【第九章】私とお猫様と例のアレ【八十四話】
「なあ、報告はいいんだけど、西瓜侍とスネカジリ、あっ、いや、スネコスリだっけ? のことは上手くごまかしてくれよ? な?」
そう言って人間の雌がうちの頭をなでてくるニャ……
撫でられるのは悪くないニャ。
でも、
「嫌だニャ」
うちはこう見えて忠実なんだニャ。
恩をあだで返すようなことはしないニャ。
「そんなこと言わないで、な?」
い、いや、辞めるニャ……
そんなお腹をワシャワシャされたくらいじゃ、仲間を売るわけないニャ!
この雌、妙に猫の触り方を熟知しているニャ。
「まあ、報告されたところで妖怪連合には脅威になるような妖怪はおらぬよ。そもそも、ヌリカベが道を塞いでいる今、ここへはたどり着けぬよ」
そんなことないニャ。
妖怪連合には…… あれ? そういえば強い妖怪はあんまりいないニャ?
「そうなのか? 私からすれば妖怪ってだけで脅威だけどな」
人間からすればどんな妖怪であろうと恐怖の対象だニャ。
それにしても、本当に触り慣れているニャ……
気持ちいいニャ……
「その妖怪に囲まれて暮らしている奴が何を言う」
「みんないい人ばかりですよ!」
ぬらりひょんと豆腐小僧がそんなことを言うニャ。
そういえばそうニャ。
この雌にとって妖怪はすでに日常なんじゃないかニャ?
本当はこの雌も人間に化けているだけで妖怪の類じゃないのかニャ?
「でもさー、西瓜侍は明らかに敵意があったろ?」
雌が不貞腐れたようにそう言ったニャ。
西瓜侍、あいつもよくわからない奴だったニャ。
普段無口のくせして、急に長々と喋りだしたりする奴だったニャ。
「まあ、奴は腐っても侍だからな。戦うのが本分なのだろうよ」
「けんど、口上中に蹴り殺したんでありんすよね?」
この雌、西瓜侍が口上を述べている間に不意打ちしたのニャ!?
なんて奴ニャ!
「武器持ってたし、蹴りやすく頭を下げて来たしで…… 仕方なかったんだよ」
なに言い訳しているニャ!
口上中に攻撃とか卑怯だニャ!
「まあ、別に誰も怒ってはおらぬよ」
え? そうなのかニャ?
総大将のぬらりひょんが言うからにはそうなのかもしれないニャ。
なら別にいいかニャ。
あいつとは友達でもないニャ。
「そうなのか?」
「トウフは怒ってなかったか?」
そう言って雌が豆腐小僧を見るニャ。
安っぽい着物を着ていた豆腐小僧が柔らかそうな服を着ているニャ。
もうほとんど人間の子供と見分けがつかないニャ。
妖怪としての誇りはないんだニャ?
「こやつは小僧と名に付く故、世間を知らないからな」
そういうことかニャ?
子供なら仕方がニャいニャ。
子供はそういうものだニャ。
「やっぱり名前に縛られるのか?」
「我々はもともと夕闇に紛れるような不安定な存在よ。名に縛られて当然だ」
そうなのかニャ。
うちはそんなこと知らなかったニャ。
名前には気を付けないとダメだニャ。
「ん? じゃあ、このネコマタ? の名前は、告げ口しない猫って名前にしようぜ?」
「嫌ニャ!! 断固反対するニャ!」
なんて人間なのニャ!
うちに何て名前を付けようとしてくるんだニャ!
「ハハッ、良い案だがそう簡単な物でもないぞ。本人が気にいるか、噂のように広く多くに知れ渡りでもしない限り効力はない」
そんな名前気に入らないから平気ニャ!
「スネカジリの奴は? あいつ、最初は嫌がってたぞ」
「恐らく食欲に負けただけじゃな。だから獣落ちしただけのことよ」
元々猫だったうちが獣落ちしたらどうなるんだニャ?
ただの猫に戻るのかニャ?
まあ、うちはうちニャ、猫に戻ったところで関係ないニャ。
「食欲に? じゃあ、このネコマタ? だっけか? これに何か上手いもの食わせればいいのか?」
「ま、まさかうちを獣落ちさせようとしているのかニャ!? なんてひどい人間ニャ!」
なんて奴ニャ!
今のうちに逃げたほうがいいんじゃないのかニャ?
でも、ヌリカベがいるニャ。
あれを超えることはうちにも無理ニャ……
「そういや、試供品でもらったあれがあったな。ちょっととってくるか」
そう言って人間の雌が部屋から出て行ったニャ。
「ネコマタよ、逃げるなら今のうちだぞ」
ぬらりひょんがそう言ってくるニャ。
でも、
「ちょ、ちょっと気になるんだニャ」
あの雌がどんなものを持ってくるか、気になって仕方がないニャ。
うちの勘が言っているニャ。今逃げたら損をするってニャ。
きっとあの雌のことニャ。
猫缶を持ってくるはずだニャ。
「知らぬぞ?」
ぬらりひょんが再度確認してくるニャ。
「むむっニャ……」
そう言われると、心配になってくるニャ。
「持ってきたぞ、猫用液状おやつ! ムチュールの試供品だ!」
そう言ってなんか長細い物を持っているニャ。
がっかりニャ。
「猫缶じゃないのかニャ? うち、報告へ行くニャ」
本当にがっかりニャ。
さっさと帰って報告するニャ。
「まあ、これを食べてからでも遅くはないだろ?」
そう言って人間が細長い物の封を切ったニャ……




