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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第二章 日本一モテるのに日本一不憫な東宮

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宇宙交信の代償

舞が終わるやいなや、光るの宮は弾かれたように席を立った。



(ダメだ、もう抑えきれない……!


あの舞を見せられて、ただ指をくわえて見ていろという方が無理だ!!)



皇族としての外聞も、日頃の思春期ゆえの気まずさもすべて投げ捨て、彼は一直線に紅蓮の君の控室へと向かう。



「紅蓮の君!!」



バッ、と勢いよく御簾を押し開き、胸に秘めた激しい情熱のままに踏み込んだ光るの宮。



「私――私、あなたに言わなければならないことが――っ!?」



だが、そこで光るの宮の言葉はピタリと途切れた。



控室の奥、豪華絢爛な装束のまま座り込んでいる紅蓮の君。



その瞳はどこか遠く……そう、大宇宙の果てを彷彿とさせるような、



見たこともない虚無と恍惚が混ざった顔で、

「ポーッ……」と天井を見つめていたのだ。



「ぐ、紅蓮の君……!?」



(……はぁぁ……宇宙って……広いのね……。


ビッグバン……星々の生滅……。


それに比べたら、私の社畜生活の悩みなんて……)



完全にトランス状態から戻ってきていない。



命がけの愛の告白をしようと意気込んでいた光るの宮の熱量は、一瞬で明後日の方向へと消し飛んだ。



「ど、どうしたのですか紅蓮の君!?


顔色が悪いわけではないが、目が……目がどこか彷徨っている!




誰かある!!


典薬寮(てんやくりょう)を呼べ!!


腕利きの薬師(くすし)と、加持祈祷の高僧(こうそう)もだ!!



紅蓮の君の魂がどこかへ引き抜かれてしまっている!!」



「あ、若君……? どうされたのですか、そんなに慌てて……。


私なら大丈夫ですよ、ちょっとコスモと交信していただけですから……」




「こすも!!? 何ですかそれは!! やはり恐ろしい物の怪の呪いか何かにかかっているのでは……!?」



「いいえ……銀河の真理です……」



「しっかりしてください、紅蓮の君ーーーーー!!」



愛の告白をするはずだった東宮・光るの宮は、半泣きになりながら紅蓮の君の肩をガクガクと揺さぶる羽目になったのだった。



***



――そして舞の翌日。


宮中では、恐ろしい『怪現象』が観測されるようになった。



「……紅蓮の君、本当に何もお召し上がりにならなくて大丈夫ですか……?

せ、せめて汁物だけでも……!」



「はい……コスモが……銀河の旋律が語りかけております……」



目は完全に死んでおり、魂は宇宙の彼方へ旅立っている状態。



にもかかわらず――




シュバババババババッ!!




「はい、こちら今月の収支報告書です。あちらの政務の案件もまとめておきました。

ついでに典薬寮(てんやくりょう)への薬草の予算申請と人員配置案も通しておきましたので……」



手だけが異次元のスピードで爆動していた。



無意識のうちに、前世の社畜根性と長年の尚侍としての習性が勝手に仕事を終わらせていくのだ。



『怪異「社畜ゾンビ」爆誕』という恐ろしい光景に、周囲の女房や官人たちは大パニックに陥った。



「お願いですから休んでください!!」


「目が! 目が死んだまま完璧に政務を裁いておられる!!」


「命を削ってまで引き継ぎの仕事をなさらないで……っ!」


「典薬寮! 早く強力な気休めの気つけ薬を――!!」



光るの宮と桐壺の中宮は、半泣きになりながら紅蓮の君の手から強引に筆を取り上げた。



裏では桐壺院と朱雀帝、そして太后宮までもが即座に動く。



皇族の絶対権力を総動員し、異例のスピードで有給取得手続きを完了させた。




こうして、ロイヤルファミリー総出の必死の懇願と絶対命令により、



紅蓮の君は七日間の短期休暇では無く、



「一ヶ月の強制実家休養」を命じられることとなったのだった。



***




実家に帰る道中、牛車の中でまだポー……となっていた紅蓮の君は、



ガタン!!



と石につまづきかけた牛のせいで揺れた車内で、思いっきり頭をぶつけ、漸く正気に目覚めた。




「あいたたた……」



涙目で頭をさすっていると、ハッと目を見開いた。



(そっ、そうだ。


ゾーンに入っていて、すっかり忘れかけていたけど……!



元々この里帰りは、父上の病症が心配でもぎ取ったんだ……!



宇宙と交信している場合じゃなかった……!!)



一気に顔が青ざめる。



(もし、もし父上の病が、季節の変わり目や涼しさで悪化でもしていたら……!)



***



太宰大弍邸についた私は、転がりでるように実家に飛び込んだ。



「父上ぇぇぇーーーーっ!!! 生きて……生きておいでですか父上っ!?


すみません、すぐ帰ることができなくて……!


典薬頭殿、父上の命はあとどれほど持つのですかっ!?」



「ひっ、ひえええっ!?


紅蓮、何を言い出すのだお前はー!?



わしはただの鼻風邪じゃ!



典薬頭殿が帝の勅命で特級の霊薬を山ほど抱えて乗り込んできたから、


家族総出で震え上がっておったところじゃぞ!?」



輿から飛び出し、涙目で屋敷へ駆け込んだ紅蓮の君と、鼻をかみながら呆然と立つ父。



あまりの温度差に、紅蓮の君は「えっ……?」と固まり、帝の過剰すぎる重病説の真相を知るのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます!


一世一代の告白をしようと意気込んでいたにも関わらず、紅蓮の君のコスモ交信のせいで振り出しに戻ってしまった光るの宮、不憫ですよね……。


頑張れ光るの宮!負けるな光るの宮!


きっとおそらく多分チャンスはこれからあるぞ!


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