鬼子母神化した最強公務員、爆誕
あの幼き日々から時が流れた。
さあ、皆さまご覧ください。
目の前にいる、千年に一人の儚い系美少女を。
そう、あの光源氏の未来の母。
桐壺の更衣さまです。
(うっっそでしょ)
平成令和を生きた私が平安時代に生まれ変わっただけでも信じ難いのに。
(源氏物語に転生とかあり得るの???)
しかも桐壺の更衣さまの乳姉妹です。
原作では「身分が低いくせに帝の寵愛を得るなんて生意気よ!」といじめにいじめられ、
ストレスで光源氏を産んだ数年後に儚く亡くなった、あの桐壺の更衣。
母の死がトラウマになった光源氏は、その寂しさから母を求め、父の再婚相手である義母に焦がれてしまう。
実の父の妻という、決して許されない恋。
この出来事が、全ての悲劇の元凶となるのだ……。
(わーい人生ルナティックモードだーー)
「どうしたの紅蓮の君。
干し魚みたいな目をして……」
「イエナンデモアリマセンワ」
いかんいかん、美少女に心配かけるなどオタクの心が許さん。
何とか笑みを浮かべれば、姫様はほっとした顔で笑った。
「でも……本当に良いの?
紅蓮の君。
父上の遺言で宮中に上がった私についてきてくれたこと、本当に嬉しく思ってるわ。
けど……」
「良いのです姫様。
お気になされずとも」
「でも私の乳母……あなたの母君も亡くなられたのだし……。
我が家にはもう、私を守ってくれる現役の後ろ盾がいないのだもの……。
あなたには、後ろ盾が立派なお父上や叔母様がいるわ。
無理に私について来なくても……」
「姫様」
静かに、だがきっぱりと言う。
「私自身が決めた道ですわ。
姫様をお守りするという道を。」
白くか細い手を、そっとつつみこむ。
お美しいとはいえ、幼さが残るお顔。
(当然だ。まだ十二歳だぞ!?)
まだ親元でぬくぬくと守られていい年頃の少女。
それが、いくら父の遺言とはいえ、後ろ盾もないまま魑魅魍魎の伏魔殿に放り込まれたのだ。
(不安がない訳がない)
乳姉妹として共に育った姫様を一人にするほど、私は薄情にはなれない。
背筋を伸ばし、ふわりと笑みを浮かべる。
「誰が姫様の元を離れようと、誰がなんと言おうと、私は姫様のおそばにおります」
「紅蓮の君……」
「私が、姫様をお守りします。
だから、どうか……ご安心くださいませ。
――もう、泣いていいのですよ」
ぽろりと、黒真珠の様な瞳から雫が溢れる。
ひくひくと、嗚咽が混じる。
震える肩を、そっと抱きしめた。
(この姫様を、絶対に幸せにする)
権力?
身分?
運命?
ーー知ったことか。
(原作『源氏物語』の運命や未来なんか知らん!)
運命っていうのは自分で切り開くもの。
未来っていうのは自分で作り上げるもの。
大好きな幼馴染を嫉妬で殺されてたまるか。
そんな運命はぶち壊す。
(元国家公務員の意地、見せたるわ!!)
――鬼子母神化した私の般若顔は、泣いている姫様には見えなかった。
***
後ろ盾がないなら作ればいいのだ。
私は、速攻で父上の所に参上した。
我が父、大宰大弐兼内大臣。
【ポジション:最強の経済力・外交・密輸、ルートの覇者、政治補佐の裏ボス】
経済を牛耳る都市、大宰府――九州の実質的なトップだ。
名目上のトップ、「帥」は皇族が形だけ就くため、この「大弐」が全権を握っている。
この時代、中国(宋)などからの最新の渡来品や贅沢品、香料、薬は、すべて大宰府を経由していた。
つまり、「莫大な富」と「超希少な貢ぎ物を牛耳る役職だ。
いわば経済と政治の影のドンである。
そして、わが母の姉君である叔母、御匣殿別当。
【ポジション:宮廷のハイエンド・ブティック】
「御匣殿」とは、帝が着る最高級の衣装や、装飾品を裁縫して管理するお部屋。その最高責任者が「別当」。
いわば宮廷での衣食住を握る影のドンである。
目には目を。
歯には歯を。
権力には権力を。
(使えるものはフル活用!)
そこ、思いっきり親や身内の権力とか言わない。
私は私の大切なものを守る為に全力フルスイングで行きますが何か??
国家公務員仕込みのロビー活動(根回し)、ここに極まれりである。
(だが表立ってお父様や叔母様に頼る事はできない。
あくまでも、政治に直結する最高峰の身分が、姫様の後ろ盾としては最適だ。)
そうでなければ、潰される。
我が姫様の最大のライバル、
弘徽殿の女御。
女御とは、帝の奥さんの中で二番目に地位の高い女性で、超絶エリートの娘しかなれない。
ちなみに一番地位が高い奥さんは「中宮」という。ただ、こちらはまだ誰も決まっていない。
弘徽殿の女御は、今を時めく右大臣、政権のNo.2実力者の娘。
その上去年は第一皇子を産んだ、今や最も宮中で力を握っている女性。
(原作ではやりたい放題だったもんね……
嫌がらせで廊下に汚物ぶちまけるとか……
ないわーー……)
姫様は、お父様が大納言、お母様は皇族の出身。
出自だけ見れば、女御にも引けを取らない身分である。
だがお父様が亡くなり、すっかりお金に困ってしまい、没落してしまった。
そんな少女に帝は心を奪われ、溺愛し始める。
現代風で喩えると、会社に貢献して亡くなった先代副社長の娘が、後ろ盾のないまま中途採用で入ってきたら、社長がめちゃくちゃえこひいきし始めた……みたいな感じ。
そりゃあエリート叩き上げの女御様たちからすれば、面白くないのは当然だ。
(でも、陰湿ないじめって、千年前から変わってないのね)
ため息をついたあと、顎に手をあてる。
(右大臣に対抗でき、かつ政治のバランスを乱し過ぎない権力者……。)
悪いけど泣き寝入りとか趣味じゃないんで。
左の頬を叩かれたら右の頬を差し出す殊勝な精神?
そんなものは前世の泥沼予算均衡でかなぐり捨てました。
(そう、右大臣家に出遅れて逆転のチャンスを虎視眈々と狙っている、政権のNo.1実力者。
右大臣派と内閣の議席を二分する、もう一つの巨大派閥のボス。
……あなたしかいないわね。
左大臣)
前世の友達に言われた。
「あんたって思い立ったら一直線よね」と――。
最後までお読みいただきありがとうございます!
【紅蓮の君がアップを始めました】
【左大臣(最高権力者)
LOCK ON !】
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