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第二十七話 断罪の雷鳴と、血に染まった真実

ルシアンは、レオノーラの痕跡を追いかけていた。


レオノーラの痕跡を辿った先に自分が愛してやまない姫がいると、ルシアンは信じていたからだ。

壁の粉砕は、ある大きな作りの扉の前で止まっていた。


(ここに、レオノーラがいる。正直、王城の問題などどうでもいい……。彼女が無事で僕のそばで生きていてくれたらそれでいい。それ以外に求めるものなど何もない)


ルシアンは、どことなく感じる胸騒ぎを抑え、扉を開けた。


「レオノーラ……!!」


隠し扉を蹴破ったルシアンの目に飛び込んできたのは、無残に荒らされた部屋の中央、頭から血を流して倒れているレオノーラの姿だった。


「……あ、あぁ……。嘘だ、目を開けて……レオノーラ!!」


ルシアンが駆け寄り、震える手で彼女を抱き上げる。その腕の中で、レオノーラはぴくりとも動かない。返り血と彼女の血が混ざり合い、ルシアンの虹色の瞳から光が完全に消え失せた。


「……ふふ、ようやく死んだかしら。その悪女は、私の神聖な秘密に触れたのよ。処刑の手間が省けて良かったじゃない?」


背後で扇をゆらゆらと動かしながら、勝ち誇ったように笑うイザベラ。その瞬間、部屋の空気が凍りついた。ルシアンから溢れ出した魔力が、物理的な圧力となって床を割り、壁を削り取る。


「貴様の命で、彼女の痛みが購えると思うなよ」


ルシアンの声は、地獄の底から響くような低音だった。彼はレオノーラを優しく横たえると、抜身の剣を手にゆっくりと立ち上がる。その姿は、もはや王子ではなく、愛する者を奪われた「魔王」そのものだった。


「ひっ……! な、なによその目は! 近衛兵! この反逆者を殺しなさい!!」


だが、誰一人として動かない。ルシアンがここまで来る道すがら、既に王宮の騎士たちは彼の圧倒的な力と「正義」の前に屈服していたのだ。


「……う、ん……」


その時、かすかな声がした。


「レオノーラ!?」


ルシアンが慌てて膝をつくと、レオノーラがうっすらと目を開けた。彼女は朦朧とする意識の中、口の中に隠していた「小さな銀の筒」を、血に染まった手でルシアンに差し出した。


「これ……ルシアンに……。絶対に……渡したく、て……」


震える指先が何度も筒を取り落としそうになるのを、ルシアンはそっと両手で包み込むように受け取った。中身を広げる。そこにあったのは、隣国との「国家密約」の印章が押された極小の密書だった。


「……これは……!?」


「隣……国に……ルルビス……を受け渡す……代わりに……カロハス殿下を王にする……という援助をして……いたみたい……。あとね……陛下が……」


レオノーラはそこまで言うと、力尽きたように再び目を閉じた。


「レオノーラ! 気をしっかり持って……!」


ルシアンの声が、初めて悲鳴のように裏返った。その瞳に、悲しみを塗り潰すほどの激しい怒りの炎が宿る。


隠し部屋にあった、ルシアンの母を死に追いやった証拠。そして今、レオノーラが命がけで守り抜いたこの密約。二つの罪が、今、はっきりと一本の線で繋がった。


イザベラは、自分を愛さなかった陛下への復讐として、かつて側妃を手にかけただけでなく、国を隣国へ売り渡してでも、我が子カロハスを「傀儡の王」に据えようとしていたのだ。


「……イザベラ。君の罪は、万死に値する」


「……そんな悪女の言うことを信じるの? 誰が信じてくれるとでも……?」


「黙れ!!」


ルシアンの怒号が響き渡る。石壁がびりびりと震え、天井からぱらぱらと埃が落ちた。


証拠は揃った。売国行為、そしてかつての側妃殺害の容疑。もはや、この国にイザベラを庇う者は一人もいなかった。


「……レオノーラを、今すぐ医務室へ!! 彼女に万が一のことがあれば、この国を滅ぼしてでも償わせる!!」


ルシアンは王妃を冷たく一瞥すると、レオノーラを再び抱き上げ、目にも止まらぬ速さで部屋を飛び出した。


腕の中の温もりが消えてしまわないようにと、彼はただそれだけを祈りながら、廊下を駆け抜けていく。


背後では、絶叫するイザベラが騎士たちに引きずられていく音が響いていた。

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