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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第二章 日本一モテるのに日本一不憫な東宮

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赤ペン先生と撃沈する十四歳

「……ふぅ、よく寝たわぁ……」


一ヶ月後。


実家で美味しいものを食べ、ひたすら眠りこくった紅蓮の君は、すっかり正気を取り戻してすこぶる元気に宮中へと復帰した。



(あ〜、やっぱり有給休養って大事ね! あんなコスモと交信するレベルのトランス状態になるまで働くなんて、社畜の鑑……じゃなくて反面教師だわ)



肌もツヤツヤ、気力も体力も充填100%。

すっきりと爽やかな笑顔で出仕した紅蓮の君。



――しかし、彼女は知らなかった。



彼女が実家でぬくぬくと眠りこくり、東宮からの超高額サブスク見舞い品に首を傾げていたこの一ヶ月の間に、宮中で何が起きていたかを。



『五節舞での紅蓮の君の神々しい舞姿』


そして――


『それを盃を握りつぶしそうな顔で見つめ続け、舞が終わった瞬間に真っ先に控室へと突撃した東宮』



という宮中を揺るがした超メガトン級の激震ニュースが、人々の間で散々語り尽くされ――



見事に『巨大な誤解』と共に風化・終息していたということを。



「おはようございます、皆様! 一ヶ月もお休みをいただいてしまってすみません、今日からまたバリバリ働きますね!」



元気いっぱいに挨拶し、爽やかに腕をまくる紅蓮の君。



そんな彼女の姿を見て、周囲の女房や公達は目頭を熱くしながら固く頷き合っていた。



(……あの身持ちの固い東宮様が、舞終了と同時に控えの間に押し掛けられたのよ!?)



(どれだけお熱い寵愛なんだ……)



(次の日紅蓮の君が、魂が抜けたようになっていたのはそれが原因か……!)



(紅蓮の君様は、その情熱と噂の凄まじさに恥じらい、あまりの奥ゆかしさに一ヶ月も実家に引きこもってしまわれたのね……!)



(なんと可憐で繊細なお方……! これ以上お噂をしてはお可哀想だわ、触れたら野暮というものよ! そっとしておいて差し上げましょう!)




こうして、宮中の人々は妙な気遣いを発揮。



結果として、「自分が舞でお披露目され、大噂になっていた」という衝撃の事実すら、


一切本人の耳に届かないまま、紅蓮の君の平和(?)な社畜日常が再開したのだった。



***



その夜、光るの宮は寝所にも入らず、ただ一心不乱に硯(すずり)に向かっていた。



指先を震わせ、幾度も紙を反故にしながら、己の胸に燃え盛るすべての情熱と恋情を注ぎ込んで詠み上げた、魂の一首。



『降り積もる 雪の深さに 消えざるは 我が思いなり 告げぬ心も』


(※あなたを想う私の恋心は、降り積もる雪のように深く、決して消えることはない。どうかこの想いに気づいてほしい……)



(……これで、僕を子供とは言わせない。彼女も僕の『本気』に気づくはずだ)



一人の男として送った渾身の恋文。



そして直筆の恋歌は、れっきとした求婚の申し込みである。



翌朝、心臓を早鐘のように打たせながら、返信の文を待っていた光るの宮のもとに届いたのは——



鮮やかな朱筆(赤ペン)でびっしりと添削された、あまりにも完璧な答案用紙であった。



 



『若君、素晴らしい出来栄えです!



ただ、「降り積もる雪」という比喩は少し重く感じられる姫君もいらっしゃるので、



本命の方への練習としては、もう少し風流な花などに例えると好感度が上がりますよ。



とはいえ、十代前半でここまで詠めるのはさすが若君!



二重丸です!




 追伸:こういう時は、以下のように詠んだ方がより姫君の心を揺さぶることができますよ。



【模範解答】


『思ひ出づる 雪のまにまに 散る花は 君が心に 匂ふ春かな』


(※雪の中にすら春の花を想うように、あなたの心に私の影がかすかでも匂い立つことを願っております)



 参考にしてみてくださいね!』



 



「……」





自室の文机の前で、光るの宮は「大変良くできました」と書かれた赤筆書きを見て、遠い目をした微笑みを浮かべて硬直していた。




***



その日の午後。



頭中将(親友)の邸に乗り込んだ光るの宮は、魂の抜けた顔で膝を抱えていた。



「なあ、どうしたら息子でも甥でも生徒でもなく、

一人の男としての求婚として見てもらえると思う?」



唐突すぎる東宮の悩みに、頭中将は呆れたように肩をすくめる。



「はあ?


お前のその顔面で正面から『好きだ』って言えば、大抵の女なら『はーい』って一発で落ちるだろ。


悩む要素がどこにある」



「ならない」



即答であった。



光るの宮の目が死んでいる。



「……私がどんなに『好きです』と真剣に愛を囁こうと、



『まあ、ありがとう! 私も大好きよ。

(※属性:家族愛/ステータス:母性)』



って優しく微笑まれて、頭を撫でられて終わるんだ」



光るの宮は、血の涙を流さんばかりの顔で、朱筆の入った文を机の上に叩きつけた。



「……文(ふみ)を送ったら、添削された上に、私より遥かに素晴らしい手本を書き添えられて戻ってきた……」



頭中将がその文を手に取り、そこに書かれた美しく洗練された模範の和歌を目にした瞬間、その顔が引きつった。



「な、なんだこの完璧な和歌は……!

宮中のどんな歌詠みも顔負けじゃないか!


……お前の想い人、本当に何者なんだよ!?」



光るの宮は、天を仰いだ。



「……僕の、家庭教師だ……」



十四年かけて築かれた「優秀な生徒と先生」という絶対不可侵の防壁。



光るの宮の「男としての情熱」は、天衣無縫な添削によって、あえなく撃沈させられたのであった。



ここまでお読みいただきありがとうございます!


家庭教師としての職務を完璧に果たす紅蓮の君。


光るの宮……多分一通ぐらいじゃ紅蓮の君は気付きません。


「好き」という言葉も家族愛として処理されます。


「面白かった!」「次も気になる!」と思っていただけましたら、

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