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以前、とある冒険者が、「我が神だ! 魔法のことごとくを習得した我こそがこの世界の頂点なり!」とか言って街で暴れたことがある。私が倒し、ママに『加護』をはく奪してもらって解決したのだが……それはともかく、機械から目覚めたキリエとかいう女がいきなり神を名乗った時、その男を思い出して「うわぁ、やばいやつだ……」と私は思った。
しかし、その女を街に連れ帰ってから一週間。街の変わり様を見ると、あの女は本当に神様だったのではないかと思えてしまうのだった。
「よぉ、ミコナちゃん! この前買ってった土鍋の調子はどうだい? 吹きこぼれないように『返し』を取りつけた自信作だったんだが」
例えば、通りかかった雑貨屋。
話かけてきた店主であるタヌキ科獣人族のおじさんは、ぴっかぴかなメガネをかけている。まるで『アナザーアース』から持ち出したかのような、細くて精巧なフレームや、薄くて透明度の高いレンズなど今まで作れる人はいなかった。それが今や店頭にずらりと並べられている。
「こ、このメガネ、たったの五十ドルなんですか? これまでのいびつで無骨だったのが五百ドルもしたのに?」
「例の古代人が大昔の技術や知識を披露してくださったおかげさ! なあ、『神様』ってのはどんな人なんだい? ミコナちゃんは会ったことあるんだろう?」
「ええ、まあ……でも、何とも言えないんです。会った直後に『冬眠酔い』がどうだとか言って、すぐに気を失っちゃって……街に連れ帰った後はずっと軟禁されてますからね」
説明しながら隣の武器屋に視線を向けてみると、店頭に剣の柄だけが置かれていた。ぱっと見だと交換用に思えるのだが、客がその柄を持つと光る刀身が現れる。「こいつぁビームサーベルって言うんだぜ!」という店員の説明が聞こえてきた。
その店員の隣で鎧の試着をしていた男は背中の機構より光の翼を生やし、空に浮き上がって縦横無尽に飛んでみせる。これまでの鉄板を体に括りつける鎧とは比べ物にならないほどの性能だが、値段は従来のものよりちょっとだけ高い程度。技術革新どころではなく、世界がまるっと変わってしまったかのような発展ぶりだ。
街のみんなはうっきうきで新しいものに目をくらませているが、私は馴染めず不気味に感じていた。居心地が悪くなり、私は「また来ます」と挨拶して店から去ると、速足でパーティ仲間と待ち合わせしている『ゴルゴッソ亭』へと向かう。
巨塔での出来事や、キリエの扱いでママと相談したりしているうちに時間が経ってしまい、一週間ぶりの顔合わせになる。みんな元気にしてるだろうか……そんなことを考えながら店内を見回すと奥で手を振っている三人を見つけた。
その瞬間、街が元通りになったような感覚を覚え、ほっと安堵する。そして『巨人の化石』地下での彼女たちの暖かな言葉が思い出され、ふわっと心が浮き上がるような感覚を覚えた。
が、すぐに残念な気分に襲われることになる。
「……あの、『アナザーアース』のグループチャットに『キリエが何をしでかすか分かりませんから気を抜かないように』って書いておいたの、見てないんですか?」
これまでローブを着て皮のカバンを肩から提げるスタイルだったルカは、今日はTシャツにジーンズ、そしてつるつるとして黒光りするおしゃれなカバンを膝に抱えていた。
リリンは黒いレオタード姿なのはいつも通りだが、ハート型のサングラスをかけ、カールしてタワー状にした髪に髪飾りをこれでもかと載せている。色のついたガラス製だったり、キラキラと光る星型の金属であったり、『アナザーアース』のギャルにそっくりだ。
「どもどもミコナさん! どうですか、この格好! 似合ってるでしょう? まさか現実世界でこんなおしゃれな格好できるなんて感激ですよ!」
「そのチャットは見たけど、おしゃれすることに問題はないでしょ? 確かにこの文明レベルの上がり方には怖いものがあるけど、物には罪はないじゃない」
「それはそうですけど、地下の廃墟で一人無傷で眠っていたなんて怪しさ満点じゃないですか。警戒は怠らないようにって話し合ったのに守ってるのはライアだけって……」
ライアは浮かれた格好はせず……いや、できないのかもしれないが、とにかくいつもの紅いロングソードの他、最近店に並び始めたビームサーベルやマシンガンを持って来ており、確か『ロケットランチャー』とかいう名前の筒型の武器まで用意していた。
どれもキリエがもたらした技術によって作られた武器なのが気になるが、凄まじい警戒感っぷりである。さすがライアだ、と私は感心したのだが、
「あっ、ええっと……ごめんなさい、ミコナ先輩。これ、実はこういうものでして」
ビームサーベルと思っていたものを彼女が握ると、柄からピンクや黄色や緑と言った光が噴き出し、花束……というか杖? のような形を作った。
「みなさん『アナザーアース』でアニメって観たことありますか? ほら、こうやってくるくる杖を回転させて魔法を唱えると、『魔法少女』ミカリンみたいで可愛いんです! それでこっちの銃はトリガーを引くと星型の光がバァーって出て、すごい綺麗なんですよ! で、こっちの筒はなんと打ち上げ花火なんです! いつか晴れた日の夜にみんなで見てみましょう!」
つまり武器に見えたそれらはおもちゃということか……。
私はがくりと肩を落とし、「もぉ、危機感持ってくださいよ。もしキリエがやばいやつだったら、神殿で監視しているママが危ないんですからね」と文句を言って椅子に座った。
「ねえ、あたしらんとこには全然情報下りて来ないんだけど、キリエはどういうつもりで技術提供なんてしてるわけ? カエラ様から何か聞いてない?」
「信頼を得るため……だそうですよ。安全が確認できなければ監視を解くことはできないと伝えたところ、街に貢献しようと申し出てきたとか」
「安全ねぇ。あたし全然歴史知らないんだけど、ほんとにキリエが『アレ』の可能性あるわけ? あのぉ、何だっけ? なんちゃら信仰……」
リリンが言い淀むと、「『破滅信仰者』です」とライアが助け舟を出した。
「大昔、絶滅の危機に瀕した人間たちは地上に亜人たちを残し、地下に潜って眠りにつこうとしたんです。ですけど『人間の破滅は神のおぼしめし』と考えた人たちがいて、同胞を殺し回ったんだそうですよ」
「それで絶滅した……はずなのにキリエは生きていた、と。なるほど、最後まで生き残った側の存在だと疑うのは筋が通ってるわね。でもさ、破滅を望んでいたやつがどうして地下で生き残ってんのって話じゃない?」
それは……確かにその通りである。『破滅信仰者』であることを示す証拠は何もなく、ママが心配で過敏になっているだけだろ、と言われると反論は何もできない。
それでも、出会った直後に見たあの女の笑顔が忘れられない。嫌な予感を覚えさせる、昏い笑みを……。
同じ気持ちだったわけではないだろうが、「しかし、ちょっとおかしな点がありまして」とルカが話し始めた。
「キリエさんは言ってましたよね。私たちの『生みの親』だと。あれはつまり亜人の創造主という意味だと思うんです。でも、『大賢者』にそんな名前の人はいないんですよねぇ」
「あん? 『大賢者』って?」
「『魔法の素』と亜人の創造主の二人を、亜人社会では『大賢者』と呼ぶんです。なんですが……以前ガブリエル領にある大図書館で読んだ歴史書に彼女の名前はなかったはずですし、記憶が正しければ全くの別人の名前が亜人の創造主と記されていたんです」
さすがに不穏なものを感じたのか、リリンはサングラスを額に押し上げた。テーブルに体を預けていたライアも背筋を伸ばし、「キリエさんは嘘を吐いたということですか?」と不安そうな声で言った。
「あっ、もしかしたら、創造主ではないけれど創造主に近い存在だったてことはないですか? 例えば、創造主の右腕的存在だったとか、協力者だったとか」
「いえ、大図書館に勤めている友人に調べてもらったんですが、『クガミキリエ』の名前はどんな資料にも見つからなかったそうなんです」
「んじゃあ、やっぱライアの言う通り嘘を吐いてたってことになるわね」
「ですが、こうして『アナザーアース』ですら見たことのない超技術を提供『してみせた』わけでしょう? ただの一般人が文明レベルを引き上げられる知識を有しているわけないですし、高名な科学者だとは思うんです。そんな人が一切名を残していないなんて考えづらくないですか?」
私は大図書館を見たことがないので、どれほどの資料が残されているのか知らない。しかし、不自然だと言い切れるだけのものは揃っているということなのだろう。
……こうなってくると、危険分子かどうかの不安よりも得体の知れない気味の悪さが超えてしまう。すっかり様変わりしてしまった街の様子に感じるものと同じだ。
「ここで考えていても埒があきませんね……こうなったら、ママに掛け合ってキリエの監視係をやらせてもらうことにします。ただ、そうなったらしばらくパーティ活動はできないでしょうから、みなさんは別の誰かを見つけてクエストに行っててください。で、その……安全が確認出来たら、また仲間に入れてもらえると助かるんですが……」
自分の勝手でパーティから離れ、自分の都合で戻って来る。お願いしておきながら、何て自分勝手なのだろうと思った。
でも、三人なら許してくれるんじゃないかと甘えた気持ちでお願いするのだが、「はて、監視?」「何であんたがそんなことすんのよ?」「パーティから抜けるって、どうしてですか?」と三人は困惑した顔をしている。
「やっぱりママの傍にキリエを置いておくのはたまらなく不安なんです。だから私が直々に監視をしようかと。でもこれはあくまでも私の我儘ですから、みなさんをつき合わせるわけにはいきません。それに、この厄介事は『巨人の化石』の地下に落ちてしまった私のミスのせいで生まれたものですから、自分で片をつけないと」
私が監視について三人が安心して暮らせるようになれば償いになるはず。そういう思いもあった。ちゃんと筋の通った説明だったはずである。
なのに三人は不満気に溜息を吐いてみせた。
「でましたよ、ミコナさんのナチュラルお人好しモード」
「だぁからさ、あたしたちは仲間でしょう? こういう時は一緒に行動して、協力し合うのが基本なの! 隠し事もスタンドプレーもなし!」
「そうそう。この前の巨塔の一件で仲良くなれたと思ったのに……どうして『手伝ってくれ』って言えないんですかぁ」
三人に勢い良く言われ、「す、すみません」と私は反射的に謝ってしまった。
何だか少し呆れている、というか怒ったような顔をしている三人。
きっと少し前までは戸惑うばかりで、「どうして自ら厄介事に首を突っ込むんだろう」と疑問を抱いたことだろう。
だが今は、「そうだ、『そういう人たち』なんだったな」と理解するような感覚があった。
今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)
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