第十一話 雪降る夜のぬくもりと、小さな独占
離宮にも、厳しい冬が到来した。
以前の私なら「気合で乗り切りますわ!」と言っていたかもしれないけれど、隙間風だらけのこの建物では、冷たい風がどこからともなく吹き付けてくる。窓の外はすでに真っ白で、庭の畑も雪の下にすっかり姿を消していた。私たちは、暖炉の前から一歩も動けないでいた。
ルシアン様の献身的な看病のおかげで、いつもの元気を取り戻した私は、パチパチとはぜる炎を見つめていた。
「くしゅん……。流石に寒すぎますわね、ルシアン様」
「うん。でも、レオノーラがそばにいてくれたら、なんだか僕の心はポカポカなんだよ」
そう言って、ルシアン様は大きな毛布の中で、私にぴったりと身を寄せてくる。
「……ルシアン様。なんだか最近、距離が近くありませんこと?」
「だめ……かな?」
毛布の隙間から、潤んだ虹色の瞳で見つめられれば、私の答えはひとつだ。
「ぜ、全然、良いのですわ!! むしろ大歓迎ですわ!!」
(か、かわいい……! 尊すぎて鼻血で雪が溶けそうですわ!)
ルシアン様は私の肩にちょこんと頭を乗せ、本を眺めている。以前よりもずっと「甘えん坊」になった彼に、私は少しだけタジタジだ。
(ルシアン様が、ようやく私に自分の素を出し始めてくれたということかしら? 甘えん坊な旦那様……ふふ、可愛すぎますわね)
私は鼻歌を歌いながら、綺麗な水色の毛糸を編み進めていた。
(この色は、ルシアン様の髪色に絶対似合うと思って買っておいたのですわ。マフラーと手袋があれば、この寒い冬もきっと乗り越えられますもの!)
編み物に集中していた私だったけれど、ふと、視線を感じて顔を上げた。ルシアン様が本を見るふりをして、じっと私の横顔を見つめていたのだ。
「どうかされました? ルシアン様」
「あのね、僕……こうやってレオノーラとくっついているのが、一番幸せだなぁと思って」
「……ふふ、それは私も同じですわ」
私が微笑むと、ルシアン様は満足そうに目を細め、私の腕をぎゅっと抱きしめた。
その小さな手の力強さに、私は「彼を一生守り抜く」という決意を新たにする。
やがて暖炉の柔らかな暖かさに誘われ、二人に心地よい睡魔が襲ってきた。編みかけの毛糸と本を脇に置き、私たちは一つの毛布の中で寄り添いながら、深い眠りへと落ちていく。
窓の外では、しんしんと降り積もる雪の結晶が月光に反射してきらめいていた。編みかけのマフラーは、あと少しで完成というところで、暖炉の炎に照らされながら静かに二人を待っていた。
凍てつくような冬の世界で、この離宮の一角だけが、春のような温かさに包まれていた。




