【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十七話】
俺は炎天下の下、ぼーっと玄関のドアの外から見える景色を見ていた。
あんまりにも暑いから、俺の中の蝋燭が溶け始めている。
暑い、何も考えられないくらい暑い。
何なんだこの暑さは。
少しおかしいんじゃないか?
それとも冷房の効いた部屋に慣れすぎちまったっていうのか?
それに、なんで俺はこんな場所にいるんだ。
唐傘お化け、今はカラカサか?
なんで俺をそんなに嫌うんだ。
舐めたからか?
それは仕方ないだろう?
俺には目と舌しかないんだ。
その目で見て、舌で舐める。
それは提灯お化けとしての本能であり、体すべてを使った愛情表現なんだ。
それが受け入れられないとなると俺にできることはない。
何もない。
なぜこんなことになったんだ?
まあ、予想はできている。
俺ら妖怪は人間の影響を受ける。
正確には人間達の間で流行っている噂の影響だ。
それが関係ない噂でも、曖昧な存在の俺達には何らかの影響を与えちまうんだ。
それは俺ら妖怪が人間の噂の中から生まれてきた存在だからだ。
特にカラカサや俺なんかの、人間が作り出した物が妖怪に変化したような、いわゆる付喪神的な奴は人間の影響を受けやすい、のかもしれない。
カラカサはもろに影響を受けちまったんだな。
それであんなケバい格好に。
いや、でも、メイド服っていうの? あれはよかったが。
あとストッキングっていうの? あれも素晴らしかった、後はヒール? ハイヒールっての? 靴の種類なのか? あれも良かったな。うんうん。
俺は何も変わっていない。変わっちまったのはカラカサだよな……
いや待て、俺も変わってないのか?
俺も知らず知らずのうちに何かしらの影響を受けているんじゃないのか?
昔から確かにカラカサの脚は魅力的だとは感じていたが、舐めたいだなんて思っていたか?
思ってたな。
うん、俺は変わっていない。
何も変わっていない。
変わっちまったのはカラカサの方だ。
なんで変わっちまったんだよ、カラカサ……
って、やけに暑いな。いや、熱い、熱くね?
ってか、俺、燃えてね?
メラメラと炎に包まれてね?
提灯の火袋に火、ついてね?
蝋燭の火が燃え移ってね?
「おい! 誰か! 誰かー! このままだと俺燃えちゃう! 燃えちゃうよ! 火事にもなる! 火事になっちゃうよ!! 助けてくれ!! 誰か! カラカサ! 助けてくれ!」
俺は必死に叫んだ。
それしかできないからな。
必死に俺は叫んだ。
力の限り大きな声で叫んだんだ。
すると、ドアが開き、そこからカズミとかいう女が顔を出す。
「なんだよ、うっさい…… うわ、燃えてる」
驚いた顔をするカズミに向かい、俺は必死で、
「た、助けてくれ!!」
と、懇願する。
「なんで燃えてんだよ!」
と、カズミは言いつつ、俺を床に叩きつける。
それで大概の炎は消えたが、まだ燻ぶっている。
煙がもうもうと立ちこめる。いつ着火してもおかしくないような感じだ。
「こんな炎天下の中、長時間外に置かれて蝋燭が溶けて、それに燃え移っちゃったんだよ!」
確証はない。
けど、多分それが原因だ。
「ああ、はいはい、っと。これで消えたか?」
カズミはそう言いつつ、俺を足で踏みつけてくる。
いや、まだ燻ぶっている火を完全に消すためなんだろうが、そう執拗に踏まれると憤るものがある。
「俺を足で踏むなよ」
文句を言うと、やっと踏むのをやめた。
ただ、この女のおかげで助かったのは事実だ。
礼は言わないとな、と考えてたら。
「水のほうがよかったか? それともカラカサに頼んだ方が良かったか?」
なんてことを言われた。
水なんて冗談じゃない。
けど、こうやって踏まれたのが、この女ではなくカラカサだったら?
そう考えると、なにか、こう、酷く湧き上がってくるものがある。
「カラカサの方で頼む……」
自然とその言葉が俺の口から出てきた。
「うわっ…… 本物だな、お前」
そう言ってカズミは汚物でも見るような目で俺を見下していた。
そんな視線に対して憤るかと思いきや、カラカサも同じような視線を向けて来たと思うと、なんか、こう……
湧き上がってくるものがあるんだ。
俺もきっと変わってしまったんだと思う。




