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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第二章 日本一モテるのに日本一不憫な東宮

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舞い散る紅葉とコスモの交信

高く澄んだ神楽笛の音が静寂に響いた。


和琴(わごん)の音と共に、紅蓮の君はしとやかに舞い始める。



重い装束を纏いつつも、不思議と身体は軽かった。



先程までは、大勢の公卿たちの前で得意でもない舞を披露することに、胃が痛む思いをしていたというのに。



(これも、猛練習の成果かしら……)



かつて五節舞姫を務めた舞師にみっちりとスパルタ指南してもらったお陰だろう。



(不思議なこともあるものね……。



こうして桐壺院や中宮、朱雀帝、太后宮、


そして――あの『光源氏』の前で、舞姫として舞うことになるなんて。



令和を生きる社畜だった私には、想像すらできなかった。)



でも、それが人生。



平安時代に生まれ変わり、何もかもが現代と違う日々。


令和では許されざる理不尽が平気で通ってしまう宮廷。


華やかな富と権力の陰で泣く人々。



(なぜ、私はこの時代に生まれてしまったのか。


これからどうなってしまうのか。



――なぜ、私だったのか。



わからぬ因果や先の見えぬ未来に不安を感じ、一人で涙を流した夜もあった……)




だが、こうして舞っていると、何もかもがすうっと一つの線で繋がっていくような感覚に包まれた。



ゆらゆらと揺れる篝火。


黒袍(くろほう)を纏い、息を呑む公卿たち。


夜の闇に照らされ、ひらひらと舞い散る紅葉。


頭上に煌めく銀漢(ぎんかん)。




まるで全ての出来事が、あるべき場所へと整っていったかのように。



――生きている。


生きることを、許されている。


もうそれで、良いではないか。




(舞おう)




わからぬことに嘆くのではなく、


ありもしない未来に心乱すのでもなく、


ただ今この瞬間を、精一杯生きる。



(それが、私にできることだ)



閉じた瞼の裏で、天の河の残像が眩しく瞬いた。



***


光るの宮は、震える手を抑えることができなかった。




――息を、忘れた。


あの人の燃えるような瞳に、魂ごと吸い込まれていく。




(美しい)



どんな時でも前を向き、凛と咲き誇るその生きざま。




世の不条理にただ嘆き、涙で袖を濡らすだけではない。



溢れる涙を堪えながら、それでも己の足で精一杯歩んでいく姿。




雨の日も、嵐の日も、雪の日も――決して折れず、屈せず、曲がらず。



……思い違いをしていた。



私は、あの人を自分の手で守り、幸せにしてあげたいと思っていた。




でも、違う。




あの人はどんな泥沼や濁流に呑まれても決して己を見失わず、自らその流れに乗り、大河の流れそのものを変えていく人だ。



自らの幸せを誰かにねだるのではなく、己の腕で切り拓いていく。




冬を耐え抜き、氷面を割って花を芽吹かせる――泥中(でいちゅう)の蓮(はちす)。




(欲しい)



あの人が、欲しい。



どうしようもないほど、狂おしいほどに。



眩しいばかりの光を一度知ってしまって、どうしてそれを手放すことなどできようか。




もう、童(わらべ)の甘やかな感情ではない。



どうしても胸の中で割り切れぬ、この激しい想い。



(紅蓮の君)



あなたに私を愛せと強いることはできない。



「人の心は誰にも縛れない、自由なものだ」と、私に教えてくれたのは貴女なのだから。



(だから……どうか)



私にあなたを、生涯愛し抜く赦しがほしい。



***



――光るの宮が、人生のすべてを賭けるような深い情熱と執着を秘めた眼差しで見つめる中。



当の紅蓮の君はというと――。




(……す、すごいわ……これがスポーツ選手とかが言う『ゾーン』ってやつかしら……!?


なんだか私、いま宇宙(コスモ)と繋がっている気がする……!


ビッグバンから始まる生命の輝き、そして銀河の旋律……!


あぁ、令和の社畜生活の悩みなんて、大宇宙の歴史から見ればほんの一粒のチリに過ぎなかったのね……!!)




完全に悟りを開ききった紅蓮の君は、光るの宮の必死で熱烈な視線にまったく・全然・これっぽっちも気づいていなかった。



完璧な所作で最後の一振り(※コスモ交信のフィナーレ)を終え、優美に頭を低くする。




その神々しいまでの佇まいに、会場全体から「おお……!」と地鳴りのような感嘆の溜め息が漏れ聞こえた。




(ふぅぁぁぁぁ……! 終わったぁぁぁ!! 途中で転ばずに舞いきったぞ私!!


これで尚侍としての面目も完璧に保てたわ……!!)



先ほどまで宇宙と一体化していたとは思えない『社畜の安堵感』を胸に抱き、紅蓮の君は「やりきった顔」で深く息を吐く。




一方その頃、御簾の向こうでは――。



「光るの宮……? おい、光るの宮、盃を落としているぞ」



桐壺院や朱雀帝の声も耳に入らないほど固まった光るの宮が、


手から盃を滑り落としたまま、


静かなる決意と情熱を宿した瞳で、じっと紅蓮の君の立ち姿を見つめ続けていたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!



光るの宮は人生賭けるレベルで惚れ切っているのに、紅蓮の君はコスモ交信中で、全く気づいていないという温度差を楽しんでいただけたら嬉しいです。


こんな舞を見せられた光るの宮は、どうするのか……!?


「面白かった!」「次も気になる!」と思っていただけましたら、

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