【第九章】私とお猫様と例のアレ【八十三話】
逃げ出すにしてもドアが閉まっているニャ!
と思ったけど、うちが出口に向かうと人間の雌がドアを開けてくれたニャ!?
どういうつもりなんだニャ?
この雌はうちの協力者なのかニャ?
けど、外に出られればこっちのものだニャ!
うちは全力でアパートから逃げだしたニャ。
アパートの廊下を走り抜け、階段を駆け下り、庭を駆け、道路に出たニャ!
ここまで一瞬の出来事ニャ!
アパートの二階から、
「おお、すごいすごい! ものすごい勢いで駆けていったぞ」
なんて声が聞こえて来るくらいニャ!
後は道を走り抜けて一気に妖怪連合のアジトまで行くニャ!
ミャッ!?
何かにぶつかったニャ?
でも何も見えないニャ!
見えない壁でもあるようだニャ。
これが、噂に聞く通せんぼしている何かニャ?
猫であるうちまで通せんぼしているのかニャ?
けど、うちは猫ニャ!
こんな壁ひとっとびニャ!
と、思って駆けのぼったんニャが、見えない壁が想像以上に柔らかくて、途中で爪が引っかかってしまったニャ……
見えない壁にぶら下がるようにして身動きが取れないニャ……
まさかこんな罠があろうとはうちも思わなかったニャ。
こ、こんなはずじゃなかったニャ……
「おい、トウフ! 見ろよ! 猫が空中に万歳しながら浮いてるぞ!」
後ろから人間の雌の声がするニャ。
こ、こいつ!?
もしかして助けるふりをして、うちをはめたのかニャ!?
なんて奴ニャ!!
「ほんとだ! すごいですねカズミさん!」
けど、うちも思い出したニャ。
豆腐と聞いて思い出したニャ!
あの人間の服を着てる奴、あれは豆腐小僧だニャ!
あれ? 行方不明になった妖怪ほとんど無事じゃないかニャ?
何が起きているのか、全くわからないニャ?
「あっ、爪が引っかかっていて身動きが取れないみたいですね。ボクじゃ抱えきれないのでカズミさん、お願いします!」
豆腐小僧が近くまで来て確かめてそう言ってくれたニャ!
早く助けてくれニャ!
このままでは爪が剥がれてしまうニャ!
「仕方ないなぁ、猫ちゃん助けてやるから暴れるなよー」
そう言って人間の雌はうちを優しく抱き上げてくれたニャ。
「ヌリカベさんもご苦労様です」
豆腐小僧がそう言って何もない空間に向けて頭を下げたニャ。
あれ? やっぱりこれはヌリカベの仕業なのかニャ?
じゃあ、なんで足元を払うのが効かないんだニャ?
「後でカラカサに踏んでもらうんだぞ」
それに何を言っているのかニャ……?
うちを踏みつける気かニャ?
「と、いうわけでここにいる全員、妖怪連合を抜けただけなんですよ」
豆腐小僧改め、トウフがうちに丁寧に説明してくれニャ……
ニャるほど。
ここにいる妖怪全員が妖怪連合を抜けたというわけかニャ。
それを素直に伝えてくれれば、うちが派遣されるような事もなかったはずなのニャ。
「そうだったのニャ」
まさか総大将の地位にいるぬらりひょんまで辞めるだなんて、思ってもみなかったニャ。
でも、そう言われれば、実体のない組織ニャ。
妖怪連合も集まっても特に何もしない組織ニャ。
「ちゃんと妖怪連合に伝えてくれよ。次から次へと妖怪が来て迷惑してるんだ」
カズミという名の人間の雌が私にそう言ってきたニャ。
この人間、どんな胆力しているんだニャ。
これだけの妖怪に囲まれてなんで平気な顔しているんだニャ。
おかしいニャ。
「わ、分かったニャ。ちゃんと伝えるニャ。西瓜侍は名誉の戦死ニャ。スネコスリは獣落ちさせられたとちゃんと伝えるニャ」
タカ派の西瓜侍は仕方がないニャ。
あいつは腐っても侍ニャ。戦いで死ねたなら本望のはずニャ。
スネコスリは元々よくわからない脚大好き妖怪なので、獣落ちしても問題ないニャ。
でも、これも仕事だからちゃんと伝えるニャ。
そして、猫缶はうちのものニャ!
「その二つは伝えないでくれない?」
カズミにそう言われて考えたけど、だめニャ!
猫缶のほうが大事ニャ。
「だめニャ! ちゃんと全部伝えるニャ!」
しっかりと言ってやるニャ。
うちはできる猫ニャ。
「そんなことしたら、また妖怪が来るだろ」
と、カズミはめんどくさそうな顔をするニャ。
「事実ニャ!」
そうなっても自業自得ニャ。
「誰か来たとてたかが知れていると思うがな」
そこへぬらりひょんがそんなことを言うニャ。
まあ、妖怪連合の妖怪が来ても確かにその通りだと思うニャ。
そもそも、独りでやっていける奴は今でも群れてないニャ。
「けど、面倒だろ? 私はこう見えて療養中なんだ!」
「むっ? なにか病気を患ってんのニャ?」
カズミは病気なのかニャ?
そうは見えないニャ。
「いや、死相が出てたらしいのよ」
確かに死相は見えるけど、それは人間にとっては普通ニャ。
「ふむ。確かにうっすらとだが見えてはいるぞ」
ぬらりひょんがカズミの顔をじっくりと見ながら言うニャ。
「そ、そうなのか? この死相が消えるまでのんびり過ごさないとな」
「まあ、人間の死相が消えることはないがな」
それをあざ笑うかのようにぬらりひょんはそういうニャ。
そうニャ。人間から死相が消えるなんて、人魚を食べた時くらいだニャ。
「え? そうなの?」
「濃いか薄いかの違いじゃ。人間はいずれ死ぬものじゃからな」
ぬらりひょんが説明してくれてるニャ。
人間はそんなことも知らないのニャ?
馬鹿な奴だニャ。
「トウフ? だましてたな?」
そう言ってカズミがトウフを睨みつけるニャ。
「いえ、ボクとあった時はかなり濃かったですよ」
けど、トウフは慌てることなく弁明するニャ。
まあ、確かに薄いとはいえ、他の人間と比べると濃くはあるニャ?
でも気のせいの気もするニャ?
「それは私でもそう感じてたけど、死相が消えない云々の話は?」
カズミに問い詰められ始めて、少しだけトウフが慌てだすニャ。
豆腐小僧は昔から、どこか抜けているから仕方がないニャ。
「死相があるかどうかしか聞かれてなかったので…… それにあんまり詳しくはボクも知らないですよ!」
トウフの奴はそう言ってるニャ。
まあ、嘘を吐く奴じゃないニャ。
「そ、そうか……」
と、カズミも納得しているニャ。
全部うまくいったニャ。さすがうちニャ!




