【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十四話】
「まあ、いい。いいんだ。唐傘お化けが無事だったなら俺はいいんだ」
自分に言い聞かせるように。
俺はそう言った。
そうだ、唐傘お化けが無事であってくれれば、それでいいんだ。
唐傘お化けがどんなに変わり果てた姿であってもだ。
でもなんで、奥ゆかしかったあの姿を捨てて、こんなけばけばしい姿に?
唐傘お化けよ、俺がいない間に何があったというんだ。
「なら早う帰っておくんなんし」
俺が心の中で葛藤していると、唐傘お化けはさらに追い打ちをかけてくる。
帰れだ?
そんな姿になっちまったオマエを置いて帰れるわけないだろ?
それにな、
「そうは言っても俺は一人じゃ動けもしないからな」
俺一人じゃ帰れないんだ。
帰るときはオマエも一緒だ!
「ほんに甲斐性なしでありんすね」
「グッ……」
そ、そりゃ俺は甲斐性なしさ。
なにせ一人じゃ移動もできない。
人を驚かせて、その姿を笑うことしかできないのが俺だ。
だって、そういう妖怪だし、俺。
ただの手持ち提灯だし。
なんで俺には目と舌しかないんだ?
せめて手でも生えていたら……
「カラカサ、そんなにこの提灯が嫌なのか?」
カズミとかいう女がそんなことを唐傘お化けに聞いた。
何、俺の前で聞いてんだよ!
デリカシーとかねぇのかよ!
それに唐傘お化けは即座に答える。
「好きになる要素がありんせん」
え? 好きになる要素がない?
俺に?
な、なんでそんなことを言うんだ、唐傘お化け!
「そっかー、なら、とりあえず隣にでも置いておくか?」
なっ、何言ってやがる。
俺はいつでも唐傘お化けと一緒だ。
一緒なんだ!
それを引き離そうというのか?
「仕事場に置くんでありんすか?」
隣は仕事場なのか?
というか、唐傘お化けは働いているのか?
「そういや一応は仕事場だったな。給金、出てるのか?」
唐傘お化けはどんな仕事をしているんだ? いかがわしい仕事じゃあるまいな?
「ええ、安うござりんすが」
「アライの奴結構ちゃんとしてんのな。良かったな、カラカサのメイド姿が見れるぞ」
アライ? そう言えば小豆洗いもいるとネコマタが言ってたな。
あいつの元で働いているのか?
俺より小豆洗いがいいのか?
けど、メイドってあれか?
人間達が着ているフリフリの服を着た給仕か?
唐傘お化けのフリフリ服姿だと? けしからん! 実にけしからん!
「メイド? 唐傘お化けの!?」
けしからんので俺の口からそんな言葉があふれ出てしまう。
その言葉を聞いた唐傘お化けの表情は何とも言えない……
い、いや、実に分かりやすく嫌な表情を浮かべていやがる。
そ、そんなに俺のことが嫌いなのか?
ついペロリとその脚を舐めてしまっただけで、そこまで嫌われなきゃならないのか?
「カラカサもそんな嫌な顔するなよ。それより提灯お化けの名前も決めてやらないとな」
カズミとかいう女がそう言ってくれるが、唐傘お化けはそれにも取り合わない。
「名前? 俺の?」
そう言えば、ここにいる妖怪達はみんな名前を付けられているのか?
ほとんどそのまんまだけど。
「提灯だからチョウさんでいいか」
「お、おう?」
チョウさん?
なんかなー、もっとカッコいい名前はないのかよ?
いや、でもいいか、チョウさんで。
んで、隣に住んでいる小豆洗いこと、アライさんの部屋へ来てみたが……
「こ、これがメイド服の唐傘お化け……」
着替えた、正確にはトウフこと豆腐小僧により着替えさせられた唐傘お化け、いや、ここではカラカサか、は、なんていうか、うん、良いね。
良いね。人間が作り出した文化の中でも一番といってよいんじゃないか?
俺はそう思うね。
「見ねえでくれんすか?」
冷たい視線でカラカサに言われるのも、もう慣れた。
むしろ、それすらも今の俺は受け入れるぜ。
これから毎日、カラカサと一緒なんだからな!
「なんじゃ、提灯お化けまで来たのか」
店? 店なのかな? ここは。
まあ、一番奥の席からそんな声が聞こえて来た。
見てみるとそこにいるのはぬらりひょん様だ。
ネコマタの言う通り無事でいらっしゃる。
けど、そうなってくるとこのアパートはいったいなんなんだ?
「本当にこのアパート、妖怪がどんどん集まってきますね」
トウフがそんなことを口にした。
「まあ、元々ワシが所有している物件だからのぉ」
そして、ぬらりひょん様が俺の疑問にも答えてくれる。
納得だ。
ぬらりひょん様が所有している物件なら、そりゃ妖怪も集まってきますわな。




