最終決戦
それから数日ほど経ったが、ハンナもベネディクトもマティアスさえも、特に誰も話しかけて来なかった。
私、もしかして色々やらかしたからみんなから嫌われたのかしら…。
そんなことを考えていると、私の元へと手紙が届けられた。
キレイな蝋印が押されたダークグリーンの封筒を開く。
差出人はベネディクトからだった。
「ヴェロニカ様
先日のお話をずっと考えていました。
僕の気持ちをお伝えしたく、明日また話す機会がほしいです。
もしよければ、話の場を作るのでこちらに来ていただけませんか。」
キレイな字で綴られている手紙を見て、これがベネディクトの字かぁ、なんて思うと胸の奥がキュッとした。
気持ちを伝えるって…なにを言われるんだろう。
どんなことを考えているの?
イヤな方向にばかり想像が向いてしまい、足がすくむ。
マティアスは「ハンナは、ベネディクトがヴェロニカのことを離したくないと言っている。」的な、又聞きの又聞き的なことを言っていたけど、あれはいつの話なんだろう。
もしかしたら実は小さい頃はそう思っていた、的なあれかもしれないし、今だとは限らない…。
こわい!嫌われてたら?やっぱりハンナが好きと言われたら?
そんなの死んじゃいたくなるくらい辛い!
でも行かないと。
前回は私ばっかり言いたいことを言って終わってるし、きちんとベネディクトのことを聞かないと。
そんなことを考えていたら、全く眠れないまま朝を迎えることになった。
「ヒドイ顔…。」
鏡を見て思わずそう呟く。
せめて、もし振られるなら美しく散りたい。
キレイな私を覚えておいてほしい。
そんなことを考えてながら支度をした。
一番お気に入りのドレスに、ベネディクトから褒められたことのあるバレッタ、流行りのメイク、コンディションは最悪ながらも外側をバッチリキメてノルデグレーン城へと馬車を出してもらった。
城へ着き、案内されたのはベネディクトの部屋ではなく応接室だった。
恐る恐る部屋へ入ると、そこにはハンナとマティアス、そしてベネディクトが立っていた。
「え…どういうこと?」
「あたしたちも知らないんだよー。」
ハンナが答える。マティアスを見ると、困ったような表情で首をかしげていた。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。
今日は僕がずっと思っていたこと、考えていたことを伝えたいんだ。
今更かもしれない、それでもみんなに、ここにいる僕の大切な人たちに知ってほしい。」
そう言って、ベネディクトが話し始めた。
その話は、ベネディクトの夢や、挫折したこと、私を遠ざけようとした理由などだった。
私が想像もしていなかったことばかりだった。
ベネディクトがそんな思いをしていたなんて知らなかった。
ハンナを見るとうつむきながら頷いていた。
マティアスは、苦悶の表情を浮かべていた。
「これが僕の全て。僕が一人で勝手に悩んで、だめになって言った理由だよ。」
私はなにも言えなかった。
ベネディクトの父、現王に腹が立って仕方がなかった。
なぜこんな追い詰められるのだろう、なぜ兄弟で仲違いさせるようなことをするのだろう。
「俺は…なにもわかっていませんでした。」
マティアスが口を開いた。
「ごめんなさい。俺はずっとあなたを憎んで、挙げ句ヴェロニカ様にまで横恋慕していた。
俺ならあなたと違って幸せにできるのに、そんなふうに考えていた。
俺は…最低です。」
「マティアス…。いや、マティアスは悪くないよ。
僕が父の期待に応えられないせいでこうなっていることに、なんの間違いもないんだから。」
「あと、ヴェロニカ。」
突然ベネディクトに呼びかけられ、バッと顔を上げる。
ベネディクトが悲しげに微笑んでこちらを見ていた。
「ヴェロニカ、この前は君の気持ちを僕にきちんと伝えてくれてありがとう。
ヴェロニカはずっと僕に興味がないと思ってたんだ。
だから突き放して、呆れさせて、嫌いになってもらおうとした。
マティアスと婚約すれば、君は王妃になれるし、みんなが幸せになれると思ったんだ。
でもそれは間違ってた。
結果的に一番君を傷付けることになっていた。
僕はいつも決断を間違えるんだ。
ごめんね、ヴェロニカ。
僕は君のことがずっと好きだ。
今でも好きだ。
でも僕は王にはなれない。その素質がまったくないから。
僕のせいで、僕といることで、君はみんなから笑われたり、下に見られてしまう。
そんなことになってほしくないんだ。
僕のことを想ってくれているのは、もう嬉しすぎてどうしようもないくらいだけど、僕は君を幸せにしたい。
でもきっと、僕といたら幸せになれない…。
もうマティアスとくっつけ、なんてことを言うつもりはないよ。
ただ、誰かもっと君を幸せにしてくれる人はいると思うんだ。」
手がブルブル震えた。
「マティアス、お前は王に向いてる。
だって僕の自慢の弟だ。
誰よりも信頼しているよ。
だから、僕ではなくマティアスが王になるべきだ。
お前は、僕を踏み台にしてほしいんだ、それでいいんだよ。」
ベネディクトは物悲しげな瞳でそれらを言い切った。
「それで終わり?」
私が尋ね、
「え、うん、そうだ…」
と、ベネディクトが答え終わる前に、私は全力で拳を彼の横っ面に叩き込んでいた。
「わぉ」
そう小さくハンナが言ったのが聞こえた。




