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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:4 『好き』という感情の証明
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4-3

「うーむ、その警戒感丸出しの顔……なるほど、昨日の演説は上手くいったと思ったのだが、逆に疑惑を深めてしまったということらしいね」


 翌日の朝、キリエが依頼を出した探索クエストに参加申請し、神殿へと迎えに行ったところ、彼女はそのようにぼやいて不思議そうな顔を浮かべていた。


「私はママのように優しくありませんので。そう簡単に監視は解きませんよ」

「熱烈な歓迎ぶりに感謝の念が絶えないよ。私も君たちとお話しがしたいと思っていたからありがたい話だ」


 キリエの視線は一緒に来てくれていたルカとリリン、ライアに注がれている。全身を舐め回すような視線に三人はぶるりと身震いしていた。


「翼の生えている君は鳥翼の遺伝子を持つ亜人なのは分かるが、コウモリのような羽が頭と背中から生えている、そこの小さい君。一体君は何者なんだい? 私がデザインした亜人に君のような種はいないはずなんだが」

「小さいは余計よ! あたしは魔族なんだけど、亜人たちとは出自が違うって聞いたことがあるわ。もしかしたら、あんたとは別の古代人によって生み出されたんじゃないかしら」

「ああ、君は魔族なのか! 監禁中に色々と資料を読ませてもらったんだが、おそらく君たち魔族は、オーストラリアの研究所から脱走したエラー個体の生き残りだと思われる」


「え、エラー? それって、失敗って意味?」

「まさか、こんなにも美しい君が失敗なわけないだろう! 予想されていた姿とは違う形へと進化したってだけさ! 『ロマン』という意味で受け取ってくれ!」

「う、美しい? ロマン? んふっ……神様まで魅了してしまうなんて、あたしったら何て罪深い女なのかしら。んふふふふ……」


「それで、そこの悪魔像のような君は? その顔の目のような窪みや牙は動かせるようだが、そのような見た目の新生物なのかい?」

「いえ、ライアもれっきとした人です。あくまでもこれは鎧を着ているだけで、中身は可憐な少女ですよ。ほんと、ドレスが似合うプリティなお姫様なんです」

「ふむ、一体何のアピールか分からんのだが……しかしそれが鎧だと? 着用者の意思を反映させるように動く金属をこの時代の者がどうやって作ったのか、非常に気になるところだなぁ」


 はっはっは! と一人楽しそうに笑うキリエ。「それは良かったですね」と苦笑を浮かべたルカは、表情を引き締めて訊ねた。


「千年近い時を超えて目覚めたんですから知識欲が湧くのも分かりますけど、せっかくならあなたの子であるワタシたちに思い出話を語って聞かせるのも乙ってものじゃないですか? ワタシたちも色々と訊きたいことがあるので、ぜひ答えてもらいたいのですが」

「ああ、いいとも! 何でも訊いてくれたまえ! ……と、しかし待て、他の参加者たちが集まってきたようだ。目的地へ向かう途中にでも話そうじゃないか」


 キリエが役場に依頼として出したクエストは遺跡の調査が主な目的らしいのだが、求めていた人材は探索員ではなく護衛者だった。古代遺跡までの危険の排除が私たちの仕事だという。

 そのため、治安維持隊のメンバーや名の通った傭兵、冒険者が集められていたのだが、


「……あの、自分で歩けないんですか? 大事な戦力が減っちゃってるんですが」


 キリエは街を出発したその時から、ソウガおじさんに自分をおんぶさせていた。


「ふふ、私の体力のなさは半端ではないぞ。街を出て十五分も歩ける自信がない」

「だからって、わざわざおじさんにおんぶしてもらうのは勿体なさ過ぎですよ。その人、この面子の中でもトップクラスで戦闘力高いんですからね。おじさんはおじさんで何を素直に従ってるんですか。しかもさっきからスンスン鼻鳴らして、変態なんですか?」

「まさか拝めるとは思ってなかった古代人が目の前にいるんだぜ? どんな匂いか嗅ぐぐらい良いじゃねえかよ。それに、戦闘力ならお前の方が断然上なんだから、俺なんていなくてもいいだろうが。ほら、さっそく『幽幻鹿ゆうげんじか』が出やがったぞ。さっさと追っ払っちまえ」


 私たちが今進んでいるのは、ラヴァ・ボアによって掘り起こされて平原と化した旧『トビトの森』入り口辺りだ。森に棲んでいた魔物が彷徨っており、おじさんが顎で示した先には白い毛皮が特徴の鹿の群れがいた。


 こちらを警戒しており、体から冷気を発して周囲に靄を発生させて威嚇している。とはいえ無闇に殺すのは可哀そうだし、生態系を崩しかねない。「スキル【風魔の暴風(エアル・ストーム)LvⅠ】、発動」と軽く風を巻き起こし、驚かせることで追い払った。


「ははっ! 『スキル』だなんて、まるでゲームみたいじゃないか! 冒険業や武器防具屋などが存在し、仕事の依頼を『クエスト』と呼んで、日本語と英語が入り乱れた言語を使っているとなると、この文明を築いたのは間違いなくミカエルのやつだな!」

「ミカエル? それって、聖天使のミカエルおじさんのことですか?」

「おじさん? あぁ、そうか代替わりしているから、この時代に存在する『ミカエル』は男性個体なんだな。いや、私の言うミカエルは初代のことだ。この手で生み出した子のことだよ。初代は女性個体だったんだが、漫画やゲームが大好きでねぇ。我々古代人がいなくなったことを良いことに、趣味に偏った文明を世界中に広めてしまったようだな」


 その初代のミカエルを思い出しているかのように、キリエは遠い目をしていた。その様子に嘘臭さはない。結局彼女は何者なんだろう? という意味を込めてルカに視線を送ると、彼女もまた困惑しているらしく肩を竦めてみせた。


「キリエさん、ちょいとお聞きしたいんですが」


 ルカは意を決したように訊ねる。キリエは「ちょいとじゃなく、がっつりと訊きたまえ」と朗らかに応えた。


「単刀直入に……あなたは本当に亜人の創造主、なんですか? この時代には、魔法の素となるマナを作り上げた者、そして亜人を生み出した者が『大賢者』として名を残しているのですが、あなたの名前は聞いたことも見たこともありません」


 さてどんな反応を示すのかと注意深く窺っていたのだが、「ああ、それはそうだろうな」とキリエはあっさりと認める。そこに動揺はまったくなかった。


「簡単な話だ。功績を盗まれたんだよ。あのドイツ野郎……ブルーノ・ディークマイアーは私の亜人計画を『命の冒涜だ』などと侮辱し、私を研究所から追い出したんだ。だがね……第一次電脳世界移住計画が遂行できなくなったと分かるや否や、あたかも自分が思いついたかのように『亜人テラフォーミング計画』を持ち出したんだよ。私の研究成果――天使の名を関した【管理者】や生み出した亜人たちを、私の下から奪ったんだ。だから私の名が残っていないというわけだ」


 私はルカに「あってますか?」と訊ねる。「ええ、確かに亜人の創造主はブルーノ・ディークマイアーとされています」と彼女は首を縦に振った。


「それはさぞかしお辛かったでしょうね。あまりにも辛くて、悔しくて、ついつい殺意を抱いちゃった……なんてことはありませんか?」

「殺意? それはどういう……あぁ、あのスカイゲートタワーの休眠ルームの惨状が気になっているのかい? そうか、分かったぞ。私が殺戮者じゃないかと疑っているんだな? それでやたらと敵意を剥き出しにしてくるわけだ」

「え!? そ、それは、ですね……」

「はっはっは! 『バレた』と顔に書いているぞ! まあ『破滅信仰者』どもの名が残ってしまっているようだし、君たちの視点では、私が一味である疑いを拭いきれないわけだ」


 キリエはくっくと引きつるように笑い、「やれやれ、あんなクソどもと同一視されるとはね」と自嘲気味に呟く。


「安心したまえ。私の一挙一動に気を配らなくとも、君たちの味方であることを目に見える形で証明してやろう」


 キリエの指示に従って歩き続けると、私たちはある古代遺跡へと辿り着いた。

 初めてパーティでクエストに参加した時の、超巨大ラヴァ・ボアが発生した遺跡……その跡地である。


「一体ここに何の用が? 見ての通り、破壊し尽くされていますが」


 私が訊ねると、


「……ふむ、随分と地形が変化してしまっているが、地図があれば辿り着くことは可能のようだな」


 とキリエは呟き、おじさんの背中から更地と化した遺跡へと下り立った。

 地面を眺め歩き回るキリエ。何をしているんだ? と眺めていると、「おーい誰か、電気を発生させられる……そう! 電撃魔法を使える者はいないか?」とキリエは声を張り上げた。


 私は『円』を消費したくないので黙っていたところ、護衛の一人が名乗り出た。キリエの指示に従い彼女の足元に膝を突くと、地面に手を当てて【雷神】魔法を放つ。

 すると突然、床のあちこちがせり上がり、隠されていた地下への入り口となる階段が現れた。


「いいかい、君たちが『ダンジョン』と呼ぶ古代人の施設は、地熱エネルギーを利用したものがほとんだ。当時は太陽の活動が低下して、宇宙(そら)から電気を得られなかったから地下に潜って熱を得るしかなかったんだよ。そういうわけで、古代遺跡は地下に向かって多重構造になっており、重要な機能や機械端末、貴重な物品などは奥深くに隠されている。今後古代遺跡に調査へ入る時は床に電気を放ってみるといい」


 そのように説明するキリエに続いて隠し階段を下りて行くと、破壊された階層よりずっと広い空間があった。

 きっと『巨人の化石』と同じ施設……古代人の休眠ルームなのだろう。数えきれないほどの『箱舟』が並べられており、しかも機体は無傷だ。電源は落ちているが、中身のミイラも綺麗(?)に保管されている。


 そして、だ。『箱舟』だってとんでもないお宝に違いないが、壁際にずらりと並ぶ巨大ロッカーを見るや否や、みんなの興奮は最高潮に達した。


「見ろ、あの保管庫の中! とんでもない量の鉄鋼だぞ!」

「いや、それだけじゃねえぞ! 古代の技術で加工された釘とかワイヤーとかたっぷり保管されてやがる!」

「うっそ、これ金塊じゃね!? あ、待て、宝石とかもありやがる!」

「何だここは……宝の山じゃないか! これ全部持ち帰ったらどんだけ町が潤うってんだよ……!」


 どれだけ腕の良い職人だろうと、古代の資材は再現が不可能なほどに精巧だ。『箱舟』に興味のないものにとってはそっちに注目するのは無理はない。

 だが、そんなもの必要のない私は全く違うところに視線を奪われていた。


「か、かかか、カードッッ!! みんな、カードがありますよッッ!!」


 必要なくなったのか、急いでいて使い切れなかったのか、『箱舟』の傍にはパッケージのビニールが破かれたカードの束が捨て置かれていた。

 慌てて駆けつけ触れてみると、ビニールは砂状に崩れたもののカードは無事だった。翼の生えた球体のシンボルが描かれ、『地球連合アジア支部交付 Bクラス職員用ギフトカード』の文字が書かれている。

 そしてそのチャージできる数字は、


「にゃはっ! すごい、激レアの一万円のカードだっ!! しかもこんなにたくさん……!!」

「えっ、一万円!? またワタシたちでは起動できないタイプのカードじゃないですよね?」

「見なさいルカ! これはあたしたちにとって馴染み深いタイプのカードよ!」

「あれっ、あのクローゼットみたいな保管庫にもありませんか!? ほらミコナ先輩、ソウガさんが漁っているあの保管庫ですよ!」


 カードか、俺には不要だな、とソウガおじさんが投げ捨てたのは、なんと未開封のカードセットである。

 はしたないのは今は目をつむり、おじさんがぽんぽん投げ捨てるセットを「そりゃっ!」とキャッチ。みんなの下に戻って振り分けると、一斉に数えた。

 そして、みんなで数字を言い合ってみたところ、


「全部で千五百四十六万円!? 四人で割ると……三百八十六万五千円!!」


 ルカの解答を聞いて、私たちは固まった。

 三百八十六万五千円。以前もここでカードを見つけたが、今度は霞ではなく『事実』としてここに存在している。間違いなく、大金が私たちの手の中にあるのだ。


「う、うぅぅぅぅ……! おっぱい……おっぱいの神様になる! あたし、このお金でおっぱいの神になるわッ!」

「じゃあライアはお姫様の神になるッ!! ライアは全てのお姫様の頂点になりまぁすッ!!」

「こ、これだけあれば、アバター完全に作り直せるのでは……? もっと若く、美しく……この前の調査班のリーダーさんみたいな、モデル系美女になろうかしら……イヒヒ……『アナザーアース』でなら、ワタシは女として幸せになれる……」


 突然舞い込んだ大金に頭が破壊されたのか、三人は意味不明なこと口にしたり暗い笑みを浮かべたりしていた。私も嬉しくてたまらなかったが、抱いてきた夢と願いが一気に現実味を帯びた気がして、喜びよりも体が強張るような感覚があった。


 一度にこんなにも稼げるなんて……今回は偶然? それとも他の遺跡にも隠されているのだろうか?

 キリエに訊ねようとして顔を上げてみると、彼女はいつのまにか部屋の奥へ移動しており、赤いランプで照らされている機械の端末をいじっていた。


「一部の亜人たちが『アナザーアース』を利用していると聞いていたが、まさか本当だったとはな。まあ、喜んでもらえてなによりだ。こちらの作業もそろそろ終わるから、次の遺跡に向かう準備をしといてくれ」


 喜び狂っている三人を置いてキリエの下へ行くと、彼女は端末をかたかたと操作しながらそのように言った。


「そこで何をしてるんですか? 『こちらの作業』、とは?」

「ブルーノの計画を破壊しているところだ」

「はあ、計画を破壊……?」

「私が打ち立てた『亜人テラフォーミング計画』は、氷河期を迎えた地球を亜人たちにテラフォーミング――つまり住める環境に整えてもらい、我々人間が『アナザーアース』より帰還した後は共生していく、というものだった。しかしブルーノはその計画を乗っ取ると、テラフォーミングが完了した後に亜人たちを抹殺する方向へと改変したのだ」

「私たちを、抹殺? あれ、似たような話をどこかで……」


 あ、そうだ。まさにこの遺跡だ。この遺跡の『えーあい』が亜人抹殺のためにボア・ジュニアを生み出している、というようなことを言っていた。


「心当たりがあるようだね。ここは地球が住める環境になると、大地を耕し亜人たちを焼き殺す生物兵器を生み出す施設なんだよ。何があったのか分からんが、破壊し尽くされて機能はしていないようだがね。万が一を考えて、プログラムを書き換えているんだ」


 キリエは言い終わるのと同時に、タン、と小気味良くキーを叩いた。

 すると突然、目の前のガラス板の奥にある空間が強烈な光によって照らし出される。


「っ!? キリエ!! これはどういう……まさか起動したってことですか……!?」


 私はすぐにでも飛びかかれるよう、キリエを向いて身構えた。

 ガラス板の奥には、超巨大ラヴァ・ボアを生み出した巨大円筒装置が何十機も備えられていた。しかも筒の中には超巨大ラヴァ・ボアの他、巨狼、巨鳥、それに竜のような翼のある爬虫類が完成された状態で浮かんでおり、今にも目覚めて暴れ出しそうだった。

 だが、その時、


『……施……の停止コマンド……認。全てのプロセ……完了したものとし……本施設、及……管理AI猪号の消去……みなさま、お帰りなさ……明るい未来を、お祈りします……』


 消えてしまったと思っていた『えーあい』の声が聞こえたと思ったら、化け物の円筒の中に泡が噴き出した。満たしていた黄色っぽい液体は赤く染まり、化け物たちの体は崩壊して泡の中へと消えていく。


「見ての通りだ。ここへ来たのは、君たちの安全を確保するためだったのだよ。まあ、すでにどこかの施設から逃げ出した生体兵器が魔物なんて呼ばれてるみたいだが……とにかく、この施設は完全に無害化できた。しかも大量の物資も提供して、君にはギフトカードもプレゼントしてあげたんだから、危険人物の疑いは晴れたんじゃないかな?」


「そ、それはまだ何とも言えません。信用させるためのパフォーマンスかもしれませんし」

「にゃはー、なんて可愛らしく喜んでいたのに?」

「そ、それは仕方のないことです! 嬉しいことがあったら喜び叫ぶのは当然の反応でしょう!」

「叫ぶのはよっぽどだと思うがね。まあいい、君の弱み、というかツボは抑えた。これから数か所遺跡を回るつもりだが、きっとそこにもカードはあるはず。それで君の心を掴んでみせるよ」


 えっ、まだ手に入るの!? と飛び上がりそうになったが、いやダメだ冷静になれ、と私は首をぶんぶん振る。これがキリエの人心を落とす手口なのかもしれない。


「確かに私はギフトカードに目がないですが、しかしそれを餌に落とされる愚か者ではありません。甘く見ないことですね」


 私は亜人を代表するつもりでそう言うと、キリエの目を睨みつけた。私たちを生み出したというおごりを打ち砕き、この時代では私たちこそが上であることを示してやろう。

 そう意気込み、次なる遺跡へと向かうのだが――

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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