01 プロローグ
狩猟
1 プロローグ
球技や格闘技のように、相手とせめぎ合うスボーツによって極限まで鍛えられた肉体は、その身体に危険が訪れようとする時には、それを察知して知らせる能力が備わっているのでしょうか?
かつてわたしと同じ高校で教師を勤めていた白木一雄は、わたしに届けた手紙でそう書いています。
「ひと目見た時から、肉体の奥底で慄えのようなものが起こり、しばらくは抑えることが出来なかった。」と。
また、その慄えがおさまっても暗い嫌な、やるせなさともいうような気持ちが、消え去ることはなかったとも。
もし彼がその意味を、その時に気づいていたのなら、あのようなことは起きなかったでしょう。もっと注意深く行動できたはずです。
それがわたしには悔やまれてなりません。
白木のあの鍛えられた鋼のような美しい肉体が、理不尽にも踏みにじられ汚されていったとは、今も信じられません。
わたしにとっては、今でも爽やかな若者の理想であり、屈託のない笑顔が忘れられません。
ただ、その笑顔があの時から遠のき、その事にはやくわたしが気づくべきだったのです。
当時、白木とわたしは同じ高校の同僚として勤務しておりました。白木は二十六歳。大学を卒業してはじめての赴任地で、三年目になろうとしていました。わたしはといえば、四十を越して妻子とともに高校の所在地と同じ市に住んでいました。
白木はかつてのスポーツマンのように、口数の少ない真面目な青年でした。そのためか、同僚の中でも親しく交際する者も少なく、よく後輩の面倒をみていたわたしとよく話す仲になっていたのです。
そんな彼ですから、 我が家の妻の手料理に度々招いても、頻繁に訪れることはありませんでしたが、何回かはやってきてものです。彼を見た妻は「いい青年ね。はやくお嫁さんを探してあげなきゃ。」と、彼が帰ると即座に言ったものです。
背も高く鍛えられた健康な肉体をもった彼は、礼儀正しく誰にも良い印象を与えていました。妻もそれにすぐ気づいたのでしょう。
白木の実家は他県の旧家であり、彼は大学入学から故郷を離れ独り暮らしをはじめ、当時は高校近くにアパートを借りていました。
赴任も三年目になり、はじめて担任を任され、ようやくクラスもまとまりはじめた時に
、問題の生徒が転校してきました。それが木山です。
高校生の転校は珍しく、まして進学校にも数えられる本校ですから、彼は季節外れの入学試験に合格しての転校でした。入学試験の成績が良かった為か、転校理由はあまり考慮されなかってようです。
わたしだけかもしれませんが、もしあの時木山の転校理由を深く探っていれば、白木があのようなめに遭わなかったのかもと、悔やまれます。
それもこれもこの手紙を受け取ったわたしだからそう思うのかもしれません。
他の同僚も生徒たちも、当時はさほど不審がらず、突然の白木の退職を受け止めていました。
・・・・ただ、わたしに届いた手紙も、宛名は高校の住所にわたしの名を付けたものであり、しかも慌てたのかなぐり書きのような字でありました。あまり白木の筆蹟を知らないわたしには、彼が書いたものか判別がつきません。同封の手紙もコピー紙に印刷されたものでした。
もしかしてこの手紙は、白木と親しかったわたしを惑わせるために届けられたものであり、白木はどこかで平穏に暮らしているのかもしれません。
しかし、同じ封筒に入っていた手帳は彼のものであり、中に書かれていた出来事の幾つかは、わたしとの交流の記述でした。
このあと手紙の内容を記述するのは、読まれる皆様に検証していただくためのものであります。
わたしを惑わせるための創作なのか、健康な若者に起こった世にも不幸な出来事なのか。




