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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:4 『好き』という感情の証明
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4-7

 話を通していたというのは本当だったようで、キリエを神殿に連れ戻すついでにママに確認したところ、「ええ、キリエさんの旅は私が許可を出したわ」と頷いてみせた。


「実際、古代人が亜人の抹殺を企てていて、それを阻止してくれたのは事実ですからね。他の【聖天使】たちと相談して、ひとまずこの大陸を一回りしてもらうことになったの。でももう旅に出る挨拶をしたいだなんて……出発は護衛の選別が終わってからですよ?」

「その選別も人が集まらなければやりようがないだろう? だから募集を兼ねて一度私の目的をみんなに聞いてもらいたいのさ」


 しつこいぐらいに「頼むよ。できるだけたくさん集めてくれ」とキリエにお願いされ、私は「はいはい分かりましたよ」と適当に返事をして神殿を出た。面倒な気持ちが少なからずあったが……まあがっぽり稼がせてもらったわけだし、恩に報いるつもりで叶えてあげよう。

 といっても自分の足では限界があるので、私は真っ直ぐ役場へと向かう。『神様』の頼みだと伝えたら、町内伝達係は街の人たちを神殿に集まるよう伝えるために飛び立った。

 これで仕事は終わり。キリエの最後の頼みは見事叶えてあげたわけだ。


「これで最後……か」


 彼女はそう言ったが、果たしてそうなるのだろうか? 


「旅……旅かぁ……」


 私は考えてみる。自分の未来にその選択肢はアリなのだろうか、と。

 ……ありえる選択肢だ、と私は思った。


 ターナが『アナザーアース』で生き返り、ママの【紫紺の呪縛】が解けた時……私は家を出るべきだと思う。何せ私はターナの代わりで、ターナが生き返ってママの呪縛が解けてしまえば、私はあの家庭で異物でしかない。二人の幸せな生活の邪魔になる。


 でも私はどこへ行けばいい? 仲間の三人に頼る? 三人とパーティを組み続ける理由はなくなるのに? 足でまといになるかもしれないのに? 分からない。分からない……。

 分からないからこそ、キリエとともに行く選択肢はアリだ。やりたいこともないが、逆に旅に出たくないということでもない。正直、ターナを生き返らせたあとの自分の人生など、どうでもいいのだ。


 ……そう思っていたはずなのだけど、何だろう。胸の奥がもやもやする。

 役場を出た私は、ぼんやりと空を眺めて歩き続けた。

 ルカとリリン、ライアは、私がキリエについて行くと言ったらどう思うだろう。

 夢を叶える手伝いをしてくれると言ってくれたが、叶った後はどうするつもりだったのだろう? 魔法の力を大幅に失う私の代わりを探すのか……それともまだ、私とともにいる未来を想像しているのだろうか……?


「――――い! ミコナさぁん、ねえミコナさんってば! ばっちり目が合ってるのに聞こえてないなんてことないですよねぇ!?」

「…………ん? あれ、ルカ?」


 気づくと、見上げている空に悠然と羽ばたく有翼種が一人。

 目の前に下りてきたルカは、「ええ? 今気づいたんですか?」と信じられないといった様子で眉をひそめた。


「あれ、手ぶらみたいですけど本探しはどうなったんですか? 一緒だったライアは?」

「効率重視で二手に分かれたんです。でもまあ、ミコナさんの蔵書以上のものを見つけようなんて無理ですし、きっと同じように伝達係の案内を聞いて投げ出したと思いますよ」

「すみません、呼び戻す暇がなかったもので……私も突然人を集めてくれって頼まれて、こうして役場までお使いに来てたんです」

「んん、こうして? ここ、商店街ですよ?」


 ルカにそう言われてようやく景色ががらりと変わっていることに気づく。役場近くにいるつもりだったが、そこは二区画も離れたところにある商店街の交差点の中心だった。時間感覚が狂うほど考えることに没頭していたらしい。


「お、いたいた! やっぱりさっき見かけた有翼種はルカだったのね! でもまさかミコナまで一緒にいるなんて、あんたどうしてこんなとこにいんのよ?」

「ちょうど良かった! もしかしたらミコナ先輩には伝達係の声が届かないんじゃないかと思って、ルカさんと合流したら先輩の自宅に戻ろうかって話してたんです」


 数十分ぶりにいつもの四人が揃った。

 いつもの……そう、いつもの四人だ。ママと比べると出会ったばかりと言えるぐらいの期間しか一緒にいないのに、不思議とそう思った。


「キリエさんがお別れの挨拶をすると聞いて来たわけですが、あまりにも突然ですよね」

「遺跡からずっと様子が変だったけど……旅が早まったのはそのせいかしら?」

「それを訊ねるためにも神殿へ向かいましょうよ。挨拶とやらで聞けるかもしれませんし」


 前を行く三人の会話が聞こえてくる。

 ……その旅に私も同行しようか迷っていると打ち明けてみようか。

 そう思うのだが、なぜか喉が詰まる。どうして声が出ない? 良い機会なのだから、三人はこの後パーティをどうしたいのか聞いてみればいいじゃないか。でも、何だか胸の奥がきゅっと締めつけられてしまう。 何だこれ、一体どういう感情なんだ?


「おぉう……夕飯前だから効くわね、アレ」

「あれれ? 店先に出してるあの機械、ソフトクリームサーバーじゃないですか!?」


 リリンとライアの視線の先には『ゴルゴッソ亭』があり、店先に移動販売車のつもりであろう荷台が出されていた。そこに人だかりができており、機械から絞り出したソフトクリームをコーンに乗せて販売している。


「マスターったら、あんなものまで作ってたんですねぇ。まだちょっと時間ありますし、みんなで食べて行き――って、五十ドル!? ひゃぁぁ……服とメガネを新調したワタシにはキツい値段だなぁ……」

「かぁぁ! 『ゴルゴッソ亭』のマスター、マジでアコギなことするわね! 確かに他の店では食べられないけどさぁ、だからってあんな金額にするぅ?」

「まあ、牛乳を作ってるウリエル領からここまで運ぶまでが大変ですから、仕方ないところもあるんじゃないですか? でも五十ドルかぁ……ライアもちょっと厳しいなぁ。口は完全にソフトクリームを求めてるんですけどねぇ……」


 がっくりと肩を落とす三人。リリンはんぎゅるるるぐるぉぅぉぅと腹の音を鳴らした。

 その時、ふと私の脳裏にキリエの言葉が蘇った。『好き』を確かめるための『奢る』という手法の解説だ。

 キリエに従うわけではないが、何だか言葉が出てこないし、自分が三人をどう思っているのか知るためにも試してみようか。


「みなさん、ここは私が奢りますよ」


 さりげなく簡潔に伝える。

 振り返った三人は、ぱちくりと瞬いた後、ぎょっとした顔になった。


「ええ!? あのぼったくりソフトクリームをですか!?」

「あんたマジで言ってんの? 五十ドルよ、五十ドル! 四人で二百ドルよ?」

「気持ちは嬉しいですけど、いきなりどうしたんですか? ミコナ先輩からそんな申し出があるなんて驚きですよ」

「その……パーティを組んでくれたこととか、巨塔でのみんなの言葉へのお返しというか……色々とそうしたい理由があるんです。カードを求めて色んなクエストに参加してたおかげで現実のお金は大分余裕がありますので、遠慮なく受け取ってください」


 私はそう言いながら、「いや、『好き』かどうか調べる実験じゃなかったの?」と内心で自身に突っ込みを入れる。言葉が出ないと思ったら目的と違う言葉が出てきたり、さっきからどうにも調子がおかしい……。

 奇妙に思いながら移動販売車に向かう。店員に何人分か聞かれて、四人分だと答えようとするが、


「七個! 七個でお願いしまぁす!」


 とリリンが割り込んでくる。その彼女の横には三人の分身がいた。


「……何で分身してるんですか? 分身が食べる意味ないでしょ?」

「分身が得た感覚は、分身を解いた時に本体へフィードバックされるのよ。ということで、分身三人が食べれば本体と合わせて四人分の満足感になるってわけ」


 それを聞いたルカとライアが、「なっ、それはズルですよ! ズル!」「図々しいですよ、リリン先輩! ほんと最低だぁ!」と抗議の声を上げた。「じょ、冗談よ、冗談! ちょっと驚かせてやろうとしただけじゃないのよぉ」とリリンは誤魔化すが、彼女のことだから半分ぐらいは本気だったに違いない。


「すみません店員さん、今のはナシで、四人分でお願いします」

「え……ごめんなさい、もうすでに七人分用意しちゃったんだけどぉ……」


 垂れ耳が可愛いウサギ科獣人族の店員さんは、器用にも七つ分を指に挟んで待ち構えていた。


「あーあ、リリンさんやっちゃったぁ」

「もうキャンセルはできませんね。分身の分はリリン先輩自身で払うんですよ?」

「げぇぇ! 百五十ドルはマジでキツい! ちょっと待って、今手持ちあるかしら……」

「……いいです、ここは全部私が持ちますよ。リリン(泣)には救われましたしね」

「えっ、ほんと!? やったラッキー、ゴチになりまぁす! んほほほほ!」

「でもいつか、ルカとライアには同じ分だけ奢ってあげるんですよ? じゃないと平等じゃないですからね」

「オッケー、オッケー! じゃ、さっそくいただきま……ん? 二人に同じだけ奢る?」


 その金額にリリンが青ざめている中、ルカとライアの二人と、本体同様に固まっている分身たちを無視してリリン(泣)にソフトクリームを渡す。


「ありがとう、ミコナちゃん! ごめんね、本体が馬鹿やっちゃって」

「いいんです、あなたにはラヴァ・ボア戦では救われましたしね。あなたの分はプレゼントだと思ってください」

「わぁい、ありがとう! ん……んん……んー! 美味しいっ! ミコナちゃん、これすごく美味しいよぉ!」


 くったくない(泣)の笑顔。それを見た私とルカとライアは顔を見合わせた。


「本体もこれぐらい素直だったらいいんですけどね」

「ワタシも同意見です」

「そうだ! この子をリリン先輩本体ってことにしません? ねー、これからライアたちと一緒にパーティ組みましょうねー!」

「あんたら、ここに本体がいるってのに、よくそんな酷いこと言えるわね……デリカシーってもんはないの?」

「私にソフトクリームを四つも奢らせようとしたあなたが言いますか?」

「うっ……ワー、ホントウにオイシソウなソフトクリーム。イタダキマース」


 リリンは露骨に誤魔化すと白いクリームにかぶりつく。

 すると目を見開き、「うんまぁ!」と大げさに声を張り上げた。


「これは想像以上ね! ほら、あんたらも食べてみなさいよ! すごく美味しいわよ!」


 そりゃソフトクリームが美味しくないわけないだろう。そう思いながら、私はルカとライアと一緒に舐めてみる。


「わわ、ほんとに美味しいですね! この味、『アナザーアース』の高級スイーツ店のもののように濃厚で味わい深いです! まさか現実で味わえるなんて!」

「これ、ホルスタインの牛乳の味わいですよ! 王宮にいたときに何度か飲んだことがあるので、間違いありません!」


 ルカとライアが感嘆な声を漏らす。そして私もその濃厚な味わいに胸を打たれ、


「ぬふぅぅぅ……これは、なかなか!」


 と思わず声を漏らした。

 そんな様子を見ていた三人は、


「あっはっは! これはまたしみじみとした声でしたねぇ!」

「あたしのことをどうこう言う前に、あんたもそうやって可愛らしくしてなさいよ」

「いやぁ、ミコナ先輩の幸福顔は何度見ても飽きませんねぇ。あぁ、頭なでなでしたいなぁ」


 と、可笑しそうに言いあった。

 私はからかわれたことにむっとし、一言言ってやろうと視線を上げる。


「…………あ」


 そこには、三人の笑顔があった。

 みんな同じものを食べ、同じように幸福を味わい、笑い合っている。

 胸の奥が、ぽっと暖かくなった。

 それはとても心地良い感覚で、私の中にあったもやもやとしたものは吹き飛び、その奥に隠されていた気持ちが露わになった。


「あの……私はこれからもみんなとパーティでいていいですか? 『円』を使い果たしたら今までのようには力になれませんけど……それでも私は、みんなと仲間でいたいです」


 それを聞いた三人と分身たちは、ソフトクリームを舐めるのを止めて不思議そうな顔を向けてきた。


「それはもちろん構いません、というか、ワタシたちはそのつもりでしたけど……あ、もしかして将来の話の答えだったりします?」

「あんたまさかパーティから抜けること考えてたんじゃないでしょうねぇ? 『円』の次は何を目指してクエスト行くかっていう質問でしょうが」

「能力の有無とかどうでもいいですよ。この四人で何か楽しいことができればいいじゃないですか。この四人だからこそのパーティでしょう」


 きっとそう言ってくれるだろうと予想はしていた。

 でも、その言葉をはっきりと聞いて安堵する私がいる。

 私は、はっきりと、明確に、まごうことなく、三人のことが『好き』なのだ。

 この胸の暖かさ……きっと他の人の笑顔を見たところで得られはしない。私を『好き』だと言ってくれて、私の秘密や目的を知ってなお『仲間』だと受け入れてくれた三人だから、一緒にいたいと思っている。


 そう……分からないと言っておいて、胸の奥にはしっかりと『やりたいこと』があったのだ。

 だからきっと、私は拒絶されることを恐れていた。さきほど言葉が出てこなくなってしまったのも、そういうことだったのだろう。


「そろそろ時間ですね。食べながら向かうとしましょうか」


 ルカの言葉に従い、私たちはソフトクリームを舐めてうまうま言いながら歩き始めた。

 茜色に染まる空を眺める今の私は、とても満たされている。友だちが横にいて、美味しいという感情を共有している。何かが足りないわけでもなく、私にもちゃんと人並みに欲があった。みんなと一緒にいたいと思えることが、たまらなく嬉しい。


 私はここにいたい。みんなと一緒にいたい。家を出ていくつもりだったけど、できればママと一緒に暮らしたい。どんどんしたいことが溢れてくる。未来が開けていく。


 だから、キリエにはお別れを言わなければならない。

 ついでに、感謝もしておこう。こうやって自分の本当の気持ちを知ることができたのは、キリエのアドバイスがあったからだ。


 神殿へと到着すると、すでにとんでもない人数が集まっていた。コーンを咀嚼しながら白衣姿を探していると、ママの声が聞こえてくる。


「ミコナ、こっちよ! 三人と……リリンちゃんの分身かしら? その子たちもこちらへいらっしゃい!」


 奥の玉座の前でママが手を振っていた。私たちは横に避けてくれた街の人たちに礼を言って進んで行く。


「キリエさんはみんなに特等席で見て欲しいんですって。だから一番前を空けておいたわ」

「そのキリエは? 伝えたいことがあるんだけど」

「もうすぐ来るそうよ。工具を借りて何かしてたみたいだけど……」


 と、話しているうちに神殿の奥からキリエが姿を現した。


 別れの挨拶とやらで私を連れて行くと言いかねないので、先に話をつけにいこうと思ったのだが、彼女はさっと室内を見渡し、私の姿を確認するや否や玉座へと上って行く。呼び止める暇はなかった。


今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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