11記
「お嬢様、失礼いたしますぞ。」
あの日のことは鮮明に覚えている。
主、リリアーヌ様を亡くし、その忘れ形見がこのノーザンバードを引き継いだと現れた日のこと。
そして、彼女の運命を知った日のこと。
「…見て、しまいましたのね。」
悲しそうに傷ついた瞳をしていらっしゃる彼女。
私には時間がないのです。
重い口を開いて告げたのは5歳の時に患った病の後遺症により長くないこと。
その日までにノーザンバード辺境伯の地位を譲れる人を見つけるから。
それまで黙っていてもらえますね。
「あれから、10年になりますか。
お嬢様も立派になられた。」
お嬢様は結婚など考えてはおられぬのか?
フィアを嫁に出すに当たってその事については聞かれまくっている。
アルプ、私は誰も悲しませたくはないのよ。
間接的とは言え、お母様を死に追いやったことこれは消えない事実なのよ。
きつい酒に珍しく酔われたときに吐いた言葉をいまだに覚えている。
悲しげな瞳を忘れることなどない。
「アルプ、あたしの後継者はフィア及び、彼女の配偶者だわ。」
そのときが来れば、お願いね。
うっすらと笑いながら主は仮面舞踏会の会場へと向かう。
嫌だ。また主様がいなくなるなんて。
「ノーザンバード辺境伯家息女、リリー並びにフィア。」
村長のそれなりの息子二人をエスコートに配置した。
本日は私のノーザンバード辺境伯領への帰省にこのような宴に参加いただき感謝の言葉もございません。
私は今現在、この地の辺境伯として母から譲り受けたものを守るべく学業に励んでおります。
いつの日にか、学園の卒業の暁には立派な辺境伯としてノーザンバードの土を踏む所存であります。
皆さま、どうぞその日が来るまで苦しい生活だと思いますが、ご理解のほどを伏してお願い致します。
「まあ、ようこそいらっしゃいました。
リーグ様、お母上に弟君と妹君も。
本日は楽しんでいってくださいませ。」
淑女の礼を二人でして見せる。
どこで接点があったのか、辺境伯様の招待を受けた私たち。
一介のメイドにすぎない私には正直到底理解のしようもなく旦那様に送り出されてきた。
「実は、この子にこの宴でエスコート役との縁談が持ち上がっておりますの。」
井戸端会議よろしくさらっと嘘を吐く。
それもこれも、妹を連れ出してくれないリーグをじれったく思ってのこと。
「リリー様、妹君を少しお借りしても?」
待ってましたとばかり頷いて二人を送り出す。
その間にこの商談…、じゃなかった、縁談をまとめないと。
まずは笑顔であれ。
「…ミーズワース男爵には、先代総領娘がお世話をお掛け致しました。」
とりあえず、会話の突破口を作る。
まぁ、あの人がそのようなことを?
この問いが返ることも想定済。
ええ。彼の地で作られる薬草は病弱だった私の母にはとても心強いものであったときいていますわ。
さあ、妹の運命を動かす剣に手をかけた___。




