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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第二章 日本一モテるのに日本一不憫な東宮

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昨夜はお楽しみでしたね(誤解)

中宮様との会談を終えた次の日。


私は腹心の側近、衛門(えもん)と共に、本日のスケジュール確認と五節舞姫になったことを報告するため、


光るの宮様の御所、東宮御所(とうぐうごしょ)へと参っていた。


「ねえ衛門、今日の予定はどうなっているかしら?」


「本日は朱雀帝より会談のご希望が届いております。五節舞の件でご相談があるとのこと。


また桐壺院様からも『予算の件で意見を聞きたいので、ぜひ東宮とご一緒に』とお召しでございます」


「そうね。若君にとって勉強になるでしょうし、彼自身の意見も聞いておきたいわ。


時間を調整してくれる?」


「かしこまりま――」



その時、前方の廊下から、尋常ではないざわめきと熱気が伝わってきた。



嫌な空気ではない。むしろ、純粋なまでに一途な熱だ。



「ねえ衛門」



「……なんでしょう、紅蓮の君様」




「……何かしら、この怒涛の女性大行列……」




美しい黒髪がたなびき、華やかな着物が幾重にも重なって見える様は、まさに百花繚乱。



きゃいきゃいと子雀(こひばり)が囀るように、数多の女房たちが扇の影でお喋りを繰り広げている。



(この光景、どこかで見たことがあるような……)



うーんと首を傾げる。




(あ)




ぽん、と手を叩いた。




(思い出したわ。現代でいう『アイドル出待ち&ファンサ待ち』だ!!)




「はあ……早くお目にかかれないかしら、光るの宮様に……!」



「わずかにお姿を拝見できるだけで、心が洗われますわ!」



「あのお美しい御尊顔(ごそんがん)を見られれば、日々の疲れなんて一瞬で吹き飛びますもの!」



「他の公達(きんだち)と比べても、一際まばゆく輝いていらっしゃるわ」



「東宮様ですもの、当然ですわね!」



「それでいて御身持ちが非常に堅く、女房からの誘いも雅にかわされるお姿と言ったら……もう、憎いお方!」




御簾の裾から色鮮やかな袖口がのぞく。




きゃっきゃと楽しそうだ。



推し活が肌と精神に良いのは、千年前の平安時代から変わらないらしい。




(これ全員がファンかあ……若君のお部屋はもっと奥のはずなんだけど、人垣で塞がれてるわね)




大丈夫かしら若君。


まあ若いから平気か。




ひょいとつま先立ちで覗き込むと、女性の山に埋もれている若君のお顔がチラリと見えた。



右には妖艶系美女、左には清楚系美女。



前には愛らしい系美少女、後ろには庇護欲をそそる系美少女。




(わお、すごいハーレム。見事な両手に花ね)




「如何いたしますか、紅蓮の君様?」



「若君の人生の春を邪魔するほど不粋ではないわ。今日の政務は私達で片付けておきましょう」





人生は長いが青春は短いのだ。思い切り満喫させてあげようではないか。



まあ、うちの若君に限って、原作の光源氏のように女性を弄んで泣かせたりはしないはずだ。



何しろ、私が幼い頃からしっかり教育したのだから!




『いいですか若君。


決して強引に迫ってはいけませんよ。


女性にはどこまでも優しく誠実に!


そうすれば嫌というほど女性の方から寄ってきますからね!』




(幼い頃から言い聞かせておいた甲斐あって、こんなに立派なモテモテ美少年になって……!)




「じゃあ衛門、朱雀帝のところへ――」




その時、ぱちっと若君と目が合った。




(あ、若君。ご機嫌よう)




笑顔で一礼を返す。




次の瞬間――若君の顔色が、一気に青ざめた。



口をパクパクと、陸に上がった魚のように開けては閉じている。




(え、何?)




読唇術で読み取ろうとするが、群がる女房たちの波に隠れてしまって上手く読めない。



邪魔をしては悪いと、すっと頭を下げてその場を去ろうとする。




すると若君の顔色は、青から一飛びに土気色へと変わった。





(えっ、いったいどうした美少年。)




何かを必死に叫ぼうとしているようだが、たなびく袖と扇に遮られて声が届かない。




(なんだろう……???



あ、もしかして!)




ポンッと手を打つ。




(安心してください若君!



お父様(院)とお母様(中宮様)には、



『若君はお勉強に集中されています』って上手く誤魔化しておきますからね!!)





私は若君に向かって、力強くグッとサムズアップしてみせた。




この平安時代にサムズアップの文化など存在しないが、まあ「私に任せておけ!」という意思は伝わっただろう。




だって、若君がピタッと静止したのだから。


意思疎通バッチリである。




「紅蓮の君様、そろそろお時間が……」



「ああ衛門、ごめんなさい。朱雀帝をお待たせするのは失礼ね、急ぎましょう」




着物の裾を翻し、私は颯爽と歩き出す。




「衛門、東宮の案件で私が処理できるものは全部回しておいてちょうだい。



明日の朝までは、若君が『ごゆっくり』できるように配慮してあげてね」




「かしこまりました」



***




一方その頃、残された光るの宮はというと――。



「いや違うんです誤解です!!



この女性たちは勝手にひしめいているだけで、私が遊んでいるわけでは……って、



優美に立ち去らないでください紅蓮の君!



説明させてくださいぃぃぃ!!」



必死で人波(女性の山)をかき分けようとするが、あまりの人数に身動きが取れない。




そして、どんなに焦っていても女性たちを強引に押しのけたり、払いのけたりすることができない光るの宮。




……こんな絶体絶命の瞬間ですら、幼少期に紅蓮の君から叩き込まれた『スパダリ紳士教育』を忠実に守ってしまう、涙ぐましい優等生であった。




「紅蓮の君―――!!」




悲痛な叫びをあげるが、「光るの宮様―――きゃあぁぁ!!」という女房たちの黄色い歓声にかき消され、遥か遠ざかる紅蓮の君の耳には一拭きも届かない。




「やあ東宮、相変わらず羨ましいですねえ!」


「いっそのこと全員妃に迎えてあげたらどうです? 泣いて喜ばれますよ!」


「半分くらい僕に分けてほしいものですね!」



通りがかった親友の、頭中将(とうのちゅうじょう)をはじめとする若手公達からの能天気な羨望の声に、光るの宮は心の中で激しく血涙を流した。




(……肝心の女性にのみ振り向いてくれない現実、お前たちにわかるか???)


ここまでお読みいただきありがとうございます!


地獄の道を善意で舗装する紅蓮の君。


光るの宮の気の毒な日々はまだまだ続きそうです。


「面白かった!」「次も気になる!」と思っていただけましたら、

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次回は明日【18:00】に更新します!

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