【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十五話】
俺はチョウさんと名を与えられて、小豆洗いことアライが運営するカフェで働いていた。
いや、カラカサに給料は出ているが、俺には給料は出ていないので働くとも違うのかもしれない。
ただただカフェにいた。
それが正しい。
それも正しくはない、か。
一番正しいと言えば、カフェに置かれていた、という表現が正しいのかもしれない。
まあ、提灯に一つ目がついて、舌しかない俺にできることなんてないからな。
このカフェを明るく照らすことしかできない。
それでも俺は幸せだった。
なぜって?
カラカサの働いている姿を見ていられるからな。
あいつの働く姿をずっと見守ることができているんだからな。
文句なんかねぇよ。
問題があるとしたら、カラカサも暇そうにしている、ということくらいか?
まず客がいない。
常連客はいる。
ぬらりひょん様だ。
特に金を払っているところを見た覚えはないので客と言ってよいのかも分からないが。
いつも一番奥の席で、コーヒーを飲み、あのスマホって奴? をいじっている。
読書と言っていたが、あんなもので本が読めるのか、俺には甚だ疑問だ。
まあ、どうでもいい話だ。
最初こそケバケバしい傘だと思っていたが、メイド姿のカラカサを見ろよ。
似合っているじゃないか。
何よりあの薄手の股引か? 黒く透き通っていて脚を、カラカサの脚をよりよく、魅惑的に見せているじゃないか。
素晴らしいな。
人間はなんてものを発明しているんだよ。
恐ろしい。
「どこをじろじろ見ているんでありんすか?」
不意にカラカサにそう声をかけられる。
声をかけられるだなんて思ってなかった俺は、つい本当のことを口走ってしまう。
「見ているんじゃない。見守っているんだ」
俺がここで見守ってやっているからな。
安心して働いてていいぞ、カラカサ。
そんな俺に対してカラカサは、
「店長! 覗き魔が居んす!」
なんて非難をするような声を上げる。
なぜだ?
アライこと小豆洗いが、それなりに親交はあったはずのアライが、
「え? あー、チョウさんだっけか? うちのウエイトレスをじろじろ見るのやめろよ」
と、他人行儀でそう言ってきた。
おいおい、俺を提灯お化けと分かってないのか?
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「メイドという奴じゃないのか?」
カラカサが今している格好の名称のほうが大事だ。
深く、俺の胸に深く、刻みつけなければならないからな。
「ウエイトレスだ」
と、そっけなくアライは答えた。
「そうか」
ウエイトレスか。
それもまたいい響きだ。覚えておこう。
「ああ、もうめんどくせぇ。便所にでも置いておけよ」
便所に俺を?
そんな場所になぜ俺を置こうとする?
特にカラカサも反対しないのか、
「移動させておくんなんし」
なんて言ってやがる。
「自分でって…… そうかカラカサは手がないのか」
そうだ、よく昔はカラカサに咥えられて運ばれていたもんさ。
「こんなものを口で咥えるのは嫌でありんす」
それで何で嫌われた?
こんなに嫌われたんだ?
「昔はよく運んでいてくれたじゃないか!」
「それも、いやでありんした」
え? 嫌だった…… 俺はあのころからカラカサに嫌われていたというのか?
「心を抉ってくれるじゃないか、カラカサ」
強がってそういったけど、なんかこう、崩れ落ちそうだ。
今にもなくなってしまいたい。
「名前も呼んで欲しゅうありんせん」
名前すら呼ぶなっていうのかよ。
アライが改めて、俺を見てきて、
「チョウさん、なんでこんなに嫌われているんだ?」
そう聞いてきた。
何って、そりゃ……
「ちょっとカラカサの御御足をペロリとしてしまってな。それ以来こんな感じよ」
俺には手も足もないんだ。
目と舌しかない。
なら、俺にできるのはカラカサを見守ることと、舐めることだけだ。
それをしたまでだ。
「あー、わかった。隣に返品してくる」
急にアライの奴がそんなことを言い出した。
な、なんでだよ!
「隣に住んでもいるんでありんすが?」
カラカサが本当に、本当に嫌そうにそう言った。
俺はなんでここまでカラカサに嫌われたんだ?
「それもそうだった。部屋の外に置いて来るよ。それでいいだろ?」
アライは思い出したようにそう言って、俺を手に取った。
それに抗うこともできない。
「あい」
「ちょっと待て! なんで俺が追い出されなくちゃなんねぇんだ!」
俺はそう叫んだ。
力の限り、ふり絞ってそう叫んだ。
「なんでだろうな。ここはそういう場所だ。このカフェのオーナーとして、従業員は俺様が守らなくちゃならねぇんだ」
だが、アライは冷静に、俺を見下しながらそう言った。
「アライ? 小豆洗い? オマエ何を言っている? 人間に毒されすぎじゃないのか?」
おかしい、おかしいぞ、アライ! カラカサも! 人間に毒されすぎているぞ?
そう叫んだ俺を、アライは少し可哀そうな目で見る。
「おまえなぁ。アカナメの奴が最近、妖怪の間でも、どういう扱いを受けているか知っているだろ? 変態フェチ妖怪って言われてんだぞ」
アカナメの奴の落ちぶれぷりはすごかった。
ここ最近のことだ。
急に妖怪内でも風当たりが強くなってきて、妖怪連合でさえアカナメの居場所はなかった。
コンプライアンスがどうとか言ってた気がするが……
そうか、妖怪だもんな。
人間の影響をもろに受けるのが俺達だ……
だが、そのアカナメと俺と、
「なんか関係あるのかよ!」
俺はアカナメとは違う。
あんな変態フェチ妖怪と一緒にしないでくれ。
だが、アライは冷静に俺に言い聞かせる。
「少なくともカラカサの奴にはそう思われているってことだぞ」
「う、嘘だろ!? 俺が? 変態フェチ妖怪? だって?」
俺がカラカサに、アカナメと同等に見られているっていうのか?
ただその脚を舐めただけで? ぺろりとしただけで?
「なんだ、自覚なかったのか。まあ、しばらく表で頭を冷やして来いよ。ついでにそこにストーカーまで追加されてるからな?」
俺はアカナメ以下!?
なのか?
え? 嘘だろ?




