【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十六話】
「なんでチョウさんを玄関の外に飾ってんだ?」
まるで隠れた名店の、今開店してますよ、という目印のように玄関にぶら下げられている提灯お化けことチョウさんを見て、そのことを小豆洗いのアライさんに聞いた。
名店でもなんでもないので、少し腹立たしいところがある。
まあ、ただの私の言いがかりなんだけど。
それを伝えたら、アライの奴が喜んで採用しそうなので、そんなことは言わない。
口が裂けても言わない。
だって、なんか鼻につくし。
「従業員相手に覗き行為をしていたからな。出禁って奴だ。オマエの部屋に送り返そうかと思ったけど、やめておいた」
アライはそう言って軽くため息を吐いた。
覗きってなんだよ、と思ったけど、対象は一人しかいない。
「ああ、被害者はカラカサか」
そのためにわざわざやって来た? いや、チョウさんは自分じゃ動けないから、連れて来てやった奴だしな。
まあ、カラカサのストーカーだよな。
「俺様の口からは個人情報は言えない」
アライはそう言って嬉しそうに笑った。
いっちょ前にカフェの店主気取りなんだろうな。
従業員を守る自分に酔っているんだろうな。
「アライさ、人間かぶれってか、根本はカフェかぶれなのか? なんか、ひどくなってないか?」
少し疑問に思ってそれを聞く。
なんていうか、コイツが一番妖怪感をなくしているような気がする。
いや、トウフもどっこいどっこいか?
人型だから人に染まりやすいのか?
それなら、ぬらりひょんもと思ったけど、あいつは元からそういう他人の家に忍び込んでくつろぐような妖怪だしな。
あんまり変わっていないのか?
「マスターがそう言ってたんだ。従業員は守らないといけないって」
アライの言うマスターというのは以前アライを連れて行ったカフェのマスターで、アライの師匠ともいえる人間だ。
まあ、あの人はカフェっぽい店を出したかっただけの人で、コーヒーも全部市販のバリスタマシーンのだし、その他の食材も全部冷凍食品だったんだけどな。
気に入ってたカフェだけにそれを知ってしまった今、どうにも行きにくい店になっちまったよ。
どうせなら、ここでもその出来合いの冷凍食品出してくんないかな。
食費が浮くし。
「ああ、まあ、うん…… それはそうなんだけど。チョウさん可哀そうにな。外で呆けてたぞ」
なんていうか、哀愁が漂っていた。
完全に呆けていて話しかけても反応なかったし。
目と舌がなければ、本当にただの提灯だったぞ。
「じゃあ、オマエが回収してやれよ」
「ええー、部屋に連れて帰るとカラカサが本気で嫌がるんだよ」
まあ、私からしたら、チョウさんとカラカサをトレードでもいいんだけど。
いや、さすがにカラカサのほうがましか?
下手に一緒に暮らして私やトウフのストーカーになられても……
トウフのストーカーか…… どうなんだ? うーん?
私は純愛ものが好きで、強制的なのは食指が動かんのよな。
うんうん、ないな。少なくとも私の中ではない。
私の中ではトウフは誘い受けなんだ。
「嫌でありんす」
ざっくりとカラカサがそう言った。
よほど嫌いなんだな。
まあ、いきなり足舐められたら、そりゃ気持ち悪いわな。
「こんな感じでさ」
「そんなことより、ぬらりひょん様はどこへ行ったんだ?」
アライにとってもチョウさんの件はどうでもいいことみたいだな。
「トウフと買い物だよ。ずっとここでコーヒー飲んでるのも気がめいるって」
私もついていけばよかったか?
一緒にいるところを外から見られたら、孫と爺って感じになるか?
私の場合は姉と弟か? 恋人は…… ないよな。
「大丈夫なのか?」
大丈夫って、トウフとぬらりひょんが一緒に出掛けたところで何か起きるわけでもないしな。
そもそも、ぬらいひょんが一緒なら、心配はないか。
そもそも、アライ、お前はぬらりひょんの何を心配しているんだ?
「一応、ヌリカベの奴にも言っておいたから平気だろ」
ヌリカベに護衛させとけば安心だな。
ただ踏むだけで働いてくれる優秀な警備員だよ。
「なら安心だな」
ヌリカベへの信頼感パないな。
妖怪を既に何体も撃退しているしな。
しかし、
「ヌリカベとぬらりひょんにも名前をつけてやらないとダメだよな」
ぬらりひょんは、まさにぬらりひょんって感じだし、ヌリカベはそもそも私には見えないからな。
あだ名というか、名前つけにくいんだよな。
「ぬらりひょん様にふざけた名前つけたら許さないからな」
と、アライが言った瞬間、スマシさんの剛腕というか、石の腕がヌッと背後から現れて、小倉トーストを乗せた皿を届けてくれた。
「うわっ、あぶない! スマシさんは動かないでくれ! 危ないから!」
スマシさん自体はまあいいんだけど、全身岩なスマシさんは危険なんだよ。本当に。
「よろしく……」
まだそれしか喋れんのか。
元気がないから謝ってくれてんのか?
相変わらずよくわからん。
悪い奴ではないのはわかるんだけど、全身岩なのはな。
物理的に危ないんだよ。
「そんな邪険にするなよ。スマシさんはいい奴だぞ」
アライはそう言って洗い物をし出した。
そんな後ろ向きのままの奴に言ってやる。
「ぬらりひょんも危ないって言ってたぞ」
とな。
「スマシさん、少し気を付けてくれよ」
即座にアライはスマシさんに注意をする。
本当にぬらりひょんのことを尊敬しているんだな。
まあ、風格だけはあるからな。
「アライさ、お前、主体性ないんだな…… これはトウフのほうをもう少し囃し立てないとダメだな」
アライがこんなんだから、トウフとアライの仲が進展しないんだよ。
トウフか、でもトウフは受けなんだよな。
受けであってほしいんだ!!
でも誘い受けだから、やっぱりトウフの方を囃し立てるべきなのか?
「おまえは何を考えているんだ?」
アライにそう言われるが、考えていることを口に出せるわけないじゃないか。
何を言っているんだ。




