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「やあ、みんな! 忙しい中お集まりいただき、感謝の至りというやつだ! もう聞いていると思うが、私はこれより旅に出る! 別れの挨拶と、そして旅に出る理由を聞いてもらいたい!」
ママの玉座の上だというのに、不遜にも白衣のポケットに手を突っ込んだまま話を続ける。まったくキリエは……と呆れながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。
「大昔……私たち人間の時代、太陽が死に瀕したことで氷河期が訪れた。新たな太陽を人工的に生み出し宇宙に浮かべたのだが、燃焼機関に異常が発生してしまったらしくてな。十分な光と暖かさを発した頃には、人間は消え去り亜人たちの時代になっていた」
どうして急に旅に出るなんて、もっともっと知恵を授けてもらいたいのに、とざわついていた神殿内が物語に聞き入るように静まり返る。
「人間たちは生き残るために様々な計画を打ち立てた。亜人誕生のきっかけとなる『亜人テラフォーミング計画』は、この時、私が生み出したのさ。しかし……ある男がそれを潰してしまった。その男の名は、ブルーノ・ディークマイアー。大賢者とされる男だ」
キリエは一度天井を見上げた。
気持ちを落ち着けるように深呼吸し、神殿内に自身の吐息を響かせる。
それから顔を下ろすと、再び語り始めた。
「私の計画は、承認欲求の化身であるブルーノによって乗っ取られてしまったんだよ。自身のロボットによるテラフォーミング計画が増産工場が動かなくなったことで破綻し、それでも人々から崇められたかったあの男は、一度潰した私の計画を我が物としたんだ。私の命を狙い、私の子たちを虐殺して、私から全てを奪っていったんだ」
くっく、と肩を震わせ、引きつるように笑うキリエ。
言葉と態度の矛盾が不気味なのだろう。神殿内のざわつきが別の意味に変わる。ルカもリリンもライアも、不審そうに彼女を見上げていた。
「そして……そしてだ。更にその先があったんだよ。あの男はやりやがった……私の亜人設計図に手を加えてやがったんだ。言っている意味は分かるかい? てっきりこの世界は私が望んだ世界だと思ったのに、そうではなかった……君たちは、お前たちは! 私の子じゃなかったってことだ! お前らは、あのブルーノの子だったんだよ!」
かっと見開かれる目。
その表情には、ありありと怒りと憎悪が浮かんでいる。
何だ、何か嫌な予感がする……私は三人に身構えるように言おうとするが――
「だから決めたんだ! 約千年前、『破滅信仰者』たちを操り、私から全てを奪ったブルーノや、ブルーノの計画に賛同した人間どもを抹殺したように、ブルーノの子であるお前たちも消し去るとね!」
怒声を上げてポケットから引き抜いたキリエの右手には、『タリマスン』が握られていた。
私は驚愕し、はっとなってポケットに手を当てる。
だが、そこに固いものがあった。『タリスマン』はそこに入っていたのだ。
あれ!? と再度驚き、私は思わずポケットを見下ろしてしまう。
見下ろすために、キリエから視線を外してしまった。
「指令コマンド【局所集中型削岩砲きょくしょしゅうちゅうがたさくがんほう三号】、起動ッ!!」
バケツの中で叫んだかのようにくぐもっており、三重になって聞こえてくるキリエの声。
突然、ぐいっと肩を引かれた。
背後へと倒れる私の前に、ルカが飛び出すのが見えた。
「――――え?」
ルカの背中、その中心から、薄緑色に輝く風の槍が突き出してきた。
倒れ込んでくるルカ。私は尻もち状態で受け止める。
ルカは目を見開き、苦しそうに喘ぎながら腹に手を当てた。
「だ、大丈夫、【治癒】の魔法がありますから――ぁ、ごふっ……!!」
ルカはその口から真っ赤な液体を吐き出した。
腹に穴が開いていた。大きな穴が。血液が、大量に噴き出している。
ルカは何度も口をぱくぱくとさせるが、意識を失って倒れかかってきた。
「ミコナっ!! 私とともに!!」
駆けつけたママの張り裂けんばかりの声によって我に返る。
私は震えていた体を強引に動かし、横たえたルカの体に両手を当てた。
「スキル【治癒魔法ヒールマギア――蘇生リライブLvⅤ】、発動!!」
「スキル【治癒魔法ヒールマギア――蘇生リライブLvⅤ】、発動!!」
ママとともに唱えるのは、最上級治癒魔法。
私とママの両手がルカの体と同化し、肉と血を送り込むことで傷を修復していく。
大丈夫まだ間に合う。私とママの二人分の治癒スピードならば、ルカが死ぬことはない。
だが、体と体が繋がっている以上、動くことができない……!
「ちっ、邪魔が入ったか……! ならば、ここで埋もれて死ねッ!! 指令【散弾式爆裂破五号】、起動ッ!!」
『指令』というワードによる魔法の起動……人間の時代に存在した、古代の呪文。
キリエはまるで、大魔導士のように巨大な火球を頭上に生み出す。
それはゆらりと揺れた途端、小さな火球に分裂し、四方八方に撒き散らされる。
駄目だ、躱せない――そう思った時だった。
「んなろぉぉおおおおおおおおっ!!」
「ぬ、ぁ、ぁああああああああっ!!」
ライアとリリン、そしてリリンの分身たちが、私たちを守るように飛び出した。
ライアは剣を振るい、リリンと分身たちは懸命に火球を払おうとするが、
「あ、あぁ……!! 逃げて、二人とも逃げてぇーっ!!」
火球は、一つ一つが爆弾だった。
二人に触れた途端、激しく炸裂する。
鎧が砕け、逃げ惑う亜人たちの向こう側へと吹き飛ばれてしまうライア。
リリンの分身たちは為す術もなく、一人、また一人と爆発に飲まれ、
「ミコナちゃんっ!!」
一人は私の目の前で砕け、粉みじんになって消滅してしまった。
「ぁ……ぁあ……みんな……あぁぁあ、みんなぁぁ……!!」
火球の嵐は止んだが、破壊し尽くされた神殿が崩壊を始める。
ママの体がカッと輝き、その体を巨大な白鳥へと変化させると、翼を広げて天井を抑え込んだ。しかし完全には崩落を止められず、次々と瓦礫が落ちて来る。
「殺し損ねたか……くそっ、未練があるということか……?」
舞い上がる砂埃の向こう側からキリエの声が聞こえてくる。
まだ、そこにいるのだ。
「ミコナ、富士山の頂上へ来い。私はそこで待っている。その時……私たちの未来を改めて決めようじゃないか」
ルカの治療が完璧に終わるのと同時に、私は駆け出した。
「待てキリエっ!! どうして!? あんなに楽しそうにみんなとお話していたのに、何でこんなことを!?」
その理由はすでに語られていた。
だが、私は問わずにはいられなかった。数分前まであんなに満たされた心地だったのに、こんなことになって……目の前で起こったことを受け止められずにいた。
落ちてくる瓦礫を【風魔】魔法で弾き飛ばし、声が聞こえた場所に飛び出す。
だが、そこにあるのは悪意の残滓だけ。
憎悪の化身の姿は、もうそこにはなかった。




