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「にゃっはーーーーーーっ!! もうダメ……喜びが抑えられない……! わぁぁああぁぁぁっ! にゃっははああああーっ!!」
それから半日。私の心はつい決壊した。決意も覚悟も全部吹き飛び、歓喜の声を上げまくってしまう。
『アナニアス湖』の中心、『アザレア丘陵地帯』の一番高い丘の頂上に存在する遺跡や、『銀鋼虫ドーム』と呼ばれる古代人の墓所らしき巨大建造物全てに隠し部屋が存在しており、少なからずギフトカードが眠っていた。そして今日最後の調査として訪れた、『トビアス峡谷』の亀裂の奥に存在する遺跡には二千五百万円も隠されていたのである。
「あの、ルカ。私、もう頭働かなくて数えられないんですが……一体今日だけで幾ら稼いだんですか?」
「はぁ……はぁ……ううぅぅぅうっ! ひ、一人当たり約千五百万円です! いや、そんなまさか……いきなりそんな大金手に入るわけがないですし……千五百円かも」
「何馬鹿なこと言ってんのよ! 見なさい、あたしの胸を! 服の中にカード突っ込んだおかげで、D、いやEカップあるように見えるでしょ? これがたったの千五百円なわけないじゃない!」
「リリン先輩の馬鹿みたいな格好は放っておくとして、ちゃんとありますよ。一万円のカードが千五百万枚と、数十枚。本当に、ほら。抱えるので精一杯です。ほら、ほら、こんなに一杯……いっぱい? いっぱいある! ギフトカードがこんなにある!?」
ギフトカードで腕が塞がっているため抱き合うことはできなかったが、私たちは頭をごつんと押しつけ合い、「にゃあああああッ!!」「わあああああッ!!」「ひゃああああんッ!!」「アアアアアアアッ!!」と叫び声を上げた。それがどんな感情でどんな意味があるかは分からない。ただ、そうせずにはいられないほどの喜びに満ちていた。
「いやはや、喜んでもらえて何よりだ。さて、ミコナ。もう一度訊くが、私のことをどう思ってるんだい?」
キリエは相変わらず物資漁りをしている私たち護衛を無視して機械端末を操作している。この遺跡にもまた亜人抹殺装置なるものが存在しており、その解除にはげんでいた。
「いえ、まだ信用なりません。こんなはした金で買収しようだなんて甘いです。心を掴みたかったら他の隠し部屋にも案内することですね」
「うーむ、よっぽど君の方が悪どいように見えるが……しかし千五百万円をはした金とは、君、大金持ちなのかい?」
「いえ、そういうわけでは。必要な額にはまだ足りないって意味です」
「必要? 何か欲しいものでもあるのかい?」
とキリエは疑問を投げかけてくるが、それ以上教えてやる必要もない。
私は沈黙を答えにしようとするのだが、「ミコナさんは『子宮』を買おうとしているんですよ」とルカが話してしまった。
「ちょ、ルカ!? どうして言っちゃうんですか!」
「よく考えてみてください、ミコナさん。キリエさんは古代技術に精通した人です。もしかしたら『アナザーアース』に手を加えることができることができるかもしれません。聞くだけ聞いてみるべきだと思うんです」
手を加える……あっ、そうか、『子宮』の価格を改ざんすることができるかもしれないという意味か! 確かに『アナザーアース』を作った古代人ならば可能かもしれない!
「ふぅむ、『子宮』が欲しいときたか……君は知っているのか? あれは何らかの理由で停止してしまった、つまり死んでしまった人間のデータを基に子どものアバターを作り出すものだと。一体誰を蘇らせるつもりなんだ? まさか人間の誰かではないだろうね?」
「いえ、私の……知り合いというか、何というか……」
「あぁ、言いづらいなら言わなくていい。しかし大変だねぇ。もともとアバターには子どもを作る機能があったんだが、魂のない人形を生むなんて非現実もいいところだろう? そこで『死者』の意識データを子どものアバターに埋め込むことにしたんだけど、死者の復活は命の価値を下げるなどと騒がれてしまってねぇ。それで子作り機能を『子宮』、そして『精巣』というパーツとして抽出し、誰にも使わせないように価格を吊り上げたんだ。完全に消さなかったのはリアリティの補完だって説明してたけど、まあたぶん特権階級が自分たちの復活のために残させたんだろう」
「はあ、そうなんですか。で、どうなんです? あなたはアバターパーツの価格を下げたりできるんですか?」
「いや、『アナザーアース』という電子世界の制作には一切関わっていないから、データの改ざんは不可能だ。『今はまだ』、ね。時間はかかるだろうが解決策を講じておくよ」
「えっ? つまり、やってくれるんですか?」
「ああ、ただし数年かかるつもりでいてくれ」
「数年って……そんな大仕事を引き受けてくれると?」
「言ったろう。私が可能である範囲で願いを叶えてあげると。もちろん見返りは求めるがね。今後とも護衛をよろしく頼むよ」
「護衛って、私たち亜人に危害を加えようとするディークなんちゃらって人の陰謀を阻止するためですよね? それ、あなたには得るものが全くないように思えますけど……本当にそれでいいって言うんですか?」
「ああ、いいんだ。私は君たち『亜人』のために働こう。君たちの親として、そして守れなかった罪への償いとして……」
キリエはそう言いながら何かを思い出すように顔を上げる。
その間も機械端末のキーボードを叩いていたのだが、タンッ、と一つを押した瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響き出した。
「あ、押し間違えた。すまないが対処を頼む。間違って生体兵器を解放しちゃった」
「解放しちゃった……って、えっ!?」
端末の奥に立ち並ぶ円筒装置が次々に起動。中に満ちている液体に肉の芽が生まれる。それは一瞬にして黄金の毛皮を纏った人型ウサギとなった。
「うわっ、『ジャックラビット』じゃん! こいつ賢いからあたし嫌いなのよねぇ」
「はいはい、文句言ってないで仕事しますよ、リリン先輩!」
円筒装置を突き破り、深緑の眼をぎらつかせて『ジャックラビット』は飛びかかって来る。ラファエル領とミカエル領の間にある『アザレア山脈』に群れが生息しており、角から放つ【雷神】魔法と武具を使える知能が厄介な相手だ。
ルカは頭上より【水龍】魔法と【風魔】魔法を魔道具で増幅させて吹き飛ばし、リリンは分身を作って殴るわ蹴るわで圧倒する。ライアは縦横無尽に駆け巡り、一瞬にして何体もの『ジャックラビット』を斬り伏せ、ソウガおじさんたちはライアが討ちもらした個体を次々に狩っていく。
『ジャックラビット』には家畜を襲われて度々抗争になるので戦い慣れたものだ。私も【風魔の咆哮LvⅢ】で次々に倒していくのだが……不意に頭上から何かが崩れる音が聞こえてくる。
見上げてみれば一体の『ジャックラビット』が壁面によじ登っており、角を帯電させて護衛の一人に狙いを定めていた。
「……っ!」
狙われている一人は気づいていない。瞬間、私は壁面の『ジャックラビット』を強烈な風圧で壁面に押しつぶすのだが、コンマ一秒間に合わない。
「そらっ!」
と、キリエが護衛に飛びかかって倒れ込み、『ジャックラビット』の電撃の一撃を回避した。
「二人とも無事ですか? まったく、人間は脆いって言ったのはあなただっていうのに……とんでもない無茶しますね」
私が倒した『ジャックラビット』が最後の一体だったようで、安全を確認してから二人に駆け寄った。
助けた護衛に何度も礼を言われ、握られた手をぶんぶんと振り回されていたキリエは「ははっ、死ぬかと思ったよ……」と青ざめた顔を向けてくる。額にはすり傷ができており、血が少しだけ滲んでいた。
「無茶なことは分かっていたけど、今度こそは……って体が勝手に動いたんだよ」
「はあ、今度こそ?」
「ブルーノに全て奪われた時、あいつは邪魔になった私や、私が傍に置いておいた亜人を抹殺しようとしたんだ。私はぎりぎり逃げ延びたんだが、私の子たちは殺されてしまってね……その悔しさがあったから、今度こそ守ってあげたかったんだよ」
何てことのないように言うが、その表情には悲しみが滲んでいるような気がした。
かけてあげる言葉に迷っているうちに『ジャックラビット』の片づけを済ませたみんなが駆けつけてきて、キリエの治療を施し始める。彼女は薬草の汁に「いてて」と漏らしながら、私へと視線を向けてきた。
「私はね、ミコナ。ブルーノに殺されかけ、世界に否定され、我が子も失って……今あるのは願いだけだ。我が子たちが作りあげた世界で、我が子らに看取られて天寿を全うする。もうこれだけなんだ……それこそが、私を逃がすために命を落とした我が子へのたむけとなると信じているのさ……」
キリエは死んでしまった『我が子』を思い出すかのように口を閉ざす。
それからしばらくして、「どうだい? 少しは親近感が湧いたかな?」とこれまで通りのニヒルな笑みを浮かべる。
「さあ、それはどうでしょうね? その笑顔を見たら計算で語ったように思えてきました」
強気な姿勢で答えるのだが、「でも……」と私は思う。
命を落とした人のために、何かをしてあげたい。その死に報いる何かをしたい。
その気持ちは、私にもよく分かる感情だった。
今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)
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