第十二話 私の旦那様を傷つけた罪は、羞恥で購いなさい!
「ルシアン様! ついに、ついに完成いたしましたわ!」
冬の終わりが近づいたある日、私は編み上げたばかりの水色のマフラーを、満面の笑みでルシアン様に差し出した。
「これ……僕に?」
「もちろんですわ! 何日もかけて、心を込めて編みましたのよ!」
ルシアン様は宝物を扱うようにマフラーを受け取ると、少し照れながら自分の首に巻いた。青い髪によく映える、澄んだ水色。
「……どう、かな」
「……っ!!」
その瞬間、私の理性は音を立てて崩壊した。
はにかみながら見上げてくるルシアン様と、彼の髪色と絶妙に馴染む手編みのマフラー。可愛さの暴力とはまさにこのことだ。
「ぶふっ……!」
「レ、レオノーラ様!? また鼻血が!?」
「大丈夫ですわ……。これは、幸福が過ぎたが故の生理現象ですので……」
ハンカチで鼻を押さえながら、私はルシアン様の首元のマフラーをそっと直してあげた。
「よくお似合いですわ、ルシアン様。世界一格好良い旦那様の完成ですわね」
「……えへへ」
くすぐったそうに笑うルシアン様を見て、私はこの冬を頑張って乗り越えて良かったと、心から思った。
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離宮に降り積もった雪で雪だるまを作ったり、ツララでチャンバラごっこをしたりと、私たちは冬の終わりを存分に楽しんだ。
そして、雪が少しずつ溶け始め、春の柔らかな陽気が見え始めた頃のことだ。
いつものようにルシアン様の服を繕っていた私の前に、彼が気まずそうな顔で現れた。
その白く美しい頬が、林檎のように赤く腫れ上がっているのを見て、私は針を放り出した。
「……あれ!? ルシアン様、そのお顔……どうされたんですか!?」
慌てて駆け寄り、冷やしたタオルで手当てをする。ルシアン様は視線を泳がせながら、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。
一人で剣術の素振りをしていた時、離宮の周りをうろつく派手な格好の令息たちに絡まれたのだという。
「だって……あの人たち、レオノーラ様のことを『悪女』だの『外道』だの言いまくるから……。僕、怒っちゃったんだ」
ルシアン様は、ギュッと拳を握りしめた。
「自分のことを悪く言われるのは、その通りかもって思えるけど。レオノーラ様のことだけは、絶対に許せなかったんだ……っ」
(……っ、ああああ! 私のために怒ってくださったのですか!?)
私は感極まって、ルシアン様の頭をこれでもかと撫で回した。
「ふふ、私を守ろうとしてくださったのですわね。嬉しいですわ。……でも、ルシアン様が一人でいるところを狙うなんて、性根が腐っていますわね」
(……さて。差金はジョン殿下あたりでしょうけれど、実行犯は別。許しませんわよ? 私の旦那様に手を出したこと、骨の髄まで後悔させて差し上げますわ!!)
私の中の「ゴリラ悪女」が、静かに、かつ激しく本領を発揮した。
「……あら、こんなところで何をしてらっしゃるの?」
離宮の裏で、勝ち誇ったように笑っていた下級貴族の令息三人組。彼らの前に、私は「悪女の微笑み」を浮かべて現れた。
「な、なんだお前……ぎゃあぁぁっ!?」
普通に殴るだけでは芸がない。私は電光石火の動きで彼らの急所を突き、全員を仲良く気絶させた。
それから、彼らの高い服を丁寧に(物理的な力で引きちぎりながら)脱がせ、見事なパンツ一枚姿に仕上げて差し上げた。
「さあ、街の広場へレッツゴーですわ!」
私は意識のない令息たちを数人まとめて小脇に抱え、深夜の街へと疾走した。
翌朝。
「ひっ、見ないでくれ!!」
「お父様、助けてぇぇぇ!!」
朝日を浴びて目を覚ました彼らが目にしたのは、街の人々の好奇の視線と、自分たちの情けない姿だった。
「あそこの家の令息、パンツ一枚で何やってるの……?」
「あらやだ、恥ずかしい……」
噂は瞬く間に広がり、彼らはそれぞれの当主たちに、文字通り引きずられるようにして連れ帰られたという。
それからというもの、王宮周辺では『離宮の幽霊に近づくと丸裸にされ、街に晒される』という、恐怖と爆笑の都市伝説が流れることになったのである。
「やはり、たわいもない男たちでしたわ」
鼻歌まじりに離宮に戻ると、ルシアン様が真っ青な顔で私の腕を掴んだ。
「レオノーラ様、その腕……血が出ています!」
「あら? ああ、あの方たちを運ぶ時に少し茂みに引っ掛けただけですわ。大したことありません」
「ダメです! じっとしていてください!」
ルシアン様は、私の腕を優しく取ると、真剣な表情で薬を塗り、包帯を巻いてくれた。その手つきは、かつて私が彼に教えた通りで、とても丁寧だ。首元には、あの日渡したマフラーが、いつの間にかしっかりと巻かれたままだった。
(ふふっ。守られているばかりだと思っていたけれど、私の旦那様は、いつの間にかこんなに頼もしくなって……)
手当てをするルシアン様の真剣な横顔を見つめながら、私はこの平穏な、けれど少しだけ賑やかな離宮の暮らしが、ずっと続けばいいと心から願うのだった。




