揉め事③
「ヴェロニカ、どうかしたの?」
その場に立ち尽くす私にベネディクトが声を掛けてきた。
「あ…いえ…別に。」
「僕、あんなに誰かに強く言ったのは初めてかもしれないよ!
なんだか緊張しちゃった。」
そう無邪気に笑うベネディクトに対して、ハハ…と引きつった笑顔を向けるほかなかった。
―――――――ハンナと二人だけでずっと一緒にいて、
ハンナのためにはじめて強く怒って、
ハンナと結婚したいとまで思ってるんだ…。
軽いパニックでなにも考えられなくなってきていた。
今すぐこの場を去りたい、ココにいたくない。
「と、とりあえずこの場が一旦収まってよかったです。
私はもういなくても大丈夫ですね!では私も用がありますので失礼いたします!」
ハンナとベネディクトの返事を聞くこともなく、足早にその場を後にした。
二人からなるべく離れようと小走りで学園内を駆け抜けて、息切れしてきたときにちょうど足を止めたのがガーデンだった。
そこにあったベンチによろよろと倒れ込むと、自然と涙が出てきた。
私…ベネディクトにあんなに
なんとかする!とか
私が変える!
なんて啖呵切っておいて、まだなにもしてない。
まだなにもできていないのに…。
ハンナとあんなに仲良くなっているなんて…。
あんなに強く感情を出したり、
あんなにハッキリと意見をいったり、
なにか会った時に守れるように計画を立てたり。
そんなベネディクトは知らない。
全部私が見つけてあげたかった。
そんな秘められた部分を引き出してあげたかった。
そうするつもりだったのに…!!
そうだよね、彼女は主人公、私は悪役令嬢だもの。
逆立ちしたって敵わない。
やっぱりハンナは主人公だから、好きになっちゃうのかな…。
ハンナにだからこそ、心を開いたのかな。
グスグスと鼻をすすっていると、隣に誰かが座ってきて、ハンカチを差しだしてきた。
パッとみると、それはマティアスだった。
「ヴェロニカ様、大丈夫ですか?」
「マティアス様!こんな…お恥ずかしい…。
私、ちょっとお腹が痛くてですね!それであの…特になにかがあったとかではなくて…!」
慌てて取り繕ったが、どう考えても不自然な言い訳だ。
「兄と、ハンナ様のことではないんですか?」
「えっ…。」
「あの二人、最近すごく親密なんです。ハンナ様はよくうちにも来ていて、兄はよくつきっきりでなにかしらを教えています。
それが勉強だと言えばそうなのかもしれないのですが、なんだかそれだけの関係にも見えなくて。
ハンナ様も、ものすごく親しげにしているし…。
それに、俺と二人の時にはよくハンナ様の話しをしてくるんです。
どれほど優秀か、どれほど素晴らしい女性か、そんなことばかり。」
あぁ…やっぱり…。ベネディクトはハンナに完全に惚れてしまっている。
「兄は元々その…ヴェロニカ様の前で言うのもあれなんですが、女性の友人が多い方で。」
ものすっごいオブラートに包んでるなぁー。
「最近はそれも大分落ち着きを見せてきたといいますか。
でもそれはハンナ様といる時間が増えたからなのかもしれません。」
「マティアス様、もういいです、わかってます。
ベネディクト様は、ハンナのことが好きなのですよね。」
「っ…。」
マティアスは苦しそうな顔をしていた。
「私、ベネディクトにはしっかりしてほしいと思っていたんです。
きちんと王位を継ぐ自覚をもって、もっと慎重に行動してほしい。
ダメ王子だなんて周りから呼ばせないくらいになってほしいって。
でも、今日の様子を見てたら安心しちゃいました!
あんなにハッキリ自分の意見を言って、あんなにハッキリ計画的に行動して。そして、好きな人をちゃんと守っていました。
もう、私はお役御免ですわね。」
「ヴェロニカ様。俺の前で、そんな無理に強がらなくていいんですよ。」
マティアスが心配そうに覗き込んできた。
「強がらせてください!
一応、王子の婚約者なんですから。今は…もう違うかもしれませんが。」
自分で言ってまた涙が溢れ出しそうになり、クルッと後ろを向くと、手首を掴まれてマティアスの方に向き直された。
「俺では、だめですか。」
「えっ…?」
「俺は、王位継承権は2番目ですが…兄に負けないようがんばります。あなたが王妃になってくれると言うなら、頑張ります。
あなたのそんな辛そうな顔は見ていたくないんです。」
えっ?えっ?今私、告白されてる?
「あ、あの、マティアス様?どういう…?」
「俺はずっとあなたに憧れていました。兄の…婚約者だと思って、今までずっと我慢してきました。
兄がどんな行動を取ろうとも決して見捨てず、逃げないあなたを見ていて、兄が羨ましかった。
それと同時に、本当はずっと怒っていたんです。」
「兄はダメなところも多いかもしれませんが、本当は優しくて、親切で、誇れる人です。
あなたもきっとそれがわかっているから、見捨てないんですよね?
でもあなたのことに関して、俺は兄を許せない。
だっていつもあなたを傷つけるから。」
マティアス、そんなふうに想ってくれていたんだ…。
「だから、俺にしませんか?」
マティアスの真剣な瞳に、思わずドキドキしてしまう。
どうしよう…私は……。
マティアスの瞳に吸い込まれそうになる。
―――――――――その時、ベネディクトの顔が頭に浮かんだ。
思わずバッと手を振りほどいた。
「ご、ごめんなさい……!!!
私…どうしても……!!」
「ヴェロニカ様…!」
「私、ベネディクト様から婚約破棄だと言われるまでは、やっぱりベネディクト様の婚約者です!!
私がそうしていたんです!!!だから、ごめんなさい!!!!」
そう言って、その場からすぐに離れた。
呆然と佇むマティアスを残して。




