09 学習会
狩猟
学習会二部
『その学習会は、二学期になってしばらくしてからはじめられた。三年生には受験の為、落ちこぼれには補習の為と、誰もが納得する説明があり、教師である俺も良いことだと思っていた。
木山の意向てある同居が始まり、奴らによる学校でのわるさもなくなり、同僚との交流も少なかった俺には、しばらくは気楽に過ごしていた。
俺はあまりに呑気で、木山の本当の恐ろしさをまだ知らなかったのだ。初対面の時に感じた、危険を知らせる身体の奥底からの慄え、それを俺はしばしの休戦状態のために、忘れてしまっていてのかも知れない。
学習会は2部制になっていて、前半は本当に彼らのためになる勉強会だった。だが後半の二部は俺が奴らに学習させられる場だった。
隣の居間で奴らが勉強をしている間、俺は夕食後の休憩でうとうとしていて、勉強が終わったのも気が付かなかった。
突然俺はやつらにたたき起こされ手首に手錠をされた。木山はそれをどこで仕入れたのか、本物のピカピカした新しい手錠だった。それが、 俺がその手錠とつきあうようになるはじめだった。そしてこの手錠が、ほんとうの学習会のはじまりの合図だった。』
白木は、その秘密の学習会のことをそう書いています。しかし、 そんな事がありうるですしょうか。
十六歳の少年が本物の手錠を手に入れ、自分たちを教え指導する青年教師を、罪人のように捕らえ奴隷のように隷属させるような事が。
しかも白木夏雄は鍛えられた逞しい肉体をもった体育教師です。
その若者が、教え子の少年たちによる奴隷のような扱いに甘んじるなどということがありうるでしょうか。
わたしは今も目の辺りに思い出すことができます。白木夏雄の爽やかな清々しい青年らしい容貌に、しなやかなげもののような四肢をもった、鍛えられた肉体を。
その美しいみごとな肉体の裏側で、このように暗いドラマが進行していたのだと、どうして信じることができましょう。
学習会二部は性の饗宴です。
そこで行なわれたいっぷう変わった性の交流が、彼ら以外の他人の目から隠されつづけたのは、木山一平の用心深さのせいであったといえますが、教師と男子生徒たちだけの集りであったために、性のイメージが結びつきにくかったせいもあります。しかも一名の脱落者もなく、秘密保持は完全でした。
それは、彼らの年齢にも関係があったかもしれません。
あの年ごろの、はけ口のない鬱屈した性欲を持て余した成熟した肉体と、どこか未熟な精神のアンバランスとの混在を、木山一平は巧みに掌握したのです。
そして彼は、それに一つの方向性を与え邁進させたのです。
まぁ、これが本当にあったこととしての話ですが。
少年たちにとっては、大人が管理する社会で、抑え込まれた鬱屈した感情を、身近な敵である教師を意のままに扱い、サディスティックに痛めつけ、弄ぶことはこたえられない魅力があったのでしょう。
白木夏維はそのための一つの生贄にされたようです。
私もまた一人の高校教師として、少年たちの異常な行動の裏側にある心理がわからないわけでもありません。
そう考えると、白木が寄越したとされるこの手記の内容も、まんざら作り事ではないのかもしれません。
とにかく七人の高校生たちは、その異常な学習会にすぐになじんでいったようです。
もちろんその異常性を受け入れるには個人差があったようですが。
中山久司――あのレスリング部の副部長一が一番早く、深くなじみ、白木の手記には彼が先頭に立って木山の命を受け、白木を嬲り弄ぶ姿が見えます。中山は部長になれなかった恨みがあったのか、部員に慕われていましたがどこか弱さのある、白木の愛弟子と言っても良い部長の久米をも、時には嬲り弄んだようです。
学校ではそんな素振りは全く見せず、いつも部長に信頼を寄せているように見えましたが、白木の手記にはそう書いてあります。
成田や横井は落ちこぼれ生徒の典型のように、教師に対する反発心からすぐに馴染み、木山の手先としていちばん動いたそうてす。
鈴木や松田の優等生は、最初はやや消極的だったようてすが、一般の生徒より性の面では自己抑制的であるのか、いちどそのタガが外れると溺れていったといいます。
未だ女子と親密になる事に不慣れな彼らは、まず男同士の関係をひとまず性の捌け口として選び、肉の快楽をむさぼっているようです。
ただひとり久米英介だけはいつまでも動揺と逡巡をくりかえしたように、白木は書いています。
しかし実際にはどうだったのでしょう。
わたしには白木が久米を贔屓目に見てたように感じます。
白木は愛弟子として久米を育て鍛え上げようとしていましたし、久米もその期待に応え必死についていこうとしていました。
部活動の時に偶然見かけていたわたしの印象ですらそうでしたから、彼らから見れば白木と久米は一体と見え、久米が白木と同じ扱いを受けるのも頷けます。
手記によれば実際に久米は、下級生である成田や横井に辱しめられ、嬲られる経験をもってもいたようです。
そして白木はといえば、少年たちとは違って木山の指示に従順には従っていません。
それはそうでしょう。白木夏雄は二十六歳になる、鍛えられた肉体をもった青年教師です。未だ未成年の高校生に簡単に屈伏するわけがありません。
しかし、木山一平はそんな白木のこころをも巧みに読んでいたようてす。
『学習会の二部』では、最初の頃はビデオを映したようです。
そこには、この共同生活を始めるきっかけになった日に映写された白木のあられもない姿だけでなく、少年たちのビデオも映写されたようです。その映像は、少年たちが互いに下の毛を剃る様子を映したものだったそうで、それを観ることで羞恥心を弱めながら、少年たちは互いの連帯感、一体感を築いていったようです。
その連帯感が、彼らの道徳的な感情をも薄めていったようです。
それが、木山一平が考えた白木をもおとしいれた巧みな策略に、わたしには感じられます。
次に『学習会」で行なわれたのは、白木の脱衣 ――つまり白木から衣服を剥ぐというものだったようてす。
教え子たちが白木を中心に囲んで座り、その視線の中でライトに照らされながら、白木は身につけたものを中山にはがれていくというものでした。
『あいつは部活の時と違って、嬉々として俺から着ているものを剥いでいった。特に下着1枚までくると、必ず俺の顔を見ながらゆっくりとブリーフを下げる。俺は永らくレスリングをやってきたので、下半身を固定したかった。それで下着も身体にフィットしたものをはいていたが、中山はわざとその膨らみを撫でてから降ろすのだった。奴らにやられてからは俺はおかしくなったのか、そんな状況でも毎回必ず反応してしまう。それを中山はまた喜んでゆっくり剥がす。情けないことに俺は、奴らに見られながらも降ろされていくブリーフから、硬くなったモノを弾き出してしまった。奴らは「先生、元気てすね。」「思春期の俺達より溜まってるんじゃないですか?」と、笑いながら口々に囃し立てる。思わず両手で隠そうとすると、左右からそれぞれ腕を取られ、更に腰まで突き出させられた。「ほら、先生の立派なモノをみんなによく見てもらおうよ。」と言われると、それは硬くなっているだけでなく、天を突くほど立ち上がっていく。俺は逆らう気さえ失くしていった。ただ早く終わることだけを願った。』
ここでも白木は自責の念に駆られて、抵抗する力を徐々に失っていったようてす。
また別の日には、木山とみんながジャンケンをして、木山が負けると白木を脱がせ、みんなのほうが負けると負けたものが一枚一枚脱いでいくというやり方もとったといいます。
『奴らは木山が負けると喜び、木山が勝つとその日当番のジャンケン相手を除いて、また喜んだ。俺より先に当番が素っ裸になると、翌日の当番がジャンケンを引き継いで、結局は俺が真っ裸になるまで続けられた。不思議なことに、中山が当番の時に限って木山は勝ち続け、中山は悔しい顔をして俺を睨みながら最後の一枚を脱いだ。
そうしてあとは、裸になった者ならなかった者が入り乱れて、マスターベーションをして終わるのだった。』
やがて中山が白木を裸に剥くことも、ジャンケンで交替で裸にされる事もなくなると、木山は白木に自分で脱ぐように命令したそうです。
『あいつは俺に自分で裸になれと言った。俺は抵抗した。奴らに無理矢理されるのなら、まだ我慢ができた。
その時にはもう、俺はおかしくなっていたのだ。そんな事までを許すようになってしまっていた。それをされるのは自分の意思ではなく、奴らにさせられていると、自分に言い訳をしていたんだ。だが、自分でするということは、その最後の一線を乗り越えさせられ、俺はあいつの奴隷に成り下がってしまう。』
白木は全力で抵抗しました。ところが白木の抵抗に、木山は奇妙な制裁を加えました。
『俺が最後の抵抗をしようとした時に、俺はあいつの本当の怖さを思いしらされた。
奴らが俺の剣幕に怯んでいると、木山が俺の前に出た。恐る恐る中山が俺の上衣に手をかけると、俺ははねのけようとした。
すると木山は、俺の上衣をハサミでずたずたに切り裂きはじめた。
俺はあまりのことに驚いて身動きできなかった。木山はそれだけで済まさず、俺の上衣をすべてまとめて、中山に持ち出させて棄てさせてしまった。それは上衣だけでなく、ズボンも、ベルトも、ワイシャツも、俺がすこしでも抵抗の兆しをみせると、その場から中山は古着屋や質屋へ持ちこんでしまった。
こうして、俺が奴らの前で真っ裸になったときには、俺の着るものはまったく一枚もなくなってしまっていた。』
翌日からは木山一平のものを着て学校へ通うしかしかたなくなったとのことです。
そう思ってみますと、白木が妙に変わった服装になったことに気づいたことがあります。
白木の服の好みは平凡で、 あまりめだつ服装ではありませんでした。それが急に、通勤には少ししゃれたブレザーを着たり、ジーンズにセーターとジャンパーで登校するなど、 思い切った変化だったので、女生徒には好評でしたが、みんな驚きました。
たしかに体にフィットしすぎて、ズボンなどももを締めつけしすぎのように感じました。
彼より小柄な木山一平のものを着ていたのだとすると、納得させられます。
しかし、白木には似合っていて、あれが借り物だったといわれると、むしろその方を疑いたくなります。
その変化は白木の逞しさと若さを強調してふさわしいものだったのです。
『ある日中山が、俺の髪を短く角刈りにしたらよいと言い出した。木山が頷いてすぐオレに命令した。オレは反抗して何日も角刈りにはしなかった。
しばらくすると、学習会の二部の時に木山は、命令に不服従だから制裁するといって、手錠をした俺を夜の屋上へ追い立てた。
その後に鈴木は木山の机から一枚のポスターを屋上までもってきて、俺の目の前で広げた。それはカラーでプリントされた俺の裸が写っていた。大股開きで魔羅を立て、細引きで括られた手で顔を隠そうとして手を挙げているが、顔はすべて写っていた、
体育教官室での、あの時の写真だった。
木山はそのポスターを、屋上から見下ろした所にある電柱に張らせた。街燈のあかりで、屋上からでもポスターの俺の裸が見える。
通行人はなかったが、塾帰りの生徒や 会社帰りのサラリーマンらしい酔っぱらいもときには通る。俺はぞっとした。恐ろしさで身内が慄えた。俺は、明日髪を刈ってくると誓い、ポスターを電柱からとってもらった。』
白木はそう書いています。あのころ、スボーツマンには珍しい長めの髪を突然刈りとった白木のことで、女生徒たちがさわいだことを覚えています。けれども、白木の短髪は似合ってました。むしろ、何故もっと早く短髪にしなかったのかと、思わされたぐらいてす。
レスリング闘士としては少し優しめな顔立ちを、その髪型は野生的な精悍な兵士のように変貌させました。
刈り込まれた麦穂の先のようにそろった頭髪は清々しく、項のあたりは、男っぽくりりしいものに見えました。――しかし、それもどうやら木山一平たちの好みであったようです。
そういえばあの頃、ほぼ同時に木山たちのグループは、みんな短髪にしてきました。
スポーツ選手ばかりですから、私たちはそれをべつに不審には思いませんでした。




