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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:5 一つだけじゃない
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29/33

5-3

「スキル【風魔の螺旋帯(エアル・リボン)LvⅤ】、【風魔の咆哮(エアル・ロア)LvⅢ】、同時発動!」


 容赦などなかった。

 螺旋に回転する風の帯に衝撃波を当て、穿孔機のような風を射出。

 それはルカの腹を穿った魔法と同じものだったが、キリエの体の何倍もの大きさで発動した。躱すことなど不可能。

 だが、


「……それが答えか。挑発的なことを言っておいてなんだが、残念だよ」


 山の影より現れた巨大な黒い手が、風のドリルを受け止めた。

 轟々と大気を掻き混ぜながら姿を現すのは、赤く輝くカメラのような六つの目に、金属の六つの翼を持つ、機械の悪魔――


「【聖天使】、つまり【管理者】を三人分も宿す君は、おそらくは無制限に魔法が使えるはずだ。でもね、それを理解した上で私は余裕をもって立っているんだよ。なぜなら、『タリスマン』を手に入れた私は君たち新人類の頂点に立つからだ」


 キリエは『タリスマン』を口元に寄せ、殺意と憎悪が漲る眼差しを向けてくる。

「我々人間の科学力ってものを見せてやろう! 指令【|自立思考型目標殲滅兵器じりつしこうがたせんめつへいき――ルシファー、ベルフェゴール、アスモデウス】、形成!!」


 古代の呪文が紡がれた途端、周囲の『環境開発マシン』が視認できるほどの密度で集まり、黒い風となってキリエの背後に集まっていく。

 黒い風はやがて塊となっていき、複雑な機構を作り出して組み合わさっていくと、三体の巨人となった。


 一体は、つるりとした真っ白な金属板に覆われ、変身したママのように純白の翼を羽ばたかせている。

 一体は、無数の砲塔が取りつけられた椅子のようのものに座り、望遠鏡のように突き出した目を動かして私に狙い定めていた。

 一体は、無数の機械人形が組み合わさり、腕や胴、顔を形成する集合体である。人形たちが、骸骨の巨人を形作っていた。


「私に従わないのなら、我が子であるその体を私に返さないと言うのなら、全てを奪ったブルーノと同じ悪魔でしかない! 塵一つ残さず消し去り、『ミコナ』というくびきから我が子を解き放つまでだッ!!」


 キリエの怒号のような声が響くのと同時に、三体の機械仕掛けの悪魔が動き出す。

 六翼六眼(ろくよくろくがん)の悪魔が右腕を漆黒の剣へと変貌させると、私目がけて振り下ろしてきた。

 風の翼を生み出し飛び上がって躱すが、剣を振り下ろした時の衝撃破で錐もみ状態に吹き飛ばされてしまう。

 そこへ飛来するのは、椅子に座るかのような悪魔が放った鋼鉄の槍(ミサイル)――


「ぐぅぅぅぅぅううっ!!」


 背中より風を噴出させ軌道修正。鋼鉄の槍は風の翼の噴出による暴風に煽られ、バランスを崩してぶつかりあい次々に爆発する。

 熱から顔を守るための腕を下ろし、どうにか体勢を整えることに成功。

 が、目の前には無数の機械人形が形作る骸骨の巨人が浮いていた。


 はっとした瞬間、骸骨の巨人は弾けるように分離――構成する機械人形たちが腕を広げてとびかかってくる。

 稲妻のように移動して避けようとするが、数が多過ぎた。

 包囲網を抜ける寸前、肘や足裏から炎を噴き出して飛んできた三体の機械人形に絡みつかれ、身動きを封じられてしまう。


 それを待っていたかのように動き出したのは、純白の翼が生えている無貌の巨人。

 そいつが翼と両腕を広げた途端、その真っ白でつるりとした体がより白く輝き出す。まるで夜明けの陽射しのように優しく穏やかな色合いだが、その熱量はまるで炎の中にいるかのようだ。肌がちりちりと焼けるような痛みを放ち始めている。


「これ以上好き勝手やらせるかッ!! さあ、やるよッ!! 準備はいいッ!?」


 私が叫ぶと、内なる黒助ドラゴンが私の意識の中でその目を輝かせた。


「――ようやくだ……ようやくお前の本気が発揮される時が来たようだな! ク、ハハハハハハ! 手加減無用の、全力で良いのだな!?」

「そうだよ、全力全開だ!! 一切の手加減なしで、キリエをぶっ飛ばす!!」

「――その言葉を一体どれほど待っていたことか……よかろう、お前の願い通り、加減なしに力を送ってやる! 変更はもう受けつけられない! 覚悟を決めるのだ、ミコナ!!」


 黒助ドラゴンが艶やかな漆黒の鱗を輝かせ、翼を広げる。

 瞬間、私の見えている視界の端っこから脳の裏側に向けて景色が『拡張』された。

 正面は現実世界。視界の端から裏は、【聖天使】を体に組み込まれたことで常時接続されることとなった『アナザーアース』の夜明けの空が広がっている。


 黒助ドラゴンは『アナザーアース』を構成するプログラムに割って入り、日本上空に自身のホログラムを浮かび上がらせると、翼膜に回路模様を浮かび上がらせた。

 すると黒助ドラゴンの目の前に、全国の空港の航空チケット購入画面が表示される。


「――では、ゆくぞ! 世界に満ち、この世全てを司る力を受け取るがいい!」


 黒助ドラゴンはその大仰な物言いや巨大な力を秘めていそうな禍々しい見た目とは裏腹に、ちまちまと目の前の購入画面を爪でタッチして航空チケットを買い始めた。

 地味な作業。

 しかし、それこそが私の能力の真髄。


「――ミコナ、まずは拘束を解き退避しろ! さあ、このサンダルフォンの力を存分に使うのだ!」


【・RHD航空 東京発 ブラジル行き(HN空港発 → FRA国際空港、乗換① → GRU国際空港、乗換② → GIG国際空港)

 ・リアルタイムフライトモード、就航時間外のためキャンセル ・ファストトラベルオプション、自動設定

『価格』エコノミー席 ¥240,150 


 ・UND航空 東京発 ペルー行き(HN空港発 → FRA国際空港、乗換① → MIA国際空港、乗換② → HR・LIM国際空港)

 ・リアルタイムフライトモード、就航時間外のためキャンセル ・ファストトラベルオプション、自動設定

『価格』エコノミー席 ¥165,700


 ・AMC航空 東京発 アルゼンチン行き(NR空港 → DRS・FW国際空港、乗換 

 → EZE国際空港)

 ・リアルタイムフライトモード、就航時間外のためキャンセル ・ファストトラベルオプション、自動設定

『価格』エコノミー席 ¥240,150 


 その他、サンダルフォンが司る南米の各地行きのチケットを、各航空会社より購入……


『総  額』¥10,560,950

『購入確定』¥99,003,000 - ¥10,560,950

『残  額』¥88,442,050】


 支払いが住むと、『アナザーアース』内で日本と南米の間に目に見えないラインが空を介して繋がれる。

 そのラインよりどっと押し寄せてくるのは、サンダルフォンの『加護』――『環境開発マシン』に電気系統の化学反応を起こさせる『信号』である。


「ス、キル……【雷神の爆鎖トール・チェーンLvⅩ】、発動……ッ!!」


 私の体に絡みつき、肉体を削ぎ落そうするかのように爪を立ててくる機械人形の一体に電撃を食らわす。爆ぜたそいつの体より蛇のようにのたうちまわる電撃が現れ、次の一体へと襲いかかり、破壊すると別の一体へと向かって行く。機械人形たちはあっという間に雷のドラゴンに食い尽くされ、消し炭となった。


 解放された私は即座に雲の上へと飛び上がる。

 次の瞬間、純白の巨人より、体の形そのままの極太光線が放たれた。

 かすった右腕から、ジュッ!! と音が鳴る。表面の皮膚が焦げ、噴き出した血液が一瞬にして蒸発するほどの熱量だった。


 激痛も構わず、即座に【治癒魔法】で腕を再生。剥がれ落ちた黒焦げの皮膚の下からまっさらな肌が現れる。

 その間にも黒助ドラゴンは次なる力を私へと送るため、航空チケット買い漁っていた。


【・TK航空 東京発 ウズベキスタン行き(HN空港発 → ISB国際空港、乗換 → 

 TSK国際空港)

 ・リアルタイムフライトモード、就航時間外のためキャンセル ・ファストトラベルオプション、自動設定

『価格』エコノミー席 ¥251,510 


 ・GAR航空 東京発 インドネシア行き(HN空港発 → SNT国際空港)

 ・リアルタイムフライトモード、就航時間外のためキャンセル ・ファストトラベルオプション、自動設定

『価格』プレミアムエコノミー席 ¥442,680(エコノミー席完売)


 その他、ミカエルが司る中央、東南アジア行きのチケットを、各航空会社より購入……


『総  額』¥7,820,500

『購入確定』¥88,442,050 - ¥7,820,500 

『残  額』¥80,621,550】


「燃え、尽き、ろォォォォォオッ!!!!」


 手の中に火球を生み出し、頭上へと掲げて巨大化させる。

 【炎鬼の裁き(フレム・メテオ)LvⅩⅤ】――灼熱の球体を頭上より降らせる魔法を、思い切り純白の巨人に投げつけた。純白の巨人は超巨大な火球を両腕で受け止めようとするが、あっという間に全身が飲み込まれ、熱量によってドロドロに溶けていく。


 そんな巨人の影より飛び出してきたのは、『アナザーアース』内の資料で見たことのある『戦闘機』によく似た、長い尾をしならせる鋼鉄の大蛇だった。

 先端の口が開かれ、突き出されるのは回転する砲塔(ガトリング)――急旋回する私目がけて、ダダダダダ!! と連続して銃弾が放たれる。


「はっはっは! どうだい、この【自立思考型殲滅兵器】の破壊力は! あまりにもおぞましく強大な力だろう?」


 驚くほどはっきりとキリエの声が聞こえた。旋回しながら背後の大蛇に視線を向けると、大蛇の頭にドーム状のガラスがあり、その中にハンドルを握っているキリエの姿があった。


「この過ぎた力は地球寒冷化と同等の脅威だった。だから『環境開発マシン』を開発したエイデン・サンダースは『タリスマン』とコントロール技術を封印しようとしたのに、それを止めたのはやはりブルーノ・ディークマイヤーなんだよ。

 ……クク、はっはっはっは! あいつはテラフォーミング後の地球で覇権を取ろうとしていたようだが、その強欲がゆえに『タリスマン』を奪われ、四十四のパーツに分解されて殺されたんだ! そして自身を崇める者と文明を失うことになった! 愚かにもほどがあるよなぁ!? これ以上の間抜けはっぷりは存在しないよなぁ!? なあ、ブルーノの分身よ! これぞまさに天罰ってやつだと思わないか!?」


 彼女が話している間にも攻撃は続いていた。銃弾の嵐と追尾してくる鋼鉄の槍、六翼六眼の悪魔の巨大な剣を避ける。視界は滅茶苦茶、反撃する余裕などない。


「くぅ、ゥゥゥゥウウウッ!! 黒助、次の力を早くッ!!」


 私が言うよりも早く、黒助ドラゴンは別の【聖天使】が管理するエリアを繋いでいた。


【ガブリエルが司るヨーロッパ諸国行きの航空チケットを、各航空会社より購入……

 『総  額』¥15,670、500

 『残  額』¥64,951,050】


 発動するのは、スキル【氷精の姿見(フリズ・シールド)LvⅤ】――宙に二十枚ほど展開した氷の鏡で銃弾を弾き返し、追尾する鋼鉄の槍に浴びせて撃ち落とす。


「黒助、次ッ!!」


【ウリエルが司るロシア各所行きの航空チケットを、各航空会社より購入……

 『総  額』¥8,205、000

 『残  額』¥56,746,050】


 発動するのは、周囲の『環境開発マシン』を大量に使用する、【地霊(タイタス)】系魔法の最高峰――


「スキル【召喚(サモン)】!! 顕現せよ、【ウリエル・アバター】!!」


 空に向かって放った閃光は、弾けて流星となり地上へと降り注いだ。

 地鳴りは空気を揺らし、遥か上空にいる私が肌で感じられるほどに強まっていく。

 揺れの激しさが眩暈となるほどに達した、その瞬間――大地が割れ、噴き出す溶岩とともに赤熱するドラゴンが現れた。


 ママは白鳥へと化身するが、【聖天使】ウリエルはドラゴンの姿を取る。【ウリエル・アバター】はその姿を模倣したものだ。肉体は巨岩の寄せ集めだが、キリエが作り出した悪魔と同じ、自動的に攻撃してくれる魔法兵器である。


 【ウリエル・アバター】は六翼六眼の悪魔に組みつくと、高高度に浮かんでいる私の下へ飛び上がった。そこでブンブンと悪魔を振り回し、地上へと投げ飛ばすと、


「グルゥォォォォォォオオオッッ!!!!」


 咆哮を上げて、その赤熱する肉体より溶岩の雨をまき散らす。溶岩は落下によって冷え固まり、鉄の槍となって悪魔たちに降り注いだ。


「く、おお……!! ま、まさかお前たちも自動兵器を開発していたというのか!? ちっ、相手にするととんでもない力だが……その程度で私は倒せないぞ、ミコナァッ!!」


 鉄の雨を避け切ったキリエは、大蛇の中で呪文を唱える。


「指令【自立思考型目標殲滅兵器――マモン、ベルゼブブ】、形成!!」 


 キーワードに反応し、『環境開発マシン』が黒い風となって寄せ集まる。

 ものの数秒で作り上げたのは、巨大なハエのような化け物。

 口には無数の金属の回転刃が取りつけられており、拘束回転させて吸引を始めた。

 私は逆方向に全身全霊で逃げようとするが、徐々に引き込まれていく。


「ま、ずい……!! 【ウリエル・アバター】、あの口を塞いでっ!!」


 私の命令通り、【ウリエル・アバター】はその巨体でハエの口を覆い隠す。

 狙い通り吸引を防ぐことに成功したように見えたのだが……巨大なハエの頭より飛び出して来た毛深い猿のよう魔物が、【ウリエル・アバター】の頭に取りついた。

 そいつは【ウリエル・アバター】の体を鋭い爪で掘り起こすように傷つけていく。【ウリエル・アバター】の肉体は削り落とされ、どんどんハエに吸い込まれていく。


 やがて形を保てなくなり、関節から砕けてハエの口へと全てが飲み込まれてしまった。

 がりがりと削られ、細かく砕かれ――

 そして、弾丸のように吐き出される。


「っ!? くっ、ぁ、ぐぁあ、アアアアアアアアアアアアアっ!?!!」


 つぶては面となって襲い掛かってくる。

 盾にした氷の鏡は砕け、氷塊となってつぶてとともに襲ってきた。

 体のあちこちが青黒く腫れ、氷塊の鋭い角によって肌は裂かれる。

 全身に激痛が走る。体は最早『痛みの塊』だった。

 視界は鮮血に包まれ、世界が真っ赤に染められたかのよう。

 ふっと体から力が抜け、意識が遠ざかった。

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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