ランチの後
ベネディクトとの決戦を終え、下のフロアで軽くサンドイッチを食べてお腹を満たした後、散歩がてらガーデンを歩いていた。
すると、がっくりと肩を落としたマティアスが目に入ってきた。
昨日振った相手に話しかけるのってどうなのかしら?と思いつつ、なんだか様子が変だったので声をかけることにした。
「あのぅ…マティアス様?どうかされました?」
「あぁ、ヴェロニカ様。」
マティアスは少しげっそりしたかんじの表情で答えた。
「どこかお加減が…?」
「いや、その…えっと…なんでもない…。」
明らかに何かを言いかけてやめた。
マティアスにしては歯切れが悪い。
「マティアス様、むしろ話したほうが楽になることもありますよ?もちろん、言いたくなければ聞きませんが。」
マティアスは少し考え込むと、話し始めた。
「こんな話、君にとって失礼になったら申し訳ないんだけど…。
俺は昨日君に振られた後、一人になりたくてここにいたんだ。
そうしたらハンナが来て…すごく怒られた。」
「怒った?ハンナが?なぜです?」
「ベネディクトの気持ちも知らないで、って。」
「ベネディクト様の気持ち…ってなんのことです?」
「なんか、俺のことをずっと庇っていたけど、それが失敗してああなった、みたいな…そんなニュアンスでした。
俺はずっと父から、兄のせいで、兄がダメだから、兄が逃げて俺に押し付けたから、と聞かされていたので…その、すぐに受け入れられなくて…。
あ、あとヴェロニカ様のことについても兄は我慢しているとハンナは言っていました。」
「私…?」
「兄は、俺のあなたへの気持ちに気付いていて、それで譲ろうとしてたとかなんとか。
でも今は絶対に手放したくない、そうですが。」
かあ、と顔が赤くなったのがわかった。
ベネディクトが?私を放したくないって言ったの?もしかして、ハンナのことは誤解だったの?
そんな風に浮かれかかったが、目の前のマティアスの落胆ぶり見て思い直した。
「俺は…とんだ疫病神です。
俺のせいで兄を困らせて傷付けていたのに、なにも知らずにそんな兄を憎んでいたなんて。
それに、俺さえいなければヴェロニカ様と兄はきっと上手く行っていました。
それに、この間の騒動の時のハンナ様と兄のことは、なんだか俺たちが誤解していたみたいですよ。しっかり叱られました。」
そう言ってマティアスは苦笑いした。
「俺、王教育では兄のことをどうにか抜いてやろう、見返してやろうってことで頭がいっぱいで…何も見えていませんでした。
ハンナ様の言うとおりです。
よく考えればわかるのに。兄が元々どういう人間かなんて。
だってずっと、すごく優しくしてくれていたのに。」
すこし涙ぐむマティアスを見て、私は応えた。
「マティアス様、そんなことでベネディクト様は怒ったりしませんよ。」
「え…?」
「私、小さいときに言われました。
大切な弟と仲良くしてくれたら嬉しいって。
ベネディクト様は誰よりも、あなたを大切に思っています。
たとえあなたが何をしても、笑って許してくれます。
それよりもなによりも一番苦しいのは、多分マティアス様から嫌われていることです。
一度、ベネディクト様と話して見たほうがいいんじゃないですか?
今度こそ、誤解のないように。」
そうですね、とマティアスは少しうつむきがちに答えた。
「それと、ハンナ様からしっかり怒られてしまいました。
兄とヴェロニカ様のゴタゴタに乗じて告白するなんてダサい、と。」
「だ、ダサいって…ハンナが?マティアス様を?!」
あんなにメロメロだったのに。
でもそのマティアス相手にそんな風にキレるってことは、きっとそれほど気に入らなかったんだろうなぁ。
「ハンナ様の言うとおりなんです。
全く言い訳ができません。俺はダサい。」
「私はそんな風に思ってませんよ。
……でも。」
「でも?」
「きっとあなたに遠慮なく思ったことを伝えてくれて、怒ってくれる、そんな相手はなかなかいないんじゃないですか?」
マティアスはそれに対してもないか言いたそうにしていたが、思ったように言葉がでてこなかったようで、開きかけた口を閉じた。
「マティアス様、きっとハンナは他とは違う視点で気づかせてくれる大事な存在になると思います。私やベネディクト様にとってそうだったように。
それは平民だからでも、優秀だからでもなく、ハンナが特別で素晴らしい子だからです。」
そう言い残して私は立ち去った。
チラッと振り返ってみるとマティアスはなにやら考え込んでいるようだった。
ハンナ、私があなたを誤解して振り回した分、取り返せたかな?




