不憫な東宮と友情の限界
宮中の回廊にて。
いつもは見目麗しくかつ完璧な神童として崇められている東宮が、ある女性の前でぴたっと動きを止め、置物のように固まっていた。
それを見つけた公達(友人たち)が、遠巻きにコソコソと囁き合う。
彼らは皇族の血を引いており、光るの宮とは遠縁である。
「おい、誰だあいつ」
「多分……光るの宮様、かと……??」
「ああ、確か片恋している思い人ですよ。
年齢が上すぎて相手にされてないって噂の」
「いや、気づかれてもいないんじゃないか?」
普段の威風堂々とした姿からは想像もつかないポンコツぶり。
紅蓮の君が立ち去った瞬間、友人たちはニヤニヤと面白がりながら光るの宮の元へ歩み寄った。
「おい光るの宮、お前男だろ!? 七年も思っていた相手なら、一気にいっちゃえよ!」
背中をバシッと叩かれた光るの宮は、死んだ魚のような目でゆっくりと振り返った。
「……そんなことしたら、私は内裏除籍された上に財産差し押さえになるが??」
「「「ああ……」」」
友人たちの笑顔が、一瞬で凍りついた。
(そうだった……相手はあの紅蓮の君様だ……)
(中宮様の乳姉妹にして、帝や院の政治の師……)
(大宰帥の左大臣が父で、太后宮様の寵臣……)
(手を出した瞬間に、総出で政治的に潰しにくるやつだ……)
指一本触れることすら許されない、あまりにも過酷な「縛りプレイ」の現実。
しかも、当の紅蓮の君は、顔を青くして固まっている光るの宮を遠くの廊下からじっと見つめ、至極真面目な顔で首をかしげていた。
(若君、何だか顔が青いけれど……。
はっ、まさか、チアノーゼ!?)
(※恋わずらいです)
温かいお茶を用意しなければと、紅蓮の君は急いで走り去る。
あまりにも噛み合わない二人の空気感と、光るの宮が背負うリスクの重さに、友人たちの顔から完全に悪ふざけの色が消え去った。
「……お前、東宮のくせに、日本一不憫な片想いしてないか……?」
「……うん」
静かに納得した友人たちは、そっと光るの宮の元へ歩み寄ると、
無言でその肩を優しくポン……と叩いた。
「……がんばれ」
「……お前が十五歳になって元服する日を、俺たちは信じているからな」
光るの宮は涙目で友人たちを見上げた。
「お前たち……!!
だったら誰か、紅蓮の君に『光るの宮様は反抗期じゃなくて恋わずらいです』って伝えてくれよ!!」
その切実な叫びに対し、友人たちは揃ってスッと目をそらした。
「おれはまだ太后宮様に睨まれたくない」
「中宮様の乳姉妹でもあるんだぞ??」
「朱雀帝も桐壺院も、実質的な政治助言者として紅蓮の君を重宝しているし」
「何より紅蓮の君様は、死んでも敵に回したくない」
「「「それな」」」
全員の意見が完璧に一致した。
「この薄情ものぉぉぉ!!!」
宮中の廊下に、東宮の切なすぎる悲鳴が虚しく響き渡るのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
この公達は遠縁ですが、一応皇族の血を引いている者達なので、東宮の光るの宮の身体に触れることや、戯れることを許されています。
ですが、やっぱり最高権力者たちに逆らうのは嫌なのでしょう。
(光るの宮自身も東宮で、最高権力者の一人のはずなんですがね……。
まあ、それほど紅蓮の君は、宮中の影のドンであり、触れられぬ高嶺の花として畏れられているってことです)
友人達の一糸乱れぬ団結した行動、思考を楽しんで頂ければ幸いです。
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