【朗報】ラスボス様、最高のツンデレ同盟になる
こうして迎えた、華々しい加階の宣旨。
中宮と東宮が同時に決まったという前代未聞の慶事に、内裏はかつてないほど沸き立っていた。
主上への譲位を見据え、宮廷の重鎮たちにも破格の恩賞が下される。
桐壺の中宮様の後ろ盾である左大臣殿は、ついに人臣最高峰の位階である「従一位」へと昇叙。
そして、第一皇子様を東宮に送り出した右大臣殿には、東宮の最高峰の後見職である「東宮傅」への就任が命じられた。
東宮の未来を約束された右大臣家も、正妻の座を勝ち取った左大臣家も、どちらも満面の笑みでの除目である。
(よしよし、両家の面目は完璧に保たれたわね。
これぞウィンウィンの極み!)
居並ぶ公卿たちの満足げな顔を見渡し、私は内心でガッツポーズを突き出していた。
だが、本当のサプライズは、この後に待っていたのである。
「……ときに、紅蓮の君よ。少々、耳を貸さぬか?」
祝いの言葉を述べに来た私に、主上はそっと囁いた。
「弘徽殿がな、次期東宮には光るの宮を、と右大臣を説得したのだ」
――主上からそう耳打ちされ、私は驚天動地の勢いで弘徽殿へと駆け込んでいた。
「なぜ、光るの宮を次期東宮にと、右大臣殿と主上を説得されたのですか……?」
(てっきり弘徽殿の女御様は、自分の孫を再び次期東宮に据えたいと思っていると……)
思わず素で驚きを露わにした私に、弘徽殿の女御様はぱらりと扇を開き、冷ややかに、けれど確かな光を宿した瞳でこちらを見た。
「……勘違いするな、紅蓮の君。
我が息子には、まだ子がいない。
主上が近く譲位され、我が子が帝となったとき、必ず『次の東宮』を立てねばならぬ」
扇の奥から、低く重い声が響く。
「その時、どこの馬の骨ともわからぬ者を東宮に据えてみよ。
権力を欲する浅ましい輩が、東宮を繰り上げるために、我が息子を呪い殺そうと躍起になるのは目に見えている」
女御様はすっと扇を下げ、不敵に、美しく微笑んだ。
「その点、光るの宮であれば、その背後にはそなたがいる。
――そなたなら、完璧に手綱を握ってくれるであろう?」
(……あ、れ? これって、もの凄く信頼されてる……!?)
驚きで固まる私の前で、女御様は「フン」とそっぽを向いた。
え、ツンデレ?
「……弘徽殿の女御様」
「……なんだ」
「父が宋との貿易で得た幻の神酒です。
どうぞご一献」
差し出した漆塗りの杯を見つめ、女御様は不機嫌そうに、けれどどこか居心地悪そうに鼻を鳴らした。
「……そなたは、いつもそうやって妙なものばかり持ってくる。
大宰大弐の娘の特権を、私に対するあてこすりに使っておるのか」
「滅相もございません。
ただ、誰よりもこの国の未来を鋭く見据えておいでになる、聡明なるお方へ。
敬意と、それから……ほんの少しの親愛の情を込めまして」
にっこりと、私は今日一番の、嘘偽りのない笑みを浮かべた。
彼女は一瞬、扇の隙間から目を丸くした。
だが、すぐに視線を逸らし、乱暴に、けれど落とさないように慎重に杯を受け取る。
「世辞など、私には通じぬぞ」
そう言いながらも、黄金色に輝く宋の銘酒を口に運ぶ。
ふわりと、異国の甘く芳醇な香りが弘徽殿の帳を揺らした。
「――美味いな」
ぽつり、と女御様が呟いた。
「これなら、主上への献上物としても文句はあるまい。
……紅蓮の君、そなたの持つその手綱、決して離すでないぞ。
我が子の御世を、そしてこの国の行く末を、そなたの双肩に賭けているのだからな」
その言葉の重みに、私は深く、今度は一人の忠実な同盟相手として頭を垂れた。
「――御心のままに。太后宮様」
弘徽殿の女御様――いや、この国の未来の国母は、ふっと満足げに口元を緩めると、気高く美しい御衣の裾をさらりと揺らし、御簾の奥へと消えていかれた。
こうして、血で血を洗うはずだった宮廷闘争は、大団円を迎えたのだった。
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