【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十二話】
この辺りは街中だっていうのに随分と人通りが少ない。
見えない壁があるからか?
この見えない壁はヌリカベじゃないのか?
でもな、壁と言えば、ヌリカベだよなぁ?
それ以外になんかいるか? 新種の妖怪か何かなのか?
この提灯お化けの知らない妖怪なのか?
まあ、俺は自分では動けないから、あんまり物を知らないんだけどな。
そんな俺を唐傘お化けの奴は口で咥えてよく運んでくれたっけか。
ああ、唐傘お化け!
オマエは本当に無事なのか?
あの魅惑の脚に傷一つでもついていたら、許さないからな!
などといきり立ってみたけども、俺にできるのは、提灯だと思って近づいてきた人間を驚かすことだけ。
しかも一発ネタみたいなもので、それで相手が逃げ出さなければ、笑ってごまかすことしかできない妖怪だからよう。
俺には何の力もないんだ。
そんな俺でも唐傘お化けの安否を心配したっていいだろう?
にしても、最近の外は暑いな。
なんでぇ、この暑さは。
……
…………
………………
ハッ、俺は寝てたんか? それとも暑さで気絶してたんか?
もう夕方じゃないかよ。
と、寝てたか気絶してたかなんてどうでもいい。
俺が目を覚ましたのは妖気を感じたからだ。
とても微弱な妖気だ。
俺より微弱な妖気だぞ、そんな奴は早々いない。
自慢じゃないが俺は自力では動けないし、人を驚かした後に、襲えるわけでもない。
やれることは、俺を見て腰を抜かした人間をゲラゲラと笑うことくらいだ。
俺はそんな妖怪だぞ。
そんな俺より妖気が弱いとなると……
「おい、豆腐小僧! そこにいるんだろ!」
心当たりがあり、唐傘お化けと同時期に姿を消した豆腐小僧の名を叫んだ。
するとすぐに返事が返ってきて、俺は誰かに持ち上げられる。
そして、覗き込んでくる顔は……
豆腐小僧…… なのか?
なんで人間みたいな格好してやがる?
「え? はい! 豆腐小僧です! あっ、提灯お化けさん、こんばんは」
ただ豆腐小僧は相変わらず気さくに俺に話しかけてきやがる。
相変わらず妖怪なのに邪気一つないな。
今は豆腐小僧のことなんてどうでもいい。
「何腑抜けた挨拶してやがる! 聞きたいことがある! 俺の相方ともいうべき唐傘お化けは無事か? 無事なのか?」
唐傘だ、唐傘お化けのことのほうが大事だ!
「なんだ? トウフの知り合いか?」
そう言ってきて、人間の女が俺を覗き込んでくる。
俺を見てもビビりすらしない。
それどころか、なんかこう、めんどくさそうな顔をしやがるだけだ。
「ボクの、というよりは、カラカサさんの知り合いですね」
豆腐小僧がそう言った。
まあ、事実だが。
俺は豆腐小僧とも友達になったつもりでいたんだが?
違ったのか?
「ああ、カラカサの彼氏とか?」
若干落ち込んでいた俺がどうでもよくなるようなことを人間の女が言い放ちやがった。
お、俺が唐傘お化けの彼氏だと!?
「か、彼氏!? 俺が唐傘お化けの、彼氏だって!? ち、ちげぇよ、お、俺達はそんな関係じゃねぇよ!」
慌てて俺は否定してしまったが、これを聞いたら、唐傘お化けの奴、落ち込まないよな?
まあ、確かに彼氏彼女って関係じゃ、ないんだけどよ。
「違うのか。じゃあ、それ置いて帰るかトウフ」
だが、人間の女はあっさり言い放ち、豆腐小僧も豆腐小僧でそれに軽く同意しやがる。
「あっ、カラカサさんは元気にしてますよ、では!」
そう言って、俺を道端に置いて行こうとしやがる。
「ま、待ちやがれ! 俺も連れていけ!」
このまま道端に置いて行かれでもしたらたまらないと、俺は大きな声を張り上げる。
なのに人間の女は、
「ええー、これ以上妖怪を増やしてどうするんだよ」
と、めんどくさそうにそう言った。
コイツ、妖怪に慣れすぎじゃないか?
なんだ、この人間は?
「カズミさん……」
ただ豆腐小僧はやはりいい奴だ。
俺のために人間の女を見上げて、懇願するような視線を向けてくれている。
「トウフ、そんな目で見てくるなよ! ああ、もう、知らないぞ。いくら面倒見の良いトウフでも、もう手が回らないだろ! 私は手を貸さないからな! それでもいいなら好きにすればいいよ!」
カズミと呼ばれた人間の女は、豆腐小僧の視線に顔を赤らめてそう言い放った。
ふっふーん? さては女、オマエ、豆腐小僧にほの字だな?
ただ豆腐小僧のほうはその気がないのか、
「スネカジリさんの面倒くらいカズミさんが見てくださいよ」
と、そう言っている。
スネカジリ? なんだそれは?
スネコスリの亜種かなにかか?
「あいつ、未だに私にだけは懐かないんだ。そのくせ脛にはまとわりついて来るくせに」
スネコスリのことなのか?
脛といえば、あいつだよな。
あいつはいい奴だ。
なにせ脚の良さを分かっている奴だからな。
そう、脚はいい、良すぎる。
あいつ脛だけ好きだったようだが、俺は足全体が好きだ。
無論脛も好きだ。大好きだ!
「脛…… 脛か…… まあ、確かに脛はいいからな…… スネコスリがまとわりつくのもわかる話だ」
俺がそう発言した瞬間、場が凍るような、そんな冷たく鋭い視線が俺を貫く。
その視線の主はカズミと呼ばれた女だ。
人間がこんな視線を放てるものなのか?
俺が視線に恐れおののいていると、その鋭さはすぐに霧散していく。
「なんだよ、おまえ、変態かよ! あっ、分かったぞ、こいつカラカサの脚目当てだろ!」
そう言って、カズミという女は俺を笑った。
いや、あざ笑った。
な、何故だ? 何故ばれた!?
「ち、違う! 断じて違う! だが、確かに唐傘お化けの脚は美しい、芸術品だとは思う、思うが、俺が唐傘お化けに劣情など抱くわけがない!」
言いつくろってみたがどうだ。
信じるか?
だが、カズミと呼ばれた女は少し考えた後、
「ああー、うん、面白そうだから連れて帰るか!」
と、そう嫌な笑みを浮かべながら言った。
なんなんだ、この女は!?
「はい!」
ただ、豆腐小僧だけは相変わらず無邪気に返事を返していた。




