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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第一章 源氏物語の悲劇をぶっ壊します

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【朗報】ラスボス様、最高のツンデレ同盟になる

こうして迎えた、華々しい加階《かかい》の宣旨《せんじ》。



中宮と東宮が同時に決まったという前代未聞の慶事に、内裏はかつてないほど沸き立っていた。



主上への譲位を見据え、宮廷の重鎮たちにも破格の恩賞が下される。



桐壺の中宮様の後ろ盾である左大臣殿は、ついに人臣最高峰の位階である「従一位(じゅいちい)」へと昇叙。



そして、第一皇子様を東宮に送り出した右大臣殿には、東宮の最高峰の後見職である「東宮傅《とうぐうのふ》」への就任が命じられた。



東宮の未来を約束された右大臣家も、正妻の座を勝ち取った左大臣家も、どちらも満面の笑みでの除目《じもく》である。



(よしよし、両家の面目は完璧に保たれたわね。


これぞウィンウィンの極み!)



居並ぶ公卿(くぎょう)たちの満足げな顔を見渡し、私は内心でガッツポーズを突き出していた。



だが、本当のサプライズは、この後に待っていたのである。



「……ときに、紅蓮の君よ。少々、耳を貸さぬか?」



祝いの言葉を述べに来た私に、主上はそっと囁いた。



「弘徽殿がな、次期東宮には光るの宮を、と右大臣を説得したのだ」



――主上からそう耳打ちされ、私は驚天動地の勢いで弘徽殿へと駆け込んでいた。 



「なぜ、光るの宮を次期東宮にと、右大臣殿と主上を説得されたのですか……?」 



(てっきり弘徽殿の女御様は、自分の孫を再び次期東宮に据えたいと思っていると……)



思わず素で驚きを露わにした私に、弘徽殿の女御様はぱらりと扇を開き、冷ややかに、けれど確かな光を宿した瞳でこちらを見た。


 

「……勘違いするな、紅蓮の君。


我が息子には、まだ子がいない。


主上が近く譲位され、我が子が帝となったとき、必ず『次の東宮』を立てねばならぬ」



扇の奥から、低く重い声が響く。



「その時、どこの馬の骨ともわからぬ者を東宮に据えてみよ。


権力を欲する浅ましい輩が、東宮を繰り上げるために、我が息子を呪い殺そうと躍起になるのは目に見えている」



女御様はすっと扇を下げ、不敵に、美しく微笑んだ。



「その点、光るの宮であれば、その背後にはそなたがいる。 


――そなたなら、完璧に手綱を握ってくれるであろう?」




(……あ、れ? これって、もの凄く信頼されてる……!?)




驚きで固まる私の前で、女御様は「フン」とそっぽを向いた。



え、ツンデレ?



「……弘徽殿の女御様」


「……なんだ」


「父が宋との貿易で得た幻の神酒(みき)です。


どうぞご一献」



差し出した漆塗りの杯を見つめ、女御様は不機嫌そうに、けれどどこか居心地悪そうに鼻を鳴らした。 



「……そなたは、いつもそうやって妙なものばかり持ってくる。


大宰大弐の娘の特権を、私に対するあてこすりに使っておるのか」



「滅相もございません。


ただ、誰よりもこの国の未来を鋭く見据えておいでになる、聡明なるお方へ。


敬意と、それから……ほんの少しの親愛の情を込めまして」



にっこりと、私は今日一番の、嘘偽りのない笑みを浮かべた。



彼女は一瞬、扇の隙間から目を丸くした。


だが、すぐに視線を逸らし、乱暴に、けれど落とさないように慎重に杯を受け取る。  




「世辞など、私には通じぬぞ」




そう言いながらも、黄金(こがね)色に輝く宋の銘酒を口に運ぶ。


ふわりと、異国の甘く芳醇な香りが弘徽殿の帳《とばり》を揺らした。



「――美味いな」



ぽつり、と女御様が呟いた。



「これなら、主上への献上物としても文句はあるまい。

……紅蓮の君、そなたの持つその手綱、決して離すでないぞ。


我が子の御世を、そしてこの国の行く末を、そなたの双肩に賭けているのだからな」



その言葉の重みに、私は深く、今度は一人の忠実な同盟相手として頭を垂れた。




「――御心のままに。太后宮(たいごうぐう)様」  




弘徽殿の女御様――いや、この国の未来の国母は、ふっと満足げに口元を緩めると、気高く美しい御衣の裾をさらりと揺らし、御簾の奥へと消えていかれた。 




こうして、血で血を洗うはずだった宮廷闘争は、大団円を迎えたのだった。

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