表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/32

第二十二話 報われた努力と、膝枕の特等席

あの衝撃的な建国記念パーティーの翌日。

ルシアンのもとに、急きょ国王陛下からの呼び出しがかかった。


私は、彼が王宮へ向かってからというもの、落ち着かずに離宮の広間をウロウロと歩き回っていた。


(陛下から直々に呼び出しだなんて……。大丈夫かしら? もし、また謂れのない罪をなすりつけられて、処刑なんてことになったら……!)


考えれば考えるほど、悪い想像ばかりが膨らんでいく。


自覚してしまった、ルシアンへの恋心。最初は守るべき可愛い「弟」だと思っていたのに、いつの間にか彼は、私にとって空気のように必要不可欠な存在になっていた。


(二人で幸せに生きていくとそう決めていたのに……!)


不安が限界に達しようとしたその時、廊下の向こうから聞き慣れた足音が聞こえてきた。


「ルシアン!! おかえりなさい!! 大丈夫だったの!?」


姿を見つけるなり、私は彼に飛びついた。ルシアンは驚いたように目を丸くした後、優しく私を抱きしめ返し、私の頭にチュッと愛おしそうに唇を寄せた。


「うん、大丈夫だったよ。パーティーでの僕を見て、陛下が『亡くなった母様に生き写しだ』って……。それで、少しずつだけど公務を手伝うことになったんだ」


「公務を……!? ルシアンが!?」


「カロハス兄上がアリシア様に相当熱を上げているらしくて、兄上の仕事を肩代わりする形なんだけどね」


照れくさそうに笑うルシアンを見て、私の目からボロボロと涙が溢れ出した。


「良かったですわ……。陛下が、ルシアンをちゃんと認めてくださったのね。ルシアンの努力が、ようやく報われたのですわね……!」


「僕がここまで来れたのは、全部レオノーラのおかげだよ。いつも僕を見守って、信じてくれて……本当にありがとう」


ルシアンは私の涙を指先で優しく拭い、太陽のような笑顔を見せた。


それからというもの、ルシアンは毎日王宮へ通い、公務に勤しむようになった。彼の持ち前の優秀さと品行方正さは瞬く間に噂となり、かつて彼を見下していた者たちも、次第にその実力を認めざるを得なくなっていった。


けれど、慣れない王宮での仕事は、想像以上に彼を疲れさせているようだった。


夕暮れ時、離宮に戻ってきたルシアンを、私は全力で出迎える。


「おかえりなさい、ルシアン! 今日も一日お疲れ様でした。とびきりの具沢山スープと、ルシアンの好きなパイを焼いておきましたわ!」


「ありがとう、レオノーラ。君の顔を見ると、疲れが全部吹き飛ぶよ」


食事を終えたルシアンは、玄関で出迎えた時よりもずっと自然な笑顔を浮かべていた。それを見て、私の胸にも温かいものが満ちていく。


暖炉の前。ソファに腰掛けた私の隣に、ルシアンが当然のように寄り添って座る。それから、まるで長年の癖のように、私の膝へと頭を預けてきた。


「……ルシアン、肩が凝っていませんか? 少し揉みますわね」


「うん……。レオノーラの温かさが、一番の薬だ……」


膝枕をしながら、私は彼の柔らかな青い髪を優しく撫で、肩の力を抜くようにマッサージをする。ルシアンは心地よさそうに目を細めると、私の手をそっと自分の手で包み込んだ。


「ねえ、レオノーラ」


「なんですの?」


「こうして君の膝に頭を乗せてると、思うんだ。……ずっと昔、初めて出会った日も、君はこうやって僕を抱きしめてくれたなって」


「……よく覚えていますわね、そんな昔のこと」


「忘れるわけないよ。あの日から今日まで、僕の世界には、ずっと君しかいなかったんだから」


ルシアンは私の腰をそっと抱き寄せると、私の手の甲に、確かめるように唇を落とした。恋人になってからというもの、こういう不意打ちの多いこと。心臓がまた忙しなく音を立てる。


「レオノーラ……ずっと、こうしてて」


「ええ、もちろんですわ。あなたはよく頑張っていますもの。離宮にいる時くらい、私に甘えてくださいな」


「甘えていいのは、離宮にいる時だけ? 本当は、一生こうしていたいんだけどな」


いたずらっぽく笑うルシアンの額に、今度は私からそっと口づけを落とす。


「ふふ、欲張りですわね。……でも、そういうところも、好きですわ」


(……ふふ、やっぱり少し甘えん坊なところは変わっていませんわね。可愛い旦那様……。いえ、もう立派な、そして少し意地悪な殿方ですけれど)


幸せを噛みしめる穏やかな夜。

だが、その平穏な時間の裏で。


王宮の闇の中、イザベラ王妃の瞳だけが、ルシアンの躍進を許すまいと冷酷に光り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ