若君が反抗期で寂しいです
[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 で109 位!
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まあ、こんな私でも、一応婚期とやらは気にしてしまうのだ。
何せここは平安時代である。
(……二十代半ばで一度も結婚していない女って、この時代だと珍種中の珍種なのよね……)
内裏という場所は、誰もが退屈しのぎのゴシップに飢えている。
最初は「行き遅れ」と陰口を叩かれて炎上するのではないかと、私もヒヤヒヤしていたのだ。
現在の私は、桐壺院様、桐壺の中宮様、朱雀帝、国母である太后宮様、そして東宮である光るの宮様。
内裏の頂点に君臨する勢力全員から寵愛を受け、特例ポスト『東宮尚侍』にまで登りつめた超絶キャリアウーマンである。
……当然、そんな私を面白くないと思っているアンチが内裏に一定数いるのは、世の常だ。
何しろこの平安時代、自分より優位に立ち、バリバリ政務を捌く女性を好ましく思わない男性など、星の数ほどいるのだから。
日頃から私を目の敵にしている連中に隙を見せ、スキャンダルでもでっちあげられたら、この宮廷で生き残ることは難しくなってしまう。
(私にとってこの職場は、大切な箱推し一家(皇族)に仕えられる最高にして至高の職場……!
くだらない陰口や他人の妬みごときで失うわけにはいかないのよ……!
少なくとも若君が元服し、政治的な地位を完璧に確立されるまでは、出家して退場するわけにはいかない……!!)
だからこそ一度、「やっぱり無難にお見合い結婚をした方がいいのかしら……お父様や叔母様に紹介してもらって、身分も人柄も角が立たない相手を選んで……」と思い立ち、
「実は最近、私もそろそろ身を固めようかと考えておりまして」
なんてポロっと桐壺の中宮様や桐壺院様に洩らしてみたのだ。
……だがなぜか、二人がかりで『全力かつ烈火の如き勢い』で大反対された。
そして翌日には、なぜか私の結婚話そのものが跡形もなく消滅していた。
……なぜ???
いや、私自身、喉から手が出るほど結婚したかったわけでもないから、別にいいのだけれど……
あの嵐のような怒涛の急展開は一体何だったのだろう。
(でも、普段寄ってくる殿方からの誘いは、何とかそつなくかわせているから平気ね)
ノリと暇つぶし、あるいは好奇心や火遊び目的から、毎日のように入れ替わり立ち替わりで口説き文句(恋文)を送ってくる殿方には、
内心「またか……」とウンザリしていた。
こう見えて前世も社会人として働き、世間の荒波に揉まれていたのだ。
本気なのか本気じゃないのか、真剣なのか暇つぶしなのかぐらいは、言い寄られた時にすぐわかる。
そして身分の高い貴族の男特有の空気ーー
「俺のような超一流の男に口説かれて嬉しいだろ?」
という雰囲気を匂わせる男を、私は丁重にお断り申し上げていた。
言い寄ってくる男性に対し、私は前世の社畜仕込みの危機管理能力で対応していた。
その方法とは――送られてくる恋文(和歌)の、【表の意味】だけを真面目に受け取って返歌を詠むこと!
この時代、挨拶代わりに交わされる和歌は、ストレートな愛の告白ではないことが多い。
「春の桜」「夏の蛍」「秋の紅葉」「冬の銀雪」といった美しい四季を詠み込みつつ、その奥に「私は貴方を想っています」という【裏の意味】を潜ませるのが奥ゆかしい嗜みとされているのだ。
(だから私は、その【表の意味】である『美しい四季を愛でる気持ち』に対してだけ、100点満点の完璧で風流な挨拶返歌を送ることにしている)
返歌自体が教養深く嗜みのある素晴らしいものであれば、風流人の殿方たちは「おお、なんと風雅な姫君だ」と満足し、それ以上踏み込んでこない。
ちなみに一番マナー違反なのは、何度も送った和歌を完全に「無視」することだが、次にマズいのは【裏の意味(求愛)】を察した上でバッサリ拒絶するストレートな断りの歌を送ることだ。
そんなことをすれば男性のプライドは粉々になり、面目が潰れてしまう。
(自尊心を傷つけられた男が逆上して、『なんとしてでも我が物にしてみせる!』と厄介ストーカー化する恐れがあるのよね……!!)
そのため、送られた和歌への「社交辞令の返歌」だけは欠かさず送っていた。
そのおかげで、角を立てずに殿方との距離感を絶妙に保ちつつ、仕事を続けられていたのだ。
(この時代は身分の高い男性が意中の女性の寝所に忍び込む『夜這い(よばい)』という行いが、熱烈な求婚方法として半ば公認されているわけだけど……)
いや、冷静に考えて同意のない夜這いとか正気か!?
こっっっわ!!!!
そんなメチャクチャな理論が罷り通ってしまうのが、千年前の平安時代なのだ。
(でも幸いなことに、現在の朱雀帝は色好みに走らない、誠実で穏やかなお方だから……その高潔な雰囲気のおかげで宮廷全体が浄化されているのよね)
現在、宮中のトップに立つ人々は人格者ばかりだ。
道理に反することはせず、過度な色恋に溺れず、真面目で優しい方が揃っている。
太后宮様は勝気で誇り高いお方だが、その聡明さと器の大きさ、下々を思いやる心映えはまさに国母たるにふさわしい。
何より曲がったことが大嫌いな、一本芯の通ったお方だ。
そんな彼女の目を盗んで、宮中で不埒な夜歩きを試みる命知らずなど、存在するはずもない。
(そんなことしたら一瞬で社会的抹殺されるぞ。
あのお方は、やると決めたらとことん容赦しないんだから……)
……ちょっと怖い想像をしてしまった。
やめよう考えるのは。この世には触れてはいけないことがあるのだ。
ま、まあ、それはひとまず置いといて。
そして我が箱推しファミリーの一人、東宮である若君もまた、穏やかで優しく、教養も武芸も群を抜いた完璧な『光るの宮』へとご成長された。
「将来の帝の御世は安泰だ」と各所で絶賛されるほどである。
(ふふふ……お姉さん、誇らしすぎて鼻が高いわ!
そうでしょうそうでしょう!
中宮様と私と乳母が、愛を込めて大切にお育てした若君ですもの!!)
思わずにゅーんと鼻がのびた……気がする。
容姿端麗、才気煥発、頭脳明晰。弓も馬も一流で、ユーモアも愛嬌もある。
(凄いでしょ、ウチの若君(推し)!!)
……いかんいかん。親バカが爆発してしまった。
あまり構いすぎるとウザがられてしまう。
何しろ現在の若君は、多感な『思春期』真っ只中なのだから。
実際、最近の若君は、私に対してどこか距離感がぎこちない。
(前は満面の笑顔でまっすぐ目を見てお話ししてくれたのに、最近は私と目が合うと、
すぐに藍染めの扇で顔を隠してしまうのよね……)
お姉さん、寂しい……!!
反抗期がつらすぎる……!!
(昔は『ぐれんのきみ!』って可愛らしい舌足らずな声で甘えて膝に乗ってきたり、
トコトコ後ろをついてきて『これ差し上げます!』ってお花をくれたり、
院や中宮様に怒られそうになると私の袖の陰に隠れていたのに……!)
しょぼんと肩を落とす。
東宮としての政務の時は普通に話してくれるけれど、どこか余計な壁を感じるのだ。
他の女房たちには爽やかな笑顔で挨拶を交わしているのに、なぜか私に対してだけ態度が硬い。
(……まあ、若君は優しい方だから、無視されないだけマシと思うべきなのかしら。
十四歳の男の子だもの、難しい年頃よね……)
前世の弟も、反抗期の頃は部屋に引きこもったりして大変だったものだ。
だが、若君からすれば鬱陶しいかもしれないが、私にとって若君は可愛くてたまらない存在なのだ。
もっと褒めちぎりたいし、昔みたいに普通に話したい!
(思春期の男の子には、ヘタに遠慮して距離を置くより、これまで通り自然に接した方が良いって聞いたこともあるし)
よし、若君には申し訳ないけれど、手前勝手に可愛がり倒そう!
嫌がられてもウザがられても、私は私の都合で若君(推し)を愛で尽くしてやるのだ!!
***
「……と、熱く決意したものの、やっぱり若君に露骨に避けられている気がするんですよ……。
やっぱり私、嫌がられちゃっていますよね?
もう少し距離を置いた方がよろしいでしょうか……?」
膝を突き合わせ、しょんぼりと相談する私に、若君のお母上ーー桐壺の中宮様はぽんと扇を口元にあてた。
「……そうねえ……。一体どうしたものかしらねえ……?」
そう言った、我が愛しの姫様は、あたたかく、どこか諦めに似た眼差しで、扇の影から私を見つめておられた。
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光るの宮の拗らせ初恋と、周囲の生暖かい目を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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次回は本日【18:00】に更新します!




