02 人たらし
狩猟
2 ひとたらし
「人誑し(ひとたらし)」と言う言葉があります。ひとたらしと聞くと、口のうまい詐欺師とか壮年の男性を想像しますが、白木には転校生の木山をそう感じたようです。
はじめての担任を持って、ようやくクラスを掌握したつもりでいたのが、転校生の木山は僅か二ヶ月で、白木を凌駕するようになったようです。
木山は転校前の高校では、ボクシング部に所属していたようですが、背は白木より少し低く、身体も盾をふたつ貼り付けたような胸筋や細身だが鍛えられた腹筋を持った白木と比べれば、ひ弱ではないがまだまだ少年体形の体つきでした。しかしひと懐っこく愛嬌のある笑顔で、女生徒からも一定の人気がありました。
しかし白木は、時折みせる木山の暗く鋭い目つきを見逃さず、その鋭い眼光に気づくと
射竦められるように感じたようです。
ですが、わたしには平凡な顔つきの、ありふれた生徒にしか見えませんでしたが。
『あいつは、俺がようやく苦労してまとめあげたクラスを、たった二ヶ月で破壊した。いや、掌握してしまった。クラス内のわずかな決まり事も、それが席替えのような些細なことも、あいつが頷くか否かで決まってしまう。あいつが異論を挟むのでも、他の生徒が抗議するのでもなく、みんながあいつの頷きを待っている。それまでは何も決まらない。いくら俺が促しても。』
木山にそれほどのカリスマ性があったとは、どうしてもわたしには理解できません。しかし白木は手紙にそう書いています。
『そうするうちに、俺もあいつの顔色を伺うようになり、その方が物事がスムーズに進むのならば、それも良しと思うようになってしまった。』
それが木山の思惑だったのでしょう。白木は次第に木山のペースに引きずり込まれていってようてす。
『あいつはクラスを掌握すると、用もないのに放課後必ず職員室の俺の席にやって来ては、他愛もない話をして出ていった。あいつの目的は俺への報告ではなく、俺と仲の良い関係だと他の教員に思わせることであり、また教員たちを誑し込むためだった。その証拠に、あいつは職員室を出ていく時に必ず俺を見る。その目は転校して来たときに見たあの目だった。』
それまで、白木は木山に何か危害を加えられたわけではなく、反抗的な態度を見せたこともなかったと、彼は書いています。しかし、木山の視線を感じると、白木はその鋼のような肉体が危険を察知して、身体の奥底からの慄えを感じたとも書いています。
『教員たちのなかでは、あいつは愛嬌のあるよい生徒だという評判がたっていった。あいつへの俺の評価は間違っているのだろか。』
白木は、生徒に対する自分の評価基準にも揺らぎがきていたようです。




