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頂点少女は全てを守る  作者: 奈坂秋吾
Episode:3 変化の兆し
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17/33

3-7

 大事な娘を失い、その娘の記憶を封じられ、私を我が子だと思い込んでいるカエラママの顔が浮かぶ。ママと関係のないところで『円』を使い込んでしまったことが申し訳なくて、思い通りにいかないことが本当に腹立たしくて、涙が滲んできてしまう。


「ちょっと待って、魔法を使うのに『円』を使う? 航空チケット?」

「ママとターナ? ターナって、どなたのことです?」


 当然質問攻めに合うのだが、私はまた溢れそうになった感情を必死に抑え込む。思わず秘密の一旦を明かしてしまったが、ここで踏み留まれば彼女たちが理解できることなどありやしない。三人の疑問は全てシャットアウトしてしまえば問題はない。

 しかしそんな私の意識に割り込むかのように、「あ、そういうこと!」とルカが手を叩き言った。


「あんなに『子宮』を欲しがってたのは、もしかしてターナ様を『アナザーアース』で生き返らせようとしてたってことですか?」

「っ! そ、それは……」

「ちょい待ち、あたしたちにも分かるように説明しなさいよ。そのターナってのは、まず誰なの?」

「あぁ、別大陸出身のリリンさんとライアさんは知らないかもですね。ラファエル様にはターナ様という子がいたんです。結構な武闘派で、やんちゃ娘として有名だったんですが……魔物に受けた呪いのせいで、帰らぬ人に……」


 その話を聞いた瞬間、ママとターナとの出会いの日、二人の覚悟、そしてこれまでママが私に向けてくれた偽りの笑顔が思い出され、ぎゅぅ……と胸が締めつけられた。


「……そうです。私が『子宮』を求めていたのはターナを生き返らせるためです。命と大事なものを投げ打って助け出してくれたママとあの子のために、私はそうしなくちゃならないんです……」


 言ってしまってから、かなり際どい内容だったことに気づいた。

 それでも核心には触れていないから真実に気づくことはないだろう……そう思ったのだけど、ここにはライアの正体を見破ったルカがいた。


「あのぉ……間違っていたら本当に申し訳ないんですが……ミコナさん、まさかラファエル様の本当の子ではなかったりします?」


 私の肩がびくりと跳ね上がるのと一緒に、「何だって!?」「何を言ってるんですか!?」とリリンとライアも声を上げた。


「ラファエル様が瀕死のターナ様を救うために街を離れた後、ターナ様の亡骸とともに小さな子を連れて来たって話がガブリエル領でも話題になったんです。でも第二子の相手がどこの誰だとか、そもそも第二子を作ったという話を聞いたことがなかったものですから、『助け出してくれた』という言葉から色々と想像してしまいまして」


 私は『大切な家族』を救おうとしている、と思わせるつもりでそう言ったのだが……まいった、それが余計な一言になるとは……。

 誤魔化そうにも、ルカの目は確信に満ちていた。口には出していないが、きっと他にも様々な情報を持っているのだろう。


 でも肯定はできない。私の力の正体が世間に知られてしまったら、世界の均衡が崩れてしまう恐怖を世間に与えてしまう。だからこそ街の偉い人たちに口止めされ、私もママに迷惑をかけまいと隠してきた。


 だから否定しなければ。

 ママとターナの覚悟を隠さなければ。

 そう思って口を開くのだが……強い抵抗感と悲しみが沸き起こる。


 『円』は全然稼げず、それどころか減らすばかり。その上、ママたちの想いを存在しなかったことにするだって? 自分のミスでこうなったというのに、「いえ、私は本物の娘ですよ。何を言っているんですか」と大ぼらを吹くのか? ママとターナから幸せを奪い続けている偽物が、本物のフリをするだって?

 

 ……できなかった。

 そうするべきなのが最善だけど、私の心はそのおぞましさに耐えられなかった。


「私はママに……カエラ・ラファエルに拾われた孤児なんです。いや、孤児はまだ人らしさのある表現ですから……そう、実験動物というのが正確な表現かと思います」


 もう、ダメだった。焦燥感や不甲斐なさは自分が想像していた以上の重圧になっていたらしい。

 話を聞いて……お願いだから、ママたちを助けて――そんな思いで、私は言葉を紡いでしまう。


「聖天使を超える生物を生み出して、世界を支配しようとしてたやつらがいたんです……それが、何をどうしたらそうなったのか分かりませんが、『死者を蘇らせる研究している組織』という情報としてママの耳に入ったんです。それでママは……死に瀕していたターナを助けるため、藁にも縋る気持ちでその組織を頼ろうとしたんです……」


 三人は何も言わず、静かに、ただじっと耳を傾けていた。

 その冷静さが、何だか心地良かった。冷静に聞いてくれていると感じた途端、心が少し軽くなったような感じがした。


「でも、いざ見つけ出してみれば、その組織は聞いていたものとは違う極悪どもの巣窟……当然、ママはその組織を壊滅させました。そこで諦めて新たな方法を探っていたら違う未来があったのかもしれませんが……でも、そこには私がいたんです。人体実験でぼろぼろになっていた私を、見つけてしまったんです……」


 そこで一息吐くと、「人体実験……」とライアが信じられないといったニュアンスで呟いた。ルカとリリンも神妙な表情を浮かべている。


「そんな顔をしないでください。ほら見ての通り、私は生きてますし、傷もない綺麗な体をしています。ママが【紫紺の呪縛】という呪いを自身にかけてまで救おうとしてくれたおかげで、私は地獄から解放されたんですから……」


 顔を上げた三人は少しだけ表情を和らげて、小さく頷いてみせた。

 それからルカは、「それは本当に、心から良かったと思いますが……しかし、どうして【紫紺の呪縛】を自らに? 確か、記憶を封じる魔法ですよね?」と訊ねてくる。


「一番大切な記憶を封じ込めることで脳のリソースを増やし、『環境開発マシン』……つまり『魔法の源マナ』への干渉力を高めるためです。【紫紺の呪縛】は魔法の力を高める効果もあるんですよ」

「それは初耳です。でも、それで封じられる『一番大切な記憶』とは……」

「もちろん娘の……ターナの記憶です」

「そんな……どうしてそんな辛いことをしてまで魔法の力を高めたんですか?」


「ターナの体を分解し、私の体に移植するためです」

「え? 分解……移植?」

「私はターナの肉体を丸々取り込んでいるんですよ。だから失敗作だったはずの私はこうして機能している……組織のやつらが望んだように、魔法を好きなように扱えるわけです。ただ完全じゃないため、航空チケットを買って他の【聖天使】に接続しなくちゃ力は発揮できないんですがね……」


 その悔しさは三人には伝わらなかったようだ。どうやら『移植』の状況を想像しているらしく、揃って言葉を失っていた。


「……そういうわけで、私は『アナザーアース』でターナを復活させたいんです。もう一度ママに我が子と再会させてあげたいんです。だからこそ人体改造で得た『アナザーアース』より『加護』を獲得するこの力を、他のことに使いたくないんです……ターナを復活させるためのお金がなくなってしまうから……」


 ついに言ってしまった。はっきりと、三人のために力を使いたくないと言ってしまった。

 ……でもまあいいか、という気分だった。

 胸がいっぱいっぱいになってしまい、つい助けを求めるかのように真実を話してしまったが……義理も理由もないのだから応じてくれるはずもない。そしてパーティを組んでこんなに損をしてしまうのというのなら、一人でちまちま大人数クエストに参加していく方がマシだ。


 時間はかかるけど今よりはずっといい。苦労は増えるだろうけど……堪えてみせる。うん、だってそうしなければいけない恩があるんだもの。きっとやり遂げられる。やり遂げなくちゃ……いけないのだ。

 そうやって自身を励ましながらも、私は俯いてしまう。彼女たちの命より『円』を優先すると明言したのだから、みんながどんな表情をしているのかは想像に難くない。縁の切れた相手の顔を、わざわざ眺める必要もないだろう。

 ……そう思っていたのだが、


「もぉ、何でそんな大事なこと言わないですか、ミコナさぁん! 最初に言ってくれていたら色々と配慮できたのにぃ!」


 そんな泣き声が聞こえて、思わず顔を上げてしまう。

 ルカがぼろぼろと涙を零しながら拳を握り締めていた。


「そうよ、そうよ! そういうことなら、あたしたちのために使った分の『円』はあたしらで払うっつぅの! 何を馬鹿真面目に一人で背負い込んでのよもぉ!」


 リリンもまた、号泣して鼻をすすっていた。泣き過ぎて梅干しみたいな顔になっている。


「ごめんなさぁいぃ! ライアが暴走したせいで大切な『円』がぁぁあぁああっ! ライアが、ライアが全額弁償しますからぁぁぁあぁぁあっ! 元気出してください、ミコナさぁぁあん!」


 ライアは……くわっ! 鋭い牙を開き、眼下からどろどろと真紅の液体を流していた。これは……私を殺そうとしている、わけではないのだろうか?


「ええっと……みなさん 私いま結構酷いこと言ったと思うんですけど? みなさんよりお金が大事だって言ったの、理解してますか?」

「何が酷いもんですかぁ! そんな事情があるなら、そりゃ『円』が大事に決まってますよ!」

「ぐすっ……知らなかったとはいえ、あんたに頼って悪かったわね。これからミコナの魔法を頼った時は割り勘といきましょ。それならミコナも消費を抑えて、色んなクエストに参加できるじゃない」


「頼ってばかりじゃなくてライアも頑張りますよ! ミコナさんも、どんどんライアたちを頼ってください! というか力にならせてくださいよぉ!」

「いやあの……みなさんだって『円』が大事でしょう? こうしてクエストに来てるのも、『円』を増やすためじゃないですか。それなのに割り勘って……誰か別の一人をパーティに誘った方が効率的なのでは?」


 そう、別の人と組めば、何の損失もなく利益を得られるのだから、そうすればいいのだ。私と組み続ける意味はないはずである。

 だというのに、三人は泣きながらも呆れたような顔をしていた。


「何でって、友だちの力になりたいって思うのが人情ってもんでしょうが。そこに損得なんて存在しないのよ」


 ルカもライアも、うんうん、と頷いた。


「友だち、なんですか? 私たちって」


 私が言うと、三人は酷く困惑した表情を浮かべる。


「ちょっとミコナさぁん! ワタシたちのこと何だと思ってるんですかぁ?」

「あたしら『アナザーアース』で出会って半年よね? ずっと一緒だったわよね?」

「ええ、そうですよ! ずっと一緒だったのに、ミコナ先輩はライアたちのこと嫌ってたんですか!? どうでもいい、そこら辺の小石同然の存在だと思ってたんですか!?」

「そ、そういうわけじゃないんですが……だって私、親しい人はママしかいないですし、その前はずっと独りでしたから……友だちというものがどんなものか知らないんですよ」


 みじめな過去の話は思い出したくもないのだが、不思議なことにするりと口から出てきた。まるでどうでも良いことのように、それを口に出しても苦痛はなかった。

 ルカは、「そう、ですか」と呟くと、そっと微笑んだ。

 それを見て、「ルカってこんな大人だったっけ?」と私は思った。


「友だちの定義は、結局のところ人それぞれなんですよ。そしてワタシの場合は、好きだなって思えた人が友だちなんです。そしてですね、見つけたギフトカードを独り占めせず山分けしようとしてくれたり、こうして寒がっているワタシたちのために大事なものを犠牲にしてまで火を点けてくれるミコナさんが、ワタシは大好きです」


 傍に寄ってきたルカは、そっと私の頭に手を置いて撫でてきた。

 暖かくて、柔らかい手だった。


「あたしの友だちの定義は……特にないわね。こいつとは友だちって思ったら、そいつとはもう友だちよ。そんでミコナとは……んー、いつの間にかそういう気持ちになってたわ。何となく人が良さそうに感じてたのと、涎垂らして寝こけてる顔が可愛かったからかもしれないわね。だから、あんたの願いを叶えるのを手伝ってあげる。あたしにとっての友だちってのは、そういう関係なのよ」


 リリンも傍に寄ってきて、ルカと同じように私の頭を撫で……るかと思ったら、額を小突いて来た。何で!? と驚いたけど、彼女の確固たる意思を感じる強気な笑顔を見ると、怒る気持ちにはならなかった。


「ライアも、もちろんミコナ先輩のことが好きですよ! いつも静かにしてるのに、でも困ってると何だかんだ助けてくれますし、自分は注文するつもりがなくても誘ったらクレープ屋に付いて来てくれましたし……ライアは、ミコナ先輩が優しい人だって気づいてました。だから、ライアはミコナ先輩の傍にいたんです。ミコナ先輩と仲良くなりたかったから、傍にいたんです」

 そうしてライアも近づいてくると私の手を取り、「ライアも力になります。そして、ミコナ先輩もライアたちの力になってください。そうして、みんなでハッピーになりましょう」と言った。


「みなさん……わ、私は……」


 予想外の言葉、想像できなかった彼女たちの想いに、何と返したらいいのか分からない。

 『子宮』を手に入れたいという願いは私のものでしかないというのに、本当に彼女たちは助けになってくれるというのだろうか。圧倒的な力を持つ私を利用した方が彼女たちにメリットがあるだろうに、逆に私の力になろうだなんて……本当に、本気でそう思ってるのだろうか。


「んん……何だかミコナさん、体温高めなんですかね」


 ルカはそのように呟くと、ぎゅっと抱きしめてきた。


「あの、ルカ? 何やってるんですか?」

「いやぁこりゃいいですね! この寒さにはちょうど良い暖かさです!」

「ちょっと、勝手に人の体で暖を取らないでくださ――」

「どれどれ、あたしも……あ、ほんとだ、あったかい!」

「リリンまで!?」

「あ、いいなぁ、ライアもやりたい!」

「ぎにゃあああああっ!? 痛い、痛いっ! 鎧の尖ってる部分が刺さってます! 角度考えてください!」


 じゃなくて離れるように言うべきでは? 

 そう思ったが、すっかり組みつかれて離せそうにないし、心地良さそうな顔をしている三人に離れる気はないようである。

 やれやれ、と小さく息を吐きながら、体を包み込まれる感覚に意識を向ける。何だか懐かしい気分だ。

 ……そっと目を閉じ、過去を掘り返す。

 あぁ……そうだ。この暖かさ……あの時と一緒だ。人体実験場でママと出会い、「もう大丈夫よ」と抱きしめてもらった時の暖かさと同じだ。

今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)


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