には、痛々しい傷跡が残っている。


ゲーム内では、これから私の洗脳と虐待によって心を壊される予定だった、世界で一番尊くて可愛い生贄エンジェル


(……っ、あああああ!!! 可愛い! 何この生き物、実在していいの!? 心臓が爆速ドラムなんだけど!?)


恐怖に怯え、ギュッと自分の服の裾を握りしめる小さな手。震える肩。伏せられた長い睫毛。


その瞬間、私の中のオタクの良心……いや、全人格が音を立ててオンになった。


自分の末路なんて知ったことか。彼だけは、ルシアンだけは絶対に幸せにする!


「レオノーラ、こいつが今日から君の夫になるルシアンだ」


カロハスは肩をすくめ、まるで壊れた玩具でも押し付けるような口調で続けた。


「煮るなり、痛ぶるなり、殺すなり好きに扱えばいい。誰も咎めやしないさ」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、私は弾丸のような速さで駆け出していた。


(好きに扱う!? 煮るなり焼くなりて!? こんな国宝級の天使を!? そんなことしない!! 私、前世で彼に酷いことをたくさんした……。だからこそ、許されるなら、今世は世界一幸せな王子様にするんだからぁぁぁ!!)


「レ、レオノーラ……様……?」


怯えて瞳を潤ませるルシアン。小さな体が、逃げ場を探すようにびくりと跳ねる。


そんな天使のような彼に対し、私は勢いよく跪き、その小さな体をぎゅっと抱きしめた!


「……っ!!」


腕の中で、ルシアンの体が石のように固まる。それでも、私は構わず彼のサラサラな髪に顔を埋め、全力でその頭を撫でまくった。


「レオノーラ!? 何を」


驚愕するカロハスを無視し、私はただひたすらルシアンを撫で続ける。


「可愛い……かわいい……あぁぁもう、ルシアンはかわいすぎて愛でまくりたいッッ!!」


「……えっ?」


ルシアンの瞳が、戸惑いと共に大きく見開かれる。撫でられることにも、優しくされることにも慣れていない、そんな戸惑いが、痛いほど伝わってきた。


その場の時間が、しばし止まった。

ここから、死ぬ運命を書き換える「ゴリラ悪女の溺愛生活」が、爆音を立てて幕を開けたのである。


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