決意と宣言
翌日、アカデミーへ登校してすぐにハンナが慌てた様子で話しかけてきた。
「ヴェロたん、昨日どうしたの?なんか帰っちゃうし、様子変だったし。」
「ハンナ、少し…いいですか?」
そう言って私はハンナを空いている教室へと連れ出した。
「ヴェロたん、どうしたの?なんか…こわいんだけど…。怒ってるの?」
「そうです、怒っています。」
「え?!」
「あなたがベネディクトとずっと二人っきりでレッスンしていたこと。
マティアス様が好きだと言っていたのに、ベネディクトと親しげにしていること。
なにより、私の気持ちを知っていて裏切ったことに!!」
「え!そんなわけないじゃん!」
「私は…あなたのことお友達だと思っていました。
信じていました。
ベネディクトのことと同じくらい、あなたのことが好きでした。」
「……。」
「でも、あなたに裏切られて、私決めました。」
「なにを…?」
「あなたから、ベネディクトを奪います。」
「え…?」
「悪役令嬢、ヴェロニカとして、私は正々堂々ベネディクトをあなたから略奪してみせます!
公式のシナリオとはもちろん大分違うかもしれませんが、主人公から奪い取る、これこそ悪役令嬢ですもの!」
「……ふぅん、わかったよ。じゃあやってみせてよ。取れるものなら。」
やっぱり…やっぱりハンナはそのつもりだったんだ!
「でもさ、ヴェロたんはベネディクトが完全に私のこと好きだって思ってるわけでしょ?それでも戦う?あたしから奪えるの?
それに私、まだマティアス様のこと諦めてないからね。
ベネディクトのように、マティアス様のことも攻略してみせる。
本当の主人公のようにね!」
「そ、そう!じゃあそうして見せてみなさい!
私たち、もうお友達じゃないわ。ライバルよ。」
「それとあたし、マティアス様が今は誰を好きでも、絶対好きにさせる自信あるから。」
「?!そ、そう!いい覚悟ね。」
なぜハンナはそんな言い回しをしているんだろう。なにか気付いているんだろうか。
「ちょうど立場が逆ってかんじ?まあ、関係ないよね。それぞれ頑張るんだもんね。じゃあね、ヴェロニカ様。」
そう言ってハンナは教室を出た。
ハンナがなにを考えているかわからなくて正直怖かった。
やっぱりまだマティアス様のことが好きなの?
私が昨日告白されたこと知っているの?
なぜベネディクトも攻略しようとするの?
逆ハーレム狙い?そんな子に見えなかったけど…。
でも全部これまでのこと嘘かもしれないんだし、信用しちゃだめ!
今日から信じられるものはもう自分だけなんだから!
一人残された教室で、そんなふうに不安や猜疑心に押しつぶされそうになる自分をなんとか奮起させた。
その頃、ハンナは一人で廊下に出ると呟いた。
「ヴェロニカってばホント、なーーーんにもわかってないんだから。
全くバカなコ。」
そうクスっと笑うと、周囲の目を引く美貌を振りまきながら歩きはじめた。
10分ほど経ち、ヴェロニカが落ち着いてきたころで教室を出ようとドアをガチャリと開けると、ちょうど目の前にマティアスが立っていた。
「マティアス様!あの、昨日は…」
「昨日はすまなかった。急に迫ったりして、君を困らせた。
でもあれは、俺の本当の気持ちだから。」
そう言ってまた真剣な瞳で見つめてきた。
キレイな顔と宝石のような瞳にうっとりとしてしまいそうになる。
「マティアス様、あの、お気持ちは大変嬉しいです。私にはもったいないくらいです。
でもごめんなさい。私はやっぱりベネディクト様を諦めたくありません。
昨日真剣に考えてみて気付きました。
私はベネディクト様の、多分…もう、全部が好きなんです。
自分でもなんでこんな気持ちになるのかわかりません!
だって好きなところはなんだか漠然としてるくせに、彼のダメなところはたくさん言えるんですよ!
…それでもベネディクト様のことを考えると、あのときの表情が好きだな、とか、あの日してくれたことが嬉しかったな、とか、あの時はムカついたなー!とか、そういう日常で溢れてしまって、どうしても手放したくない気持ちになるんです。
だから、その、本人から直接ハンナが好きだとか、婚約破棄してくれと言われるまでは…私は諦めたくないんです。
ごめんなさい。」
一気に喋ってしまった。
しばらく沈黙していたマティアスが口を開く。
「気持ちはわかったよ、ヴェロニカ。
でも、もしまた傷付いてなにかに頼りたくなったときは、俺を使って。」
そういって優しく微笑むマティアスに、少しベネディクトのおもかげがあるように見えてドキッとしてしまった。
私の気持ちは決まってる。
あとはもう、なりふり構わずアピールするだけだ。




