揉め事④
そのまま家に帰ってきて、自室でベッドに倒れ込み、天井をみてぐるぐる考えていた。
マティアス様が?私のことを?ずっと憧れてた?私に?
想定外の告白すぎて、意味がわからなかった。
考え込みすぎて、ドアがノックされた音にも、無意識のうちに返事をしていた。
ガチャリと開けられ、入ってきたのは弟のヴィンセントだった。
「ねえ、ヴェロニカ。
慌てて帰ってきてからずっと部屋に閉じこもっているけどどうかしたの?」
「ヴィンセント…ちょっと今日は色々ありすぎて…。」
「…もしかして、あの婚約者のことなんじゃないの?」
ヴィンセントは、むう、という顔をしていた。
前もベネディクトの話になるとこの顔をしていたなぁ。
「どうして…そう思うの?」
「やっぱりそうだ!だって噂になってるよ!
転入生の女の子に夢中だとか、裏口入学させたとか!」
下級生に噂になるくらい、ベネディクトはハンナは注目されてるってことなんだろうか。
「あいつはもうやめといたら?こっちから婚約破棄してやりなよ!あんなダメ王子!」
「そう…できたらいいんだけどね…。」
私の曖昧な返事を聞いて、ヴィンセントは苛立っていた。
「大体さぁ!あの平民の女も図々しいと思うけどなあ!
ベネディクト様に気に入られてるのかと思ったら、マティアス様の周りもウロウロしてるって聞くし!」
「やめて!!」
私は声を張り上げた。
「ヴィンセント!私の婚約者のことも、私の友人のことも悪く言うのはやめて!!
ベネディクトは本当は優しくていいところもあるし、今はもうダメ王子なんて言わせないくらいしっかりしてきてる!
まぁ…そうなったのはハンナのためかもしれないけど…。
それに!ハンナも明るくて楽しいいい友達なの!!
まぁ…ベネディクトもそんな彼女のこと好きになっちゃってるわけだけど…。」
「…姉さんはなにを自滅してるの?」
呆れ顔で突っ込まれた。
「俺だったらベネディクト様よりマティアス様がいいけどねぇ。」
そのタイムリーな話題に肩がビクッとしたのを見られた。
「えっ、なに?マティアス様に告白でもされた?!」
「……。」
「ここでの無言は肯定だと思うよ、姉さん。
じゃあもういいじゃん、マティアス様でさ。」
「もう、断った…。」
「はぁ?!え、なんで?!
逆に、姉さんはベネディクト様のどこがそんなにいいわけ?!」
その質問にう~んと考え込む。
「か、顔…?」
「顔?!なにそれ!確かにベネディクト様はキレイな顔してるけど、マティアス様だってそれ以上にイケメンだと思うよ!」
「それに!そんなこと言ったら僕だって負けず劣らずの美形じゃない?!」
ヴィンセントは顔を近づけていた。
…まあ、確かにイケメンではあるのよね。でもそんなことはどうでもいい。弟がイケメンかどうかなんて今は一秒だって考える時間が惜しい。
私はヴィンセントの顔を手で遠くへ押しやった。
「そうなんだよねぇ…そうなんだけど、なんかこう…。
ベネディクト様を見ると、全身から湧き上がる感情があるっていうか…。
ヴィンセントはもちろんだけど、マティアス様にもそれを感じないっていうか…。」
「ねぇ、もうそれさぁ」
「顔とかじゃなくて、全部が好きだからってことなんじゃないの?」
私はびっくりした。
ベネディクトの全部が好き。たしかにそうなのかもしれない。
言葉では言い表わせないくらい全部が。
「そんなのもうさ、マティアス様に勝ち目ないじゃん!
姉さんの気持ちはそこまで決まっちゃってるんだから。」
あーあつまんない、と言いながらヴィンセントは部屋を出ていってしまった。
全部、ベネディクトの全部が好き。
優しい声も、ふわっとした笑い方も、考え事をするときに眉間によるシワも。
そんなベネディクトのワンシーンを想像しただけで鼓動が早くなった。
だめだ、やっぱり私はベネディクトが好き。
どんなに都合のいい女になろうとも、どんなにベネディクトがハンナのことが好きだろうとも、多分この気持ちは諦めきれない。
ベネディクトに直接婚約破棄されるまで粘ってやる!!
私は悪役令嬢なんだから!主人公のライバルとして、戦ってやる!!




