ヴェロニカとベネディクト③
アカデミーに入学してすぐさま私はベネディクトを探した。
あの日以来半年ほど会えていなかったし、なにか誤解させたなら謝りたいと思っていたからだった。
「ベネディクト様、変わったかな?もしかしてまた背が伸びたりしているんじゃないかしら?」
そんな呑気な妄想に、早る気持ちを抑えてベネディクトを探すと、女子生徒と話す様子が見えたので声をかけようと近寄った。
近づいてみるとその女子生徒が随分とベネディクトに体を寄せていることに気付き、ムカッとして大声で呼びかけようとすると、女子生徒の声が響いた。
「ねえベネディクト様ぁ〜。本当にいいんですか?婚約者がいるって噂ですよ〜。」
「別にいいんだよ。だって婚約者なんて、自分で決めたわけでもないし。」
喉の奥がヒュッとなるのを感じた。
体が強張り、声が出せない。
「それにぃ、この前違うご令嬢ともデートしてたって聞きましたよ。
次期王様なのにそんなチャラチャラしてていいんですかぁ?」
「アハハ、別にいいでしょう。それに、王はきっと弟がなるよ。
僕はダメ王子として自由にやらせてもらうんだ。」
「えぇ〜なにそれ〜(笑)」
「ねぇ、たくさん女の子と遊ぶのだって勉強だと思わない?」
そう言って、その令嬢の手を握ったところで耐えられなくなり、声を張り上げた。
「っっ…べ、ベネディクト様っ!!!!」
「あれ、ヴェロニカ?」
「え、どなたですかぁ?」
「こちらはヴェロニカ。グランクヴィスト伯約の娘だよ。
一応、僕の婚約者。」
一応…?この人はどうしてしまったの?ベネディクトじゃないみたい。
「え、やばくないですかぁ?婚約者さんめちゃ怒ってますよ〜。
ほら〜!婚約者さんがいるのにフラフラするからぁ!」
さっきベネディクトから紹介されたのに、婚約者さんと呼び続ける失礼な令嬢にイライラした。
「ベネディクト様、二人で話したいです!お時間いただけますか!!」
そう言って無理矢理手を引いて、人気のない教室に入った。
「ベネディクト様どうされたんですか?!なんであんなこと…。ベネディクト様は理想のために頑張っているんじゃなかったんですか?!」
はあ、とため息をつきながらベネディクトが答える。
「…ヴェロニカは僕の理想を知っているの?」
「いえ、それは…まだ存じ上げてませんが…。」
「それが子供の夢のような、そんなものだとしたら?
叶いっこないとしたら?絶対無理なことを、まだ頑張れと、そう言うの?」
「で、でも、ベネディクト様…。わたし…」
「あぁ、もしかして自分の夢の心配をしてる?王妃になるっていう。」
「えっ?」
「それなら心配しなくても大丈夫だよ。
このまま僕が堕落していってたら、きっとお父様はマティアスを第一後継者にすると思う。
そしたら君は、マティアスと結婚すればいいよ。
幸い、マティアスはまだ誰とも婚約してないし、それに君によく懐いている。」
「な、なにを…。」
「僕はもう好きにさせてもらうよ。これからは頑張らないことにしたんだ。
君もこんなダメ王子の婚約者でいたくないでしょ?
早めに君のお父様に婚約破棄を頼んでみるといいよ。
僕がこんな風だとわかれば、きっとすぐ了承してもらえる。」
ショックでなにも言えなかった。
ベネディクト、どうしてしまったの?
「じゃあね、ヴェロニカ。
……ごめんね。」
一方的に言いたいことを言ったあと、一瞬悲しそうな顔をしてベネディクトは部屋から出ていった。
私は床にへたり込んで、そのまま泣き続けた。
あれだけ楽しみにしていたのに、最悪の入学初日となってしまった。
マティアスが飛び級して同じ学年にいると知った時はびっくりした。
「ヴェロニカ様に追いつきたくて…。」と言われ、あまり意味がわからず私は首をかしげた。
私はそれからもベネディクトを諦めきれないままで、お父様や周りの誰にもベネディクトのことを相談しなかった。
いつか元に戻ってくれるかも、また私を大切に思ってくれるかも、そう信じてベネディクトの婚約者であり続けた。
ベネディクトが花をくれた時の
「君は特別な女の子だ」という言葉だけを支えに、周りに何を言われても気丈に振る舞っていた。
そんなことはお構いなしに、ベネディクトの評判は最悪だった。
「女の子と遊びまくってる」、「勉強はおろそか」、「とにかくだらしない」そんなことしか聞かなかった。
ほかの令嬢と二人でいたり、談笑する姿を見るたびに心は傷んだけど、遊びだと割り切って(本当は割り切れてなんかいなかったけど)心を殺し続けた。
そんな中、ベネディクトが手引きして入学させた上に、彼女に惚れ込んだのか構いまくっていると噂される主人公、ハンナが登場し、ヴェロニカはとうとう心が壊れて悪役令嬢と化してしまうのだった。
それは、ベネディクトのことを諦められないということの表れでもあった。
結局ヴェロニカでも転生者の私でも、ベネディクトのことを嫌いにはなれないのだ。




