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「そんじゃ、さっそく今から神殿向かいましょ。『自分たち』で持ち込んだ厄介事は『自分たち』で片づけないとね」
リリンはそう言って立ち上がり、ルカとライアもそれが当然のように「ですね」「その通り」と同意して後に続いた。
そんな彼女たちの背中は頼もしく見え、胸の中が暖かくなる。
それが一体どんな感情なのか分からないが……まあ気分が良いし何でもいいか。
そう思いながら私も三人の後を追い、一緒に店を出るのだが、
「うわっ!? けほっ! なにこれ、砂……!?」
砂ぼこりを思い切り浴びせられ、気分は台無しになってしまう。
目元を払って見てみれば、目の前の通りを大勢の亜人たちが横切っていく。彼らが向かって行く方向は私たちの目的地でもある神殿方面だった。
「けほっ、けほっ! 何なんですか、この騒ぎは! 砂埃が酷い――って、わっ、翼に泥が……!? くっそぉ、綺麗に仕上げてきたのにぃ!」
「いやあんた、服にも土ついてるわよ。有翼種って服より翼の方が大事なの?」
「ミコナ先輩、今日は何かお祭りでもあるんですか? 街にいる全員が集まって来てるんじゃないかってぐらいの人数ですよ」
「季節の祭りはもう少し後ですし、そもそも神殿は『加護』の授与とアカウント作成の儀式でしか使われてないんです。だから何の集まりかさっぱり――」
その時、駆け抜けて行く集団の中からこんな声が聞こえてきた。
「おいおいマジなんだよな?」
「ああ、ついにその姿を俺たちに見せてくれるらしいぞ」
「本当に『神様』に会えるんなら、ダメ元で新しい技術おねだりしちゃおうぜ!」
えっ!? と驚いた私たちは思わず顔を見合わせた。
それからすぐに駆け出し、人の流れに乗って街の奥にある神殿へと向かう。到着すると、開かれた大きな扉を抜けて儀式場に駆け込んだ。
「ふむ、君は狼の亜人か? そしてそこの君は……なに? 獣人族と竜人族のハーフだと? 素晴らしい! 哺乳類と爬虫類の複合種が誕生するなんて、君たちを生み出した私でさえ予想もつかなかったことだ! いやはや、随分と多様性に富んでいて愉快な世界を築いたようだなぁ! 滅びの時代を生きた者として心から嬉しく思うよ!」
ごった返す街の人たちの向こう側、変身したママが座るための巨大な玉座の上に白衣の女が立っていた。監禁されていたはずのキリエが、嬉々とした表情を浮かべて感嘆の声を漏らし、足元の人々を観察している。
私は人だかりを掻き分け、玉座へ上るための小階段の横で控えていたママの下へと駆け寄ると、
「これどういうこと? 何で外に出したの?」とまくし立てた。
「あら、ミコナも来たのね。実はね、昨晩他の聖天使たちと『アナザーアース』を通じて会議をしたんだけど――」
「まさか、みんな出してあげろって言ったの?」
「ううん。『善か悪かの判断がつかないのなら殺してしまうのが吉』派が半分、『有益な情報や技術を提供してくれるのなら、徹底的に絞り出せ』派が半分だったの」
「あ、ああ、そう。随分と物騒だね……でもまっとうな意見だと思う。それがどうしてこんなことに?」
「意見が半分に割れちゃったから、預かっている私に任せるってことになったの。まさか悪事を働いたわけでもない人を殺すなんてことはできないし、監禁して技術だけ提供させ続けるなんて非道を行えるはずもないでしょう? だから、この一週間ずっと大人しくしていてくれたこと、そしてこの街のために多大な貢献をしてくれたことへの感謝として、この街への居住許可を与えたわ」
何て甘い裁定だろう……と少し呆れてしまうが、でもこうなることは分かっていたような気もする。何せ、大切なものを犠牲にしてまで、どこの誰とも分からない私を助けるぐらいなのだ。
ママは優しい。厳しい判断はできない。だからこそ私が強く危機感を持たなければ……と、決意を固めた時だった。
「あまり母君を困らせるんじゃあないよ。例え私が危険分子だとしても、古代人……『人間』というのは君たち亜人と比べると貧弱だ。対抗するには『環境開発マシン』を使うしかないが、悪用できないように【管理者】から許可を得ないと使えないようにセーフティがかけられている。それを理解した上での解放だ。この街に住まわせることで技術提供を期待できることだし、理性的でスマートな判断と言える」
顔を上げると、気だるさを含んだ薄い笑みを張りつけている顔があった。
……クガミキリエ。玉座の上でしゃがみ、膝に腕を置いて、私たちやこの領の領主であるママを見下ろしてきている。
「ん? どうしてそんなに怖い顔をしているんだい? 君は出会った瞬間から私を警戒しているが、そんなに怪しく見えるかな?」
「ええ、怪しいですよ。その眠たげで濁った目に気だるげな感じとか、偉っそうにママを見下ろしてるところとか、悪者臭いです」
「はは、最後のは私情じゃあないか。しかし未知の存在を安直には受け入れず、真実を確かめようとするその姿勢は至極正しい。好ましく思えるよ。君たちから信頼を得られるよう努力せねばならないな」
立ち上がったキリエは玉座の上を歩いていき、集まっている街の人たちの前に立った。
「私は九神霧絵! 聞いての通り、千年近く前の時代に生きていた人間だ! そして、君たち亜人の生みの親である! 私は、君たち亜人が人間の代わりにこの世界の支配者となることを願っていた! 我が子同然の君たちがその命を繋ぎ、生き続けることを望んでいた! 私の希望を実現させてくれたこと、心から感謝する!」
驚嘆の声が上がり、ざわめきがより大きくなる。
一体何をするつもりなのかと窺っていると、彼女は両腕を広げて声を響き渡らせた。
「これより後、私はこの街の一員として、そしてこの亜人世界を作り上げた神として、君たちに知恵と科学を授けよう! 望むものを全て与えるという意味として受け取ってくれて構わない! しかし、古来より神は代償を求めるもの! 私の力になってくれた者にだけギフトを授ける! 望みがある者や技術の提供を求める者は、ぜひ私が依頼したクエストに参加して欲しい! お互いがお互いに与え合う、ウィンウィンな関係を築いていこうではないか!」
冒険者街というのは往々にして新しいものや楽しいことが大好きな人種が集まるものだ。「何でもか!? 何でも教えてくれるんだな!?」「クエストの内容は! いつ役場に申請する!?」「何かよく分からんが楽しそうじゃん! 神様バンザイ!」と歓喜の声を上げ、すでに心を掌握されてしまったかのようである。
そんな彼らに「続きは後で!」と手を振りながら、キリエはこちらへ戻ってくる。
再び玉座の上から私を見下ろすと、
「そういうことで、君たちもぜひ私が依頼したクエストに参加してくれたまえ。報酬として、私が実現可能な範囲のリクエストならば何にだって応えよう。ふふ……どうだい? 悪者なら君たちに力を与えたりはしないだろう? 我ながら冴えたやり方だな」
彼女は得意げに言って、自己満足に浸るように笑みを浮かべた。
確かに、私たちの敵であれば力を与えようとはするまい。その理屈は分かる。
しかし、何でも与えるという大盤振る舞いな姿勢や、そのにやついた顔は、どう見ても悪者のそれである……。
今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)
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