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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第一章 源氏物語の悲劇をぶっ壊します

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全員が幸せになる道(Win-Win)を探せ

「姫様、左大臣家のご養女になられたとの宣旨《せんじ》が……!


ああ、神仏がお守りくださったのですわ、おめでとうございます!」



女房(にょうぼう)の少納言(しょうなごん)が、はしゃいだ様子で触れ回る。



「少納言。姫君の御前(ごぜん)ですよ」



小納言を嗜めた後、姫様に向かって礼を取る。



「姫様、おめでとうございます。母君もお喜びになられておりましたわね。


臣下として、心からお祝い申し上げますわ」



桐壺の更衣は、はっと顔を上げた。



「紅蓮の君。あなた、もしかして……」



すっと、人差し指で姫様の唇をそっと押さえた。



「姫様」



(どうかそれ以上、言ってはならない)



ここは内裏(だいり)だ。



簾《すだれ》の陰にも、眼《まなこ》が潜む。



いつ誰が密告の機会を狙っているか分からない。



いくら実家のスマホ(通話の鏡)や左大臣を味方につけたとはいえ、油断は命取りになる。



「ご迷惑でしたか?」


「ううん、そんなわけ……」


「今度こそ堂々と、主上《おかみ》のおそばにいらっしゃいませ」



――どうか、お幸せに。



姫様は目を見開いたあと、くしゃりと泣き笑いした。



「……ありがとう。私の紅蓮の精」



抱きついてきた姫様の肩に、私の涙が一粒こぼれた。



***



「桐壺の更衣様、あの……」



新参の女房が声をかける。



「これ、今は女御《にょうご》様ですよ」



「あ、失礼致しました!」



私がたしなめると、その女房は慌てた様子で頭を下げた。



「構わないわ。


ねえ紅蓮の君。


産着はどんな刺繍を縫うのがいいかしら?」



「桐壺(きりつぼ)の女御(にょうご)様……。縫い物など私がやりますわ。


大切なお身体なのですもの。


どうかごゆっくりなされませ」



「じっとなんかしてられないわ。


布は砧《きぬた》を打ったものがいいかしら?」



顔を綻ばせている姫様に、くすりと笑みがこぼれる。



「おや、相変わらず女御は紅蓮の君と仲が良い」



さら、と御簾(みす)が上げられた。



「お株を奪われてしまうな、私は」



「お、主上……!」



一斉に女房たちが礼を取る。



その最前列に座した私もまた、帝に礼を取った。



「これは主上。お出ましとも知らず、大変な不調法をいたしました」



「いやいや何を言う。


美しい花同士の内緒話(ささめごと)を見られたのだ。


得をした気分だよ」



くすくすと、忍び笑いを主上はお漏らしになる。



「ただ、我が寵妃《ちょうひ》を独り占めされて、少し妬けるな」



からかうように言う主上に、私も扇の陰から笑みをこぼした。



「まあ、主上。お株を奪うなど滅相もございません。


女御様が熱心に産着のことをお考えでしたので、ついお止めするのに夢中になってしまいましたの」



「変わらぬな、女御は」



そう口にされた主上の微笑みは、うららかな天日のごとく、ただひたすらに幸福な光をまとっておいでだった。



***



そして産まれた、光り輝くように美しい御子。



「おめでとうございます、桐壺の女御さま。


男御子にございます!」



ほぎゃあ、ほぎゃあと産声が辺りに響き渡る。



「よく頑張りましたね、姫……!」



姫様の母君が、彼女の額の汗をそっと拭った。



私はその光景を目の端にとらえながら、どこかぼんやりと産まれた御子を見ていた。


歴史の瞬間に立ち会ったような、不思議な高揚感。



(これが、のちの『光源氏』……)



すると、白いおくるみから覗く小さな手が、ふっと私の指先をかすめた。




(え?)




まるで、千年の時を超えて、私を見つけたかのように。




「自らの孫であり、日御子《ひのみこ》の皇子をこの目で見ることができるとは……。


紫苑(しおん)の姫宮(ひめみや)が身罷られた時、もうこの世に生きる甲斐など無いと思っていたのに……。



八百万の神々の導きに、感謝いたします」




はっと、後ろを振り向く。



見ると、姫様の母君がむせび泣いていた。




「紅蓮の君」



ぎゅっと、皺だらけの温かい手が、私の両手を包み込む。




「心から、お礼を申し上げます。


あなたの亡き母君、紫苑の宮様にも、なんと御礼申し上げれば良いか……。


本当に、ありがとう……」




手に額をあて、肩を震わせる。


その姿を見た途端、目頭が熱くなった。



「いえ、そんな……」



その手を握り締める。



温かいものが頬を伝い、じんわりと胸にしみこんだ。



「ほら、桐壺の女御様。あなたさまの御子ですよ」


泣き止んだ私が、白いおくるみに包まれた赤ん坊をそっと差し出す。



姫様は、色白の男御子を、愛おしそうにその胸に抱いた。



「光り輝くばかりに美しい子……。


ねえ、紅蓮の君。


この子はきっと『光(ひか)るの宮《みや》』と呼ばれるような、輝かしいお方になるわね」



そう微笑む姫様の腕の中で、のちの『光るの宮』――いまはまだ、ただの小さく愛らしい若君が、ふにゃりとあくびをした。




その光景を見た時、流し尽くしたと思った涙が、また溢れ出す。



まぶしいほど幸福で、満ち溢れていて、どうにかなりそうなほど輝いている光景。



(よかった、諦めないで)



ここまで頑張ってきて、本当によかった。



涙を流している姫様――桐壺の女御様を見て、わたしはぐすっと鼻をすすった。


***



とまあ感動に浸るのはここまでだ。


仕事である。




(姫様が男御子――原作の『光源氏』を産んだ。


これは弘徽殿の女御――とりわけ右大臣家にとっては、最大の目の上のたんこぶ)




帝の寵愛を独占する桐壺の女御様への嫉妬は、すでに宮廷で限界突破している。




もし、この生まれた男御子が、弘徽殿の女御の生んだ第一皇子を脅かすような存在になったら――。




原作通りなら、弘徽殿の女御は嫉妬に狂い、容赦ない虐めで桐壺の女御様を精神的に追い詰め、幼い若君をも排除しようと躍起になりかねない。



こめかみに指をあて、目を閉じる。



(考えろ。

右大臣家も左大臣家も帝も桐壺の女御様も若君も、全員が幸せになる道はなんだ?)



高速フル回転で頭を働かせる。


カシャカシャとパズルのように情報が一つ一つ当てはまっていく。



チチチチ……ピコーン!


(よし。決めた)



思い立ったら即行動、part2である。



最後までお読みいただきありがとうございます!


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明日【7:00】に続きを更新しますので、ぜひブックマークしてお待ちください!

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