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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:4 『好き』という感情の証明
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4-5

 順応力も高ければ理解力もあり、鋭い観察眼のあるキリエは、姿を現してからたったの三日で街の中心的存在になっていた。宣言通りどんな人のどんな願いでも叶えてあげるのだが、その見返りとして護衛であったり物品を要求するので、変に神格化されず現実感のある『人』として知れ渡ったのも大きな要因だろう。


 そのため、毎日遺跡を巡っては亜人抹殺装置の解除にいそしんでいたのだが、今や小さな村ごと移動しているかのような大所帯で行動するようになっていた。みんなキリエからの恩恵を受けようと、またはお話してみたいと護衛に加わったのである。


「【風魔の大鎌エアル・サイスLvⅢ、風魔の暴虐エアル・タイラントLvⅣ】、発動! みんな今だよ!」


 今日訪れたのは、『トビトの街』から西にある沼沢地の大型遺跡。ピラミッド型の頂上が古代人の施設となっているが、周りの沼は『サハギン』の巣だ。

 かまいたちが竜巻のように荒れ狂い、『サハギン』たちを切り刻みながら巻き上げる。それでも倒しきれなかったやつは小さな村一個分の人数で襲いかかる。『サハギン』があんまりにも繁殖し過ぎて長いこと人が寄り付かない地となっていたのだが、物の数分で安全地帯と化した。


「素晴らしい、見事じゃないか! 君たちの勇気と知恵に賛辞を贈ろう!」


 戦いが終わってキリエが声を上げると、護衛たちは歓声を上げて大喜び。褒めてもらった子どもみたいだ。警戒心などどこにもない。

 まあ、『巨人の化石』の地下の光景を知らない彼らには彼女を警戒する理由はない。良いものばかりを与えてくれる人に警戒しろという方が無理というもの。

 それは理解できるのだが、


「ささ、こちらへどうぞキリエさん! こちらは足場がしっかりしていますよ!」

「あらあらまあまあ白衣が汚れているわ! 特別にこのあたしが拭いてあげる! お気に入りのレースのハンカチでね!」

「ご安心ください! 身の安全はこのライアが保証します! どこから敵が来ようと瞬殺してみせますので、安心して作業していてください!」


 仲間たちの親しみを超えたへりくだり方はあまりにも酷い。確かにとんでもない額を稼がせてもらったとはいえ、見てて情けなくなってくる……。


「……みなさん、油断し過ぎですよ。まだキリエが安全な人物だと判ったわけじゃないんですからね。……それに、近くで監視してくれるのはいいんですけど、最近カード探しを私に任せ過ぎでは?」


 この遺跡の隠された地下は『箱舟アーク』や様々な物資、そして『守護者ガーディアン』の生産施設らしく作りかけの人型機械やそのパーツが多く保管されていた。ごちゃごちゃとしているせいで探索が大変そうだが、三人はキリエの周りでゴマを擦ってばかりである。


「何よミコナ、いらいらしちゃって。昨日からずぅっとそんな感じよね」

「ごめんなさい、ミコナ先輩が頑張ってるっていうのに……でも、これも大事なことなんですよ。何たってこの護衛の仕事、倍率がとんでもなく高くなっちゃって、特別扱いしてもらえないと参加できなくなりそうなんです」


 それを聞いていたキリエは、「そういうことは本人の前で言うべきではないんじゃないかね?」と苦笑した。


「ミコナはきっと寂しいんだろう。私に仲間をとられて拗ねているのさ。少しかまってやるといい」

「は? 何を言って――」


 私が否定しようとしたところ、「えー、そうなんですかミコナさん?」とルカがにやついた顔で近づいて来た。


「そうならそうと言ってくださいよぉ。というか話の輪に入ってくればいいのにぃ」

「ちょ、撫でるのやめっ……! 別にそんなんじゃないですよ! …………………………………………………………………………………………………まあ、ちょっとは…………」

「はいリリン様の耳には聞こえちゃったわよ、『まあちょっとは』って! しょうがないから構ってあげようかしらねぇ! あーよしよしよしよしよし!」

「あーいいなぁ! ライアも撫で撫でしたい!」

「ちょ、やめてください、うっとおしい! だめっ、尻尾も! はぁぁ……イライラしてすみませんね! あと五百万円で目標額に達成しそうなので、ちょっと気が急いてただけですよ!」


 ルカとリリンと、なぜか尻尾を狙い続けるライアの手を払い、私は再び宝探し戻る。実際、もう少しでママとターナを会わせてあげられると思うと居ても立ってもいられなくなるのだ。本当にそれだけである。本当に本当だ。うん。


「そうかぁ、ついに一億円に手が届くんですねぇ……あ、ちなみになんですけど、ミコナ先輩って夢が叶った後はどんなことするつもりなんですか?」

「ん? どんなこと?」


 保管庫の重い扉を開こうとしていた私は、手を止めてライアの顔を見つめ返した。


「ミコナ先輩? 何できょとんとしてるんですか?」

「あ、ああ、すみません。どんなことって、どういうことだろうと」

「どういうことって、そりゃ次の目標は、ってことですよ。何がしたいとか、どこに行きたいとかないんですか?」


 ライアの問いが脳に達して、はたと気づく。ターナを復活させた後、私は何をすればいいのだろう? 

 『円』を稼ぐ過程で現実のお金も稼いだから、必死になってクエストにでかける必要はない。『アナザーアース』の中でママとターナはまた親子として生きていけるが……でも私は? その時、私はどこにいればいいんだろう?


「おーいミコナぁ? 聞いてんのぉ? ……だめだこりゃ。宇宙見えちゃってるわ」

「ミコナ先輩には厳禁な話題だったんですかねぇ」

「まま、そこんとこは追々でもいいんじゃないですか? 長いこと一つに縛られていると、周囲への眺め方っていうものが分からなくなるものです。ゆっくりと待ってあげましょう。……と、次の目標といえば、キリエさんは今後どうされるおつもりで? ブルーノ氏が残した、我々への抹殺兵器の排除もそろそろ終わりそうということでしたが」


 ルカが訊ねた時、キリエはいじっていた機械端末で何らかの機能を起動させたらしい。『当施設の廃棄命令を受理。本AIを含め、施設内の全ての機能のフォーマットを開始。完了まで、残り五百秒』というアナウンスが流れた。


「すでにラファエルには話を通してあるんだが、ブルーノが他所に妙な殺戮マシーンでも作っていないか確認するためにも一度世界を回ってみるつもりだ。もちろん、護衛兼監視つきだがね。ついでに亜人たちの、特に未だ見たことのない純人種たちの生態についても確認したいところだ」

「え、純人種を? なら、ライアが協力しましょうか? あ、でもこの鎧は外せないから……そうだ、同じ種族として仲良くしてくれている方が街に一人いらっしゃいますので、話を通しておきますよ」


「ん? 同じ種族? なんだ、ライアは純人種なのか?」

「ええ、実はそうなんです。一応ライアたち純人種も亜人の一種で、動物の因子が表に出なかったのだと聞いてますけど、見た感じ古代人と体の構造はそっくりですよね? 何か調べたくなるような違いでもあるんですか?」


「と、訊かれても君の中身が見えないから何とも言い難いな。それを確かめるために調べたいわけだが……まだ君にしか出会えていないことを考えると、全体の数も少ないのか?」

「いえ、そういうわけでは。獣人族や竜人族に比べると体がひ弱ですし、空も飛べるわけでもないですから、ほとんどの人が領から出ずにウェルグランド家とメタトロン様の庇護下で暮らしているんです。なのでこの大陸では滅多に会うことはないでしょうね」


 何気ない会話。これまでと同様、談笑の一つのはずだった。

 だが、キリエは不思議そうな表情で立ち尽くし、じっとライアを見つめている。随分と長い沈黙だった。

 どうしたんだろう? と私たちが目配せし合っていると、キリエは不意に口を開いた。


「今……何と言った?」

「え? ですから、滅多に会うことはないと――」

「違う、君は今、『メタトロン様』と言わなかったか?」

「は、はい、そうですけど?」


「メタトロン……まさか、その名の【聖天使】が存在し、どこかのエリアを統括していたりするのか?」

「ええ、この大陸からずっと東の……確か、古代ではアメリカ大陸と呼ばれたところです。何を驚かれてるんですか?」

「…………、待て、待て待て! 【聖天使】は七体のはずだよな? それは間違いないよな!? どういうことなんだ……見せてもらったこの大陸に関する資料には、ミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエルと名が記されていたが……残りの三体は!? 別の大陸を支配している他の【聖天使】の名は、ラグエル、ゼラキエル、レミエルじゃないのか!?」


 その問いは、四人の中で最も知識の深いルカに向けられていた。

 ルカはその迫力に若干気圧されていたようだったが、すぐに冷静さを取り戻して答えた。


「いえ、残す三人の【聖天使】様は、メタトロン様とサンダルフォン様、ラジエル様です。ええっと……あなたが生み出した、はずですよね?」


 キリエはルカの質問に答えず、「これは……まさか」と呟き汗を垂らす。

 そして、彼女はおもむろにルカの肩を掴むと衣服の裾をたくし上げた。


「ぎょわああああああっ!? いきなり何を!?」

「こ、この肌に走る有機回路の模様は……おい、魔族の少女! 君の体も見せてくれ!」

「どぇぇええええっ!! 突然何してんのよあんたぁぁあ!?」


 何が変態スイッチを入れてしまったのか……。私とライアは、「こんなとこで何やってるんですか!」「そういうのはもっとロマンチックじゃないと!」と止めに入ろうとした。

 ――と、その時だった。


『フォーマット完了まで、残り十秒。機密保管庫のロックが解除されます。職員は機密物質を速やかに回収し、然るべき方法で保管してください』


 そんなアナウンスが流れ、きっかり十秒後、周囲の機械たちが一斉に機能を停止した。

 同時に、キリエが操作していた端末から小さな台座のようなものが飛び出してくる。

 その台座には六角形の金属塊がはめ込まれている。何だろうと窺っていると、キリエが目を見開くのが視界の隅で見えた。


 ……勘、とでもいうのか。

 私の中の何かがそうしろと囁き、咄嗟に六角形の金属塊とキリエを遮った。


「……ミコナ、そこをどいてくれ。それを私に寄越すんだ」


 キリエは突然目の前に立ち塞がった私にぎょっとしていたが、すぐに表情を引き締めた。

 これまでのダルそうでニヒルな雰囲気を消し、動けば切り裂かれてしまいそうな鋭利な気配が漂っている。


「あれを欲しがる理由は? あれは一体何ですか?」


 訊ねながら、後ろの物体を確認してみる。厚みのある鉄の箱で、中心部分に細長い切れ込みが入っており、『アナザーアース』でミュージシャンが使う『マイク』に似ていた。


「なぜそんなことを訊く?」

「……嫌な予感がしたもので。あなた今、ちょっと顔が怖いですよ」


 私とキリエはしばしの間見つめ合った。いや、もしかしたらこれは睨み合いかもしれない。そう感じるほどの緊張感と、冷ややかな空気を感じていた。


「それは、私たち古代人が『環境開発マシン』を起動するための『タリスマン』という機械だ。それを介して起動指令(コマンド)を口にすると、聖天使による『加護(しようきょか)』を得ずとも魔法が使いたい放題になる。どんな魔法でもだ。誰かの手に渡るのは危険だから、私が回収しようと思ったんだよ」


「それは本心ですか? あなたはこれを手にして、魔法をよからぬことに使う気では?」

「そうだとしたら警戒されるようなことを言うはずないだろう? こんなにも真摯に向き合っているというのにまだ信用してくれないだなんて……こう見えてもナイーブな人間なんだ。傷ついちゃうよ」


 態度を和らげたキリエは、言葉とは裏腹にけらけらと笑う。

 笑顔は演技で、奪い取る算段でも立てているのではと警戒するのだが、


「『タリスマン』が不届き者の手に渡らなければそれでいい。君が回収し、君自身が保管するか、ラファエルに渡したまえ。後ほど解体の仕方を教えよう」

「え? そ、それでいいんですか……?」

「ああ、問題ない。それよりも、だ。この時代に医学書は存在するのかい? 亜人たちの生態について調べたいことがあってね、あるのならすぐに用意してもらえないだろうか」


 突然の興味の移り変わりに拍子抜けしてしまう。先ほどの鋭利な気配は霧散していた。

 元のキリエに戻ったように思えたが……でも、焦燥感のようなものが表情に滲んでいて、心ここにあらずといった様子だった。

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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