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「リリンさん。それ、『メタトロニオスの鎧』ですよね?」
「……知識人のルカ先輩には分かっちゃいますよね。というか、前々からライアの正体に気づいてたのでは?」
「ええ、まあ……【封魔武器】を使っているってことは純人種なのだろうし、パーティ結成後の初めての会議で『朱金章』を頂いたみたいなことを口走ってたじゃないですか。純人種で『朱金章』持ちは現状ただ一人しかいませんから」
「やっぱり、あれが決めてでしたか……まあ、パーティを組む以上、いずれ明かさなくちゃいけないと思ってたので、改めて自己紹介させてもらいます」
膝を抱えていたライアは正座に座り直し、背筋を伸ばすと私たち全員の顔を見まわした。
「ライアの本名は、ライオット・ウェルグランドと言います。純人種が住まうメタトロン領の王家、ウェルグランドの……一応、第一王女です。訳あって家出しまして、その立場が今も生きているかどうかは不明なんですがね」
ぼんやり聞いていた私は一度「へぇ、王女だったのかぁ」と聞き流したが、
「えっ!? 王女……って、確か物凄くお偉い人の家の生まれってことですよね?」
「純人種たちのコミュニティの中で最も権威がありますが、【聖天使】様の御子であるミコナ先輩の方が立場は上ですよ。何せ、【聖天使】様こそがこの世界の頂点なんですから」
「いやぁ、どうでしょう。私はそういう感じでもないんですが……」
「謙遜、というわけでもないのかな? 街の人たちから、フランクというか、ぞんざいな扱い受けてますもんね。普通、【聖天使】様の御子は宝物のように扱われるはずですけども。ラファエル領ではフレンドリーに接するのが習わしなんですか?」
「いえ、そういうわけでは……私は、少し特殊な立場にいるものでして……」
どこまで説明するべきか考えていたところ、「お、お、お前かぁああああっ!!」とリリンがワナワナ震えながら大声を上げた。
「『メタトロニオスの鎧』を着てるってことは、あんた勇者じゃない!! 大戦時にはよくもやってくれたわね!? まだ子どもだったあたしを容赦なくボコりやがって、このぉ!!」
「えっ、あの人魔大戦でライアたち出会ってたんですか? ………………、あっ、子どもと言えば、小さな魔族から『箱舟』を見つけた遺跡の情報を聞き出した記憶がありますねぇ。えーっと……まさかあれ、リリン先輩だったり?」
「そうよあたしよ、この鬼畜ッ! 子ども相手に全力出しやがってぇ!」
「そうは言っても、かなり手こずった記憶ありますよ? そりゃ強い相手には手加減できませんって。お互いさまと言うものです」
「はぁ……はぁ……それは確かにその通りではある……! ぐぬぬぬっ……! はぁ……いいわ、あの時のことは水に流しましょう。あたしも腹括って戦ったんだしね。ところで、どうして今はそんな見た目してるのよ? あんな綺麗な純白の鎧だったのに」
リリンに問いを向けられた途端、ライアは正座を崩して再び膝を抱えた。何やらどんよりとした空気を放ち始める。
「ライア、騙されたんです……」
「騙された? 誰によ?」
「実の父ですよ……ライアは女の子なのに、ちょっと背が高くて、中世的な顔をしてるからって、作れなかった男の子として扱われていたんです。でも本当は綺麗なドレスを着て、可愛いねって言ってもらいたかったのに、戦闘技術を叩き込まれて、戦士に仕立て上げられて、仕舞いには魔族を倒して来いって言うんですよ?」
なるほど、その強さと性格のギャップはそういう事情から生まれたのか。
ルカもリリンも腑に落ちたような顔を浮かべており、きっと慰めの言葉をかけようとしたのだろう。二人の口がほんの少し開く。
だが、出てきたのは「ん?」という困惑の声。それから彼女たちは目をゆっくりと見開いた。
「約束したんですよ……大戦を勝利に導けば、ドレスを買って、王女として扱ってくれるって……なのに父はその約束を反故にして、ライアを勝手に戦士長へ任命しちゃったんです……ライアは女の子なのに、もっと戦えって言うんですよ……ライアはそれが腹立たしくて、父が憎くて、仕方がなかった……」
そのゴツゴツとした黒い鎧が、ドクン、と脈打った。
肩が徐々に膨れ上がり、ライアの体が変形していく。
「ライ、アは……わたしは……ただ、あるがままに生きたかっただけなのに……ただ、ドレスを一着用意してくれるだけで良かったのに……なのに、父は……あの男は……ううっ……ヴヴヴヴヴヴヴッ!! グゥゥゥゥゥゥッゥゥゥルルルルルゥオァッ!!」
ライアはあっという間に見上げるほどの巨体となり、牙を剥き出す獣になってしまった。
呆然としている私たちの前で獣化したライアは猛々しく吠え、狼によく似た頭を壁に打ちつけた。ドスンッ!! と衝撃が尻を直撃し、私たちは跳ね飛ぶように立ち上がる。
「おおおおお落ちついて、落ち着いてライアさん! 『箱舟』が落ちてきちゃってます! このままじゃ潰されちゃいますよぉ!」
「ミコナァ! お願い何とかして! あんなに暴れられたらあたしたちじゃどうにもできないわ!」
「いいいいいや、私に頼られてもどうしたらいいのか――ひっ!?」
『箱舟』が真横に落ちてきて、危うく押しつぶされるところだった。私は頭をフル回転させ、急いで魔法を唱える。
「スキル【水龍の降下LvⅠ】、【雷神の鉄槌LvⅠ】、連続発動!」
上空に生み出した水を暴れ狂うライアにぶっかけ、雷を降らせる。ライアはビクン!! と跳ねると、力なく地面に伏した。
どうせ上手く発動できないからと最初から低威力で放ったのだが、水と電撃を組み合わせれば威力は高まる。狙い通り効果があったようで、「んん……あれ?」と再び動き出したライアの声には知性が戻っており、みるみるうちに元のサイズに戻っていく。
「ご、ごめんなさい! ライア、今変身して暴れてましたよね……?」
「ええ、危うく死にかけましたよ。私が何とか止めましたが……くぅぅ、また出費が……!」
『守護者』を前に躊躇ってしまった罪悪感。あの時さっさと魔法を使って片をつけておけば安上りだったかもしれないという事実への苛立ち。その二つは混ざり合い、心の中をぐちゃぐちゃに?きまわす。私は股から尻尾を引っ張り出すと心を落ち着けるために舐め始めた。
ペロペロペロペロペロペロ、ペロ、ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロッ!! ん、くんくん……ぶちっ、ぶちちっ……ブチチィッ!! ンペロペロペロペロペロ!! ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペ――
「ミコナさん? ミコナさぁん! 尻尾びちゃびちゃですよぉ!」
「あのぉ、ミコナ先輩? どうしちゃったんですか? すみません、ライアの心が弱いせいで、酷い目に合わせちゃいましたね……」
「ちょ長い、長い! 落ち着きなさいよ、ミコナ! みんな無事だったんだから、それでいいじゃないのよ」
「無事? 無事じゃないですよ、全然まったくもって!! 今日だけで凄まじい額が減っちゃったんですよ!!」
三人はきょとんとし、顔を見合わせた。「額って?」とリリンが代表して訊ねてくる。
追及されるかもしれないけど、ここで止めておくことはできた。だけど、思わず隠していた真実が口から一滴零れてしまうと止められなくなってしまった。自分の中に溜めに溜めてきた憤りや悲しみ、焦燥などが溢れ返って感情を爆発させてしまう。
「私の魔法は『円』を使うんです!! 私の肉体は『アナザーアース』に接続されていて、航空チケットを買うことで【聖天使】たちの『加護』を得ていたんですよ!! でもあの『円』はママと『ターナ』のためのものなのに……減るばっかりで全然増えやしない!!」
今後何作か完結作品を投稿予定。奈坂秋吾ツイッター(@nasaka_syugo2)
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