【第九章】私とお猫様と例のアレ【八十六話】
「やっぱ妖怪でも猫は猫なんだな」
人間の雌がうちに向かいそんな言葉を投げてくるニャ。
しかも背中を撫でながらニャ。
なんて無礼な人間ニャ。
でも、このムチュールとかいうのが旨すぎて、それほど気にはならないニャ。
「すごい美味しそうに舐めてて可愛いですね」
豆腐小僧がそう言った拍子にムチュールを持つ手が若干上に上がったニャ。
舐めにくいニャ!
もっと手を下げるんだニャ!!
気が利かない妖怪だニャ。
「だけどよ、これ、ネコマタの奴もこれで妖怪連合抜けることになるんじゃないか? 妖怪連合からしたらまた行方不明になった妖怪が出たと思われるんじゃね?」
何言っているニャ。
うちがいつ妖怪連合を抜けると言ったかニャ。
うちは妖怪連合を抜けるつもりはないニャ。
報酬の猫缶も貰わないといけないニャ。
うちの縄張りが増えただけのことニャ。
「まあ、そうじゃろうな。そのまま解散してくれると助かるのだが」
ぬらりひょんまでそんなことを言うのかニャ?
それは困るニャ。
そうなったらうちはどこで餌にありつけばいいんだニャ!
だから、ここに住めば良いってことなのかニャ?
毎日このムチュールをよこせば考えてやらんこともないニャ!
「そもそも妖怪連合ってなんなんだよ」
うちに猫缶をくれる組織ニャ。
大事な組織なんだニャ!
「ワシも知らぬよ。様子を見に行ったら担ぎ上げられただけだからな」
総大将も知らないのかニャ。ダメダメニャ。
でも、うちも猫缶くれること以外まるで知らないニャ。
「俺様は、人間を驚かせて妖怪の地位を向上させようって聞いたぞ」
「ボクもそんな感じでした」
小豆洗いと豆腐小僧がそんなことを言っているニャ。
お前達は小豆を洗ったり、豆腐を持ってるだけの妖怪ニャ。
それじゃあ、人間驚かすことなんてできないニャ!
その点、うちは忍び歩きが得意ニャ!
人間を驚かすなんて簡単だニャ!
こら、豆腐小僧また手が上がって更に舐めにくくなっているニャ!
もっと下でムチュールとやらを持つニャ!
「まあ、無駄なことじゃな。そもそも武闘派な妖怪はすでにほとんど退治されて残ってはおらぬよ。今残っているのは割と人畜無害な奴ばかりじゃからな」
そうなのかニャ?
うちのご先祖は人間をさらって食べたって聞いたことがあるニャ。
うちはグルメだから人間なんか食べないけどニャ。
「だから、集まってってことか。人間に恐れられると強くなったりするのか?」
集まったところで烏合の衆ニャ。
時代遅れの妖怪達ばかりだニャ。
その点、うちは現役の猫ニャ!
今の時代でも十分に怖がられ通用する妖怪ニャ!
にしても、この人間の雌、背中を撫でるのが上手いニャ……
「まあな。だいたい噂というものには、尾ひれがつくものじゃろ? その尾ひれが本当になったりもすることがある。それもまた事実じゃ」
「妖怪連合にそんな狙いがあったんですか? ぬらりひょん様」
うちにも尾ひれがつくのかニャ?
でも、猫には尾ひれはつかないニャ。
何を言っているのニャ!
「かもしれない、という奴じゃな」
「ん? それで言ったらぬらりひょん、あんたやっぱり悪の親玉じゃないのか?」
そうニャ。ぬらりひょんは悪の親玉のはずニャ。
こんな人間の雌なんか敵じゃないはずだニャ。
ぬらりひょんの情けに感謝するんだニャ。
「だから、なることもあると、そう言ったではないか。必ずしも噂の通りになるわけではないぞ」
そうなのかニャ?
うちにはよくわからないニャ。
「なるほどな。だとするとネコマタも猫だからムチュールに夢中になる、なんて噂が流れていたのかもな」
違うニャ。
このムチュールが美味しすぎるんだニャ!
「それは十分にあり得る話だ。この食いつきようは少々異様に思える」
異様なのかニャ。
まあ、うちも舐めるのに夢中で何も口を挟めてないニャ。
言いたいことは、うちにもあるニャ。
けど、今はこれを舐めていたいニャ!
舐めていたら何もしゃべれないのニャ!
「んー、でも普通の猫でもこんくらいの食いつきだぞ」
それは嘘だニャ。
普通の猫がこんな行儀よくこれを食べるわけないニャ。
もっと食いつきがいいはずだニャ!
うちだからこの程度で済んでいるだけニャ!
だから、豆腐小僧! 手を下げるニャ! 舐めにくいんだニャ!
垂れたらもったいないニャ!
垂れたら垂れたで、それももちろん舐めるけどニャ。
「人間って奴は恐ろしいものを作るもんだな。こんなもん、もう中毒と変わりないじゃないかよ」
小豆洗いがそんなことを言うニャ。
何を言っているニャ。
こんな美味しいものを作る人間は素敵な奴らニャ。
「全くだな」
ぬらりひょんも何を言っているニャ?
ああ、それにしても舐めるのが止められないのニャ……




