【第十章】私と脚フェチと上京した幼馴染的な存在が会わないうちになんとやら【九十一話】
「おい、口裂け女!」
いきなりそう呼び止められました。
はい、私は昭和を代表する妖怪、口裂け女、デスッ!!
デスが、いきなり、おい、と呼び捨てされてはあまりいい気はしませんね。
少し不貞腐れて振り返ると、そこには提灯が置かれてました。
真ん中から割け、そこからダランとだらしなく舌をたらし、それを口とするならば、その上に大きな一つ目がついていますね。
提灯お化けパイセンデス。
「なんデスか? 提灯お化けパイセン」
自分では移動もできない妖怪デスね。
一つ目小僧パイセンとか、のっぺらぼうパイセンのオプション的な立ち位置の妖怪デスッ!
そんな提灯お化けパイセンが、昭和を代表する私に何の用なのデスか?
「折り入って頼みがある」
先ほど呼び捨てにしたときは打って変わって勢いがありませんね。
随分としおらしくなってしまっていますね。
「私でよければ、なんなりと」
そういう態度であれば、私もパイセンの頼みを断る程愚かではないデスッ!
妖怪とはいえ私は昭和生まれ。上下関係には厳しいんデスよ!
「俺を例のアパートに連れてってくれねえか?」
「ああ、例の?」
例のアパートというのは、ネコマタパイセンの縄張りになったという、誰もたどり着けないアパートですよね?
頼みを聞くのはいいのデスが、私ではアパートにたどり着けないのデスよね。
「ああ、俺は一人じゃ動けないんだ。頼むぜ」
まあ、提灯お化けパイセンよりは近づけますが。
だって、あなた自力で移動できないデスものね。
「それはいいんデスが、私もあのアパートへ向かったことがあるのデスッ! けど、たどり着けなかったんデスよ」
あそこを守っている妖怪なんデスかね?
ただ者じゃないんデスよ。
「そうなのか? まあ、途中まででも頼むぜ? 親友の唐傘お化けが心配で心配でな」
なるほど、ご友人のためでしたか。
それなら、私も力を貸すこと自体やぶさかではないデスね。
「ネコマタパイセンの話では、唐傘お化けパイセンも無事だという話だったのデスが、まあ、心配デスよね。わかりました。私が力を貸します」
昨今妖怪の数もだいぶ減ってしまいましたからね。
新しく妖怪が生まれてくることも少なくなってきたと聞いています。
妖怪が生まれるほど長く噂が定着しにくくなったらしいんだとか。
どれも一過性の噂に過ぎず妖怪として生を持つほどの年月語り継がれないとかで。
なので、妖怪同士助け合っていこうというのが妖怪連合なのデスよね?
あれ? 違いましたっけ? 私はそう聞いていたのデスが?
まあ、提灯お化けパイセンの気持ちもわからなくはないデスよ。
なにより妖怪連合本来の意義デス! よね?
「おう、頼むぜ。頼める妖怪がオマエしかいないんだ!」
「私…… 私しかいない! お任せくださいデスッ! この口裂け女! 行けるところまで行くつもりデス!」
私しかいない!!
頼られる私!
いいデスね。それ。
私もまだ妖怪としては若輩者デスッ!! 私が頑張らないとデスね。
「とまあ、ここまでは普通に来れるんデスよ。でもこの先に見えない壁があって進めないんデスよ」
そう言って口裂け女はもうアパートが目と鼻の先くらいの通路で足を止めやがった。
なんでい、もうすぐそこが目的地じゃないか。
気張りやがれよ。
「ヌリカベだろ? 足元を払えば消えるはずだぜ?」
確かにヌリカベの奴は厄介だが、対処法は簡単だぜ?
これだから新参者は何も知らなくていけねぇ。
「それもやったんでデスよ。ほら」
そう言いつつ、口裂け女は俺を持つ手で見えない壁の足元を払いやがった。
確かに提灯な俺だし、棒にぶら下がっている俺だ。
その棒を使って払いたくなるのはわかる。
わかるんだが、
「おい、やめろ! 俺を使って払おうとするなよ!」
提灯の火が消えたらどうしてくれる!
でも、今のご時世、簡単に火をつけれるんだっけか?
火打石や火口の用意は必要ないんだっけか?
けど、一度火が消えちゃうと俺は俺でなくなっちまうんだよ!
「あっ、すいません。つい持ちやすい棒だったので」
まあ、確かに俺は持ちやすさってもんを兼ね備えているよ?
だからって、俺で払うなよな。
「けど、確かに今ので消えないとなるとヌリカベの仕業じゃないのか? 俺は親友の唐傘の奴に会いたいだけなんだ! ヌリカベ! ヌリカベだったら俺のこと分かるだろ? 通してくれよ!」
とはいえ、普通のヌリカベなら今のように払われたら消えるはずだよな。
なんで消えないんだ?
ヌリカベじゃないのか?
「ダメデスね。見えない壁は消えてません」
俺の問いかけにも答えないか。
やはりヌリカベじゃなく別の妖怪ってことなんか?
「そうか、分かった。俺をここに置いて行ってくれ」
あとはどうにかするしかあるまい。
雨降らないといいな。
「いいんデスか?」
「ああ、問題ない!」
そもそも生まれてこの方動いたことのない俺だ。
こんなことは日常茶飯事だ。
問題ないぜ!
雨降ったら嫌だけどな。詰むしな。
「では、おいていっちゃいますよ? いいんデスね?」
心配するな。
俺の灯す明かりを信じろ!
「ああ、ありがとうな。口裂け女」
「いえ、パイセンもお元気で……」
そう言って俺を道の脇に残し、口裂け女は去っていった。
意外とあっさり帰っちゃうのね、ああ、そう……
雨、降らないといいな。
中の蝋燭消えたら嫌だしな。




