百戦錬磨の女傑の密談
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「これでよかったか?」
「さすがは太后宮様。
あの子の……いいえ、我が一族の至宝である紅蓮の君の、
あんなにも間抜けで愛らしい勘違いを、こうも綺麗に収めてくださるとは」
御匣殿別当――紅蓮の君の叔母であり、後宮の裁縫や衣装を統括する実力者は、
紅蓮の君とお揃いの鮮やかな紅の扇で口元を覆いながら、優雅に目を細めた。
「あのままでは東宮様が痺れを切らして、夜陰に紛れて太宰大弍の屋敷の壁を飛び越えかねませんでしたわ。
……まあ、我が義兄の『軽い風邪』が、帝の過剰なお気遣いによって『死の淵』にすり替わっていることだけは、少しばかり不憫でございますけれど」
「ほほほ。朱雀帝の慌てぶりも傑作であったからな。
それもこれも、紅蓮の君が優秀すぎるゆえの弊害よ」
太后宮は愉快そうに目を細め、お茶を一口含んだ。
御匣殿別当は扇の陰からチラリと東宮が立ち去っていった方向を伺うと、ふっと艶やかな笑みを深くする。
「紅蓮の君は幼い頃から聡明で、仕事は完璧、周囲の思惑にも目ざといというのに……
自分のこととなると、呆れるほど鈍感でございますから。
まさか東宮様のあの殺気立った情熱を『思春期の反抗期』で片付けるとは。
叔母として頭が痛いやら、可愛いやら……」
「だが、これで光るの宮も腹を括った。
あやつが『弟』の皮を脱ぎ捨てた時、紅蓮の君がどのような顔をするか……楽しみではないか?」
「ええ、本当に」
御匣殿別当は手元にある紅蓮の君へ贈るための新しい衣装――男を狂わせるに十分な、密やかな艶やかさを秘めた表着をそっと触れた。
「一月後、実家から戻ってきた姪が『ただいま戻りました、若君!』と呑気に微笑んだ瞬間……内裏がどれほど甘く恐しい戦場になるか。
叔母として、特等席で見物させていただくことにいたしますわ」
後宮を裏で仕切る熟練の女たちによる、完璧な「外堀埋め」が完了した瞬間であった。
「ほほほ。そなたも意地の悪い叔母よの」
太后宮は満足そうに目を細め、手元の茶器を静かに置いた。
「なに、姪の幸せを願う叔母のささやかな助力をしたまでにございます。
あの子があまりに『有能な臣下』『良き姉』の役割に固執しすぎるものですから……。
少々、背中を押して差し上げねば、東宮様のあのお可愛らしいお心が報われませんでしょう?」
「うむ。覚悟を決めた男の執念ほど恐ろしいものはないからの。
一月の猶予は東宮にとっては『狩りの仕込み期間』に過ぎぬというわけだ」
二人の熟練の女たちが交わす笑みは、華やかでありながらどこか妖しく、これから巻き起こる波乱を楽しみに待つ観客そのものであった。
「そうと決まれば、私はあの子が戻ってきた折に纏わせる袿の仕立てを急ぎませんと。
……東宮様の理性を完璧に吹き飛ばし、なおかつあの子の無自覚な美しさを最大限に引き立てる、極上の重ねを仕立ててみせますわ」
「よいぞ、大いに励め。上の胃の腑が破裂せぬ程度にな」
「ほほほ、帝には典薬頭から胃薬を多めに処方していただきましょう」
高らかな笑い声が、静かに御帳台に溶けていった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
「お主もワルのよう」
「いえいえお代官様ほどでは」
(平安バージョン)
を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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