【第九章】私とお猫様と例のアレ【八十五話】
「な、なんだニャ? この香りは今まで嗅いだことない匂いだニャ」
人間の雌が封を切った瞬間に、ものすごく美味しそうな匂いが香ってきたニャ。
な、なんだニャ?
この五感すべてを惹かれるような匂いは?
なんていうか、もうそれから目を離せなくなるような匂いニャ。
「ほーら、ちょっとだけ舐めてみ?」
そう言ってうちの鼻先に出されたら、うちも我慢できないニャ。
でも、
「そ、そんなものでうちは買収されな……」
とは言いつつも、体が勝手に動いてそれをひと舐めしてしまうニャ。
舐めてしまったら、もう終わりニャ。
その瞬間、うちの体に電流が走ったニャ……
な、なんなんだニャ?
これは、猫缶とも違うニャ。
けど、これは猫缶以上の衝撃だニャ!?
まずい、まずいニャ!
舐めるのがやめられないニャ!?
気が付けば夢中で舐めていて、体が止まらないニャ!
「おー、舐めとる舐めとる。本当に尻尾が二つに分かれてるんだな」
人間の雌がそう言って、うちの背中を撫でてきたが、そんなことはどうでもいいニャ。
今はとにかくこれを舐めないといけないニャ!
「それがネコマタという名前の由来じゃな」
誰かがそんなことを言っているけど、本当にどうでもいいニャ!
うちが人に飼われてた時、こんなおいしいものはなかったニャ!!
ニャンにゃんだ、この食べ物はニャ!
「おっと、ここまでだ」
そう言って、人間の雌が、それをうちの手の届かない位置まで上げてしまったニャ!
ニャンということするニャ!
それを早く下げて、うちに舐めさせるニャ!
「ニャ! なんでだニャ! もっとよこすニャ!」
「じゃあ、分かっているよな? 告げ口は?」
と言われて、正気に戻るニャ。
コイツ、うちを買収する気だニャ。
そんなもので買収できるものかニャ、とうちの心は言っていたが、出た言葉は、
「しないニャ! それをよこすニャ!!」
だったニャ。
うちの完敗ニャ。
うちはこのすごくおいしいものと引き換えに、仲間もプライドもすべて売ってしまったニャ。
完全にもう、うちは虜にされてしまったニャ……
もうダメニャ……
「よしよし、続きを舐めていいぞ」
そう言って、美味しいものをうちの鼻先まで持ってくるニャ。
ダメニャ。
これには逆らえないニャ……
「カズミさん、何を食べさせているんですか!」
あまりにもうちの食いつきっぷりに、豆腐小僧がそんなこと言ってくれるニャ。
これが何であれ、うちはもう手遅れニャ。
これを出されたら、うちはもう…… 魂でも売るしかないニャ!
「んー、猫用のオヤツだよ? 別にいけないものじゃないぞ」
これがオヤツ?
なにかうちを惹きつける専用の秘密兵器じゃないのかニャ?
今どきの猫はこんなものを口にしているのかニャ?
なんともうらやましいニャ!
「そうなんですか? でもこの食いつきは異常じゃないですか?」
確かに異常だニャ!
旨すぎるニャ!
舐めるのがやめられないニャ!
「それだけおいしいってことだよ。あー、でも場合によっては、おいしすぎてこれしか食わなくなって、普通のカリカリとか食べなくなったって聞いたことはあるな」
確かにそうニャ!
こんなもの味わったら、もう猫缶に満足できなくなるニャ!
こ、これはまずいニャ!
けど、舐めるの止められないニャ!
美味しすぎるニャ!
「マタタビでも入っているのか?」
マタタビ!?
そうだったのかニャ!
それは逆らえないニャ!
それなら仕方ないニャ!!
「うーん、成分表には書いてないな」
え? これにマタタビはいってないのかニャ?
確かにマタタビっぽさはないニャ。
「けど、この食いつきは異常じゃないか? というか、成分表? 材料が分かっているなら、それを元に作れるんじゃないか?」
小豆洗い!
これを作れるのかニャ!?
お前は天才かニャ!
一生ついていくニャ!
「そう単純な話じゃないけどな」
「ふむ。どれどれ、魚介類、鶏肉、カニエキス、調味料、オリゴ糖、増粘剤、緑茶エキスなどか。確かに。これといっておかしなものは入ってないな」
ぬらりひょんがそういうなら間違いないニャ。
「オリゴ糖ってなんだ?」
小豆洗いはそんなものも知らないのかニャ。
で、それがこの美味しいものの秘密なのかニャ?
なんなんだニャ? オリゴ糖?
「砂糖の一種だよ、特に変なもんじゃないぞ」
人間の雌がそう答えるニャ。
変な物じゃないニャ? それがこれの秘密じゃないのかニャ?
「あっ、あれか、人工甘味料って奴か? 危険なんだろ? それ! 俺様はそう聞いたぜ?」
小豆洗いがそんなことを言い出したニャ!
き、危険なのかニャ?
で、でも、うちは舐めるのやめられないニャ!
これを取り上げられるくらいなら、うちは死ぬニャ!
「え? あれ? どうっだったかな。確かオリゴ糖は違ったと思うけど。アライはまた変なもんにはまってるんだな」
違うのかニャ? うちはこのまま舐めていていいのかニャ?
どっちにしろ止められないニャ!
もっと、もっとこれをよこすニャ!
「カズミさん!」
豆腐小僧がいきなり挙手して大きな声を上げたニャ。
「なんだ、トウフ?」
「ボクもそのムチュールってやつをあげてみたいです!」
これはムチュールって言うのかニャ?
確かに夢中になるニャ!
「ほら、トウフまだ半分くらい残っているから、これをもって」
「はい! どうですか? ネコマタさん、美味しいですか?」
「ンニャ!」
美味しいニャ! 美味しいニャ!!
こんなおいしいものくれるなら、うちももう妖怪連合抜けるニャ!




